腎臓と心臓の深い関係性を腎臓の名医が解説【腎機能障害を見極めるセルフチェック表付き】
紅麹サプリによる健康被害でクローズアップされた「腎機能障害」。腎機能が低下した状態が長引き、慢性腎臓病になると心血管疾患のリスクが高まるという。腎臓治療に生涯を捧げ、腎臓に関するベストセラーの著者でもある東北大学名誉教授に腎機能の低下を見極める方法を教えてもらった。
教えてくれた人
上月正博さん
腎臓専門医、東北大学名誉教授・山形県立保健医療大学学長
年を重ねるほど罹りやすい慢性腎臓病の恐怖
「沈黙の臓器」と呼ばれる腎臓は機能低下を自覚しにくく、気づいた時には重病が進行中ーーといったケースが散見される。
都内在住の60代男性・A氏もその一人だった。
「健康診断で血圧や血糖値がやや高めでしたが、特に不調を感じることもなかったので、長いこと対策することなく放置していました。ただ、今年に入って尿がずいぶん泡立つなぁと感じることがあって、徐々に体がむくんで指輪がきつくなり、だるさも覚えるようになって……。さすがにおかしいと病院に行くと『慢性腎臓病』と診断され、医師から『このまま放置していたら人工透析だった』と告げられました」
腎臓は体の左右それぞれ背中側の腰上に位置する臓器。血液中の老廃物、水分、塩分、尿酸などをろ過して尿として体外に排泄するほか、血圧のコントロールなどを担う。
東北大学名誉教授で山形県立保健医療大学学長の上月正博(こうづきまさひろ)さん(腎臓専門医)が指摘する。
「慢性腎臓病は1つの病気を指す病名ではなく、糖尿病による糖尿病性腎症や高血圧が引き起こす腎硬化症など、腎機能低下が3か月を越えて継続した状態を指します。高齢になるほど罹患率が高く、70代は3人に1人、80代は2人に1人が該当します」
腎機能の悪化は心血管疾患のリスクを高める
上月さんはこれまで日本腎臓リハビリテーション学会や国際腎臓リハビリテーション学会の理事長を歴任。心臓・腎臓分野の研究で多大な貢献を果たした医学者に贈られるハンス・セリエ記念メダルを受賞し、腎臓に関する数多くのベストセラーを著書に持つ、日本の「腎臓リハビリ治療の父」ともいえる医師である。
その上月さんが「慢性腎臓病は新たな国民病になりつつある」と話すように、患者は年々増加。現在の推定患者数は1480万人とされる(日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD治療ガイドライン2023」)。
「腎臓病は自覚症状がないまま進行し、末期腎不全になると人工透析か腎移植が必要になります。透析に移行する前に脳卒中や心筋梗塞などで亡くなる方も多い。腎臓と心臓は『心腎連関』といい、密接に関係しているため腎機能の悪化は心臓にも影響を与え、命に関わる心血管疾患のリスクが高まります」(上月さん。以下「 」内は同じ)
九州大学が行なった1988〜2000年の12年間の観察研究(「久山町研究」)では、慢性腎臓病を患っている群はそうでない群と比べて心血管疾患の発症率が約3倍高かった。「糖尿病性腎症の人は、がんを患いやすいという報告もあります」と上月さんは指摘する。
「夜間に2回以上のトイレ、尿が泡立つ、足がむくんで靴が履きにくい、すぐに息切れするといった症状があれば病院で検査を受けてください。尿検査と血液検査で『たんぱく』『クレアチニン』『eGFR』という数値が基準値を上回ると慢性腎臓病と診断されます」
下記の表のセルフチェックで該当する項目がある場合は、腎機能の低下が疑われるという。まずはチェックを!
まずは自分の腎臓の状況を見極めよう!腎機能低下の「セルフチェック」
□ 年齢が50歳以上である
□ 揚げ物や脂っこい食べ物が好き
□ アルコールが好きで毎日お酒を飲む
□ 夜間に2回以上トイレに行く
□ 尿が泡立つ、または色が濃い
□ 水分を摂っているのに尿の量が少ない
□ 指輪や靴がきつい
□ 少しの運動で息切れする
□ 最近汗をかかなくなった
□ 親戚に腎臓病になった人がいる
写真/PIXTA
※週刊ポスト2024年11月1日号
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