老化の新常識・非常識「コレステロール値は低いほうが健康か」「60代以上はダイエットより小太り」専門家が解説
医療の進歩とともに、健康の常識は刻々と変わりつつある。「古い常識」を信じ続けていると、かえって健康に悪影響を及ぼす可能性もあるため危険だ。いまさら聞けない健康の常識・非常識を専門家に解説してもらった。
教えてくれた人
大櫛陽一さん/東海大学名誉教授(医学統計学)
和田秀樹さん/精神科医
鈴木隆雄さん/国立長寿医療研究センター理事長特任補佐
「コレステロール値は低いほうがいい」は古い常識?
コレステロール値は「低いほうが良い」とされてきた数値のひとつだ。
脂質異常症の診断基準となる中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロールのうち、「悪玉」とされるLDLコレステロールの数値を下げようとする人は多い。多数の健康被害が報告された小林製薬のサプリ「紅麹コレステヘルプ」も、LDLコレステロールを下げることを謳った商品だった。
日本人間ドック学会・予防医療学会が定めたLDLコレステロールの基準範囲は「60~119mg/dL」だが、この基準では「LDLコレステロール値の下げすぎになる」と示す研究結果が出た。
デンマーク・コペンハーゲン大学病院の研究チームが20年に英医学誌『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』に発表した研究では、総死亡率が最も低くなるLDLコレステロール値は「140mg/dL」程度との結果が示された。
日本の研究でも同様の結果が出ている。東海大学名誉教授(医学統計学)の大櫛陽一氏らが、神奈川県伊勢原市の男女約2万6000人を対象に平均8.1年にわたって行なった追跡調査によると、男性の場合、LDLコレステロール値は「80mg/dL未満」の群が最も死亡率が高く、基準範囲を超えた「140~159mg/dL」の群が最も死亡率が低かった。
大櫛氏が説明する。
「LDLコレステロールは『悪玉』と言われますが、実は体内で重要な役割を果たしています。コレステロールは細胞膜や神経細胞、ホルモン、骨を作るビタミンDなどの原料として必須の成分であり、LDLコレステロールはそれらを各細胞に運んでいるのです。そのため、140~159mg/dL程度のほうが身体に良いと考えられます」
LDLコレステロールは動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳卒中などの原因になるとされるが、大櫛氏はこう説明する。
「私たちの研究では、遺伝性の高コレステロール血症の人などを除けば、男性ではコレステロール値が180mg/dL程度まで心筋梗塞などによる死亡リスクが上昇しないことがわかりました。
また、脳卒中のリスクも、LDLコレステロールまたは総コレステロールが高い人のほうが下がることが明らかになっています」
LDLコレステロール値が低いと老化やがんの発症に影響も
『「健康常識」という大嘘』の著書がある精神科医の和田秀樹医師も、「LDLコレステロールには傷ついた血管を修復して頑丈にするはたらきがあり、ウイルスなどを退治する『免疫細胞』や男性ホルモン、女性ホルモンの材料にもなります。
そのLDLコレステロールを下げることは老化につながると言えます」としたうえで、コレステロール値の下げすぎと「がん」のリスクについて指摘する。
「アメリカの大規模調査『フラミンガム研究』の13年補正版によれば、40才以上ではコレステロール値が高いほうが、がんによる死亡率も低いことがわかっています」
過度にコレステロール値を下げようとしている人は注意が必要だ。