《人生は変えられる》「最初は小さな一歩でいい」90歳を迎えた今もなお美容研究家として活躍する小林照子さんが説く、豊かな人生を送るコツ
<自分の知識と経験と知恵をきちんと伝えていく。それが「先に生まれた者」の務めなのです>
どんな人でも、その人生の中でさまざまなことを経験し、学んできたことがあるはずです。主婦の方なら、ご近所とのじょうずなつきあい方、子育てのベテランのおかあさんなら、おかあさん同士のじょうずな距離の保ち方、夏の暑いときでもいたまない、子どものお弁当のつくり方。いま親御さんの介護をされている方なら、親御さんのじょうずな励まし方。それぞれの方が、それぞれの人生の中で学んできたことはたくさんあると思います。
自分が経験し、得た知恵はそのままにしないで、次の世代にきちんと伝えていくことが大切です。自分の子ども、孫、知人、友人。次の世代を生きる人たちに。あるいはまだその経験をしていないけれど、やがてはその経験を必ずするであろう人たちに、その人たちが少しでも生きやすくなるように、知恵を伝えていくことは、先に生まれた者の務めであると、私は考えます。
これは仕事においてもそうです。仕事において自分が得た知識、知恵を次の世代に与え、次の世代を育てていくことは、新しい世界を構築していく力の源になるはずです。
自分の足跡を残すとか、自分の名前を残すなどということに執着をする必要はありません。自分がやってきたことがそのまま次の世代の人たちの役に立つ、などということはあり得ないのですから。
なぜでしょうか。それは、「時代は必ず変わる」からです。未来には確実に、いまと違う時代がきているからです。そこに「現時点」でのメソッドをあてはめようとしても、もう何の役にも立たない。むしろ不要であり、ただの重荷にしかなりません。そうなってしまっては本末転倒です。
次の世代に残し、託すべきなのは、その原点にある思想や考え方です。自分たちがどんな思いで、その産業を、その分野を発展させてきたか。根幹にある主義(イズム)をきちんと伝えていければ、それでいいのです。
私は70年、美容の世界で生きてまいりました。肌だけではなく、人間の肌とメンタル(心理状態)の相乗効果を研究していくのが、私のイズムです。これをきちんと次の世代に伝えることができれば、あとは新しい人たちが、時代に合わせて新しいものをその上に積み重ねていってくれることでしょう。
私は最近、「私はいま、地球におじゃましているだけ」という気持ちになるのです。遠いところからやってきて、ちょっと地球に居候。でも、また時がきたら、地球から離れて、遠いところに戻っていく。地球から離れていくなら、地球を汚さないようにしよう、去るときは風のように去っていこう。そんなふうに思います。
長い長い人生でした。
でも、まだもう少し続くようです。
この命のあるかぎり、新しい世代の人たちが「生きやすくなる」よう、波乱万丈だった私の人生の知恵を、これからもお伝えしていきたいと思っています。