まだまだ要注意!高齢者や介護中の人が留意すべき「脱水」と正しい対処法「経口補水液の使い方が間違っている人も」【管理栄養士解説】
9月に入っても暑い日が続いている。高齢者や介護が必要なかたは、水分不足よる脱水に注意が必要だ。介護施設で高齢者に向けた栄養サポートなどを行っている管理栄養士の川鍋仁美さんは、「夏場、熱中症や脱水予防のために経口補水液を飲んでいるという高齢者がいるるが、これは間違い」だという。正しい脱水予防の対策について教えてもらった。
教えてくれた人/管理栄養士・川鍋仁美さん
管理栄養士。2児の母。大学卒業後、総合病院に勤務。介護食・嚥下食などの献立作成や栄養相談など行ってきた経験を活かし、現在はデイサービスで高齢者の栄養サポートなどを行う。介護する人もされる人も笑顔になれる「介護食作り」を目指し、活動中。「管理栄養士が伝授!いちばんやさしい介護食ガイド」の運営・執筆も手がける。https://eiyousupport.com/
「脱水」は夏だけじゃない!高齢者は通年注意
「脱水」は、汗をかきやすい暑い時期に多いと思われがちですが、実は年間を通し注意が必要です。とくに高齢者の場合は、体内の水分バランスが崩れやすく、脱水になりやすいといわれています。
脱水状態をそのまま放置していると、最悪の場合には命を落とすこともあるので日頃から意識して予防することが大切です。
高齢者が脱水になりやすい理由
高齢者はとくに注意すべき「脱水」について、原因や対策を解説します。
・体内水分量の減少
成人の身体に占める水分の割合は約60%です。しかし高齢者の場合は成人よりも10%少なく、約50%程度といわれています。体内の水分の多くは筋肉に含まれていますが、高齢になると筋肉量が少なくなるため、体内に水分を保ちにくく脱水を起こしやすい状態になるといえます。
・摂取する水分量の減少
私たちが普段食べている固形の食事にも水分は含まれています。食事の摂取量が減ってきている高齢者は、成人よりも食事由来の水分摂取量が減少している状態です。
また、高齢者の中には、「失禁やトイレに行く回数を減らしたい」という思いから、水分摂取を我慢してしまうという声もよく聞きます。
また、高齢になると、のどの渇きなどを感じる感覚機能が低下するケースもあるようです。そのため、水分補給がおろそかになり脱水を起こしやすくなります。
・加齢による問題
腎臓は体内の水分管理の働きをしています。加齢により腎臓機能が低下してくると、身体の老廃物を排泄するためにたくさんの水分(尿)を必要とするため、体内の水分が減少しやすく、脱水を起こしやすい状態になることが考えられます。
このほか、高齢者は薬を服用されているかたも多いでしょう。薬の利尿作用によって体内の水分量が減り、脱水を起こしやすくなるというケースもあるようです。
高齢者に多い脱水の原因と兆候
高齢者は脱水になっていても自分ではなかなか気がつきにくいため、周囲にいる介護者がどんな症状がおこるのか知っておくことが大切です。
脱水とは、体内の水分や塩分※(ナトリウムやカリウムなどの電解質)が減少した状態で、主に3つの原因が考えられます。
・塩分不足
・水分不足
・塩分と水分の両方が不足している
体に必要な塩分が失われて起きる脱水の場合、のどの渇きや口の中の乾燥がみられないケースが多く、本人も介護者も脱水症に気づきにくいとされています。
高齢者に多いのは、塩分も水分も両方が不足して起きる脱水で、のどの渇きや口の中の乾燥、食欲不振や倦怠感、嘔吐、めまいなどの症状がみられます。明かな脱水症状が見られる場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
ボーッとしてうとうとしている、いつもより排尿回数が減っている、尿の色が濃くなっているなど脱水の兆候がある場合には注意が必要です。
症状が軽い場合には、涼しい場所に移動して「経口補水液」を飲んでもらうことで対処する方法もあります。
経口補水液の選び方と活用のポイント
脱水時に利用するのは、一般的なスポーツドリンクではなく、経口補水液を選ぶこと。経口補水液には、脱水時に体内から失われた水と電解質を素早く吸収できるように、水分のほか、塩分やブドウ糖などが含まれています。
なお、経口補水液は、令和5年から国の制度で定められた「特別用途食品」※に認定されています。
特別用途食品とは、乳児の発育や、妊産婦、授乳婦、えん下困難者、病者などの健康の保持・回復などに適するという食品のことで、認定マークの表示が義務づけられています。経口補水液は、特別用途食品の中でも「病者用食品」に指定されています。ドラッグストアなどで通年販売されているので、常備しておくことをおすすめします。
※消費者庁「特別用途食品について」https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_special_dietary_uses/
夏場の栄養相談で高齢者のかたにお話しを伺うと、脱水予防のために経口補水液を常用しているというかたが時々いらっしゃいます。
経口補水液 は、脱水症が「疑われる」場合に使用するもので、予防のために飲用するものではありません。日常的に飲用すると、塩分や糖分の過剰摂取に繋がるケースもあるので注意が必要です。
経口補水液は自宅でも作ることができます。経口補水液のストックがなかったときに備え、冷蔵庫にレシピを貼っておくなど、すぐに作れるようにしておくといいかもしれません。
【ペットボトルで手軽に作る経口補水液の作り方】
・水:ペットボトル500ml
・砂糖:20g(ペットボトルキャップ3杯)
・塩:1.5g(ひとつまみ)
・お好みでレモン汁 少々
材料をペットボトルに入れてよく振り混ぜる。計量スプーンを使わず、ペットボトルのキャップで3杯すくうと、砂糖約20gに相当します。
なお、冷蔵庫で保管し当日中に使用し、残ったものは廃棄しましょう。