「高齢の母に安心して湯船に浸かって欲しい」入浴補助用具の選び方・おすすめアイテムを専門家が指南
今、記者の願いは「母(90代)が安心して湯船に浸かって欲しい」というもの。母は浴室で転ぶのが怖いようで浴槽に入らずにシャワーだけで済ませている。そんな母の入浴をサポートしてくれるアイテムはないだろうか?福祉用具の山上智史さんに話を伺った。
教えてくれた人
福祉用具専門相談員・山上智史さん
介護福祉士や住環境コーディネーターなどの資格を持ち、福祉用具貸与事業所「K-WORKER」、便利屋事業(住まいるサポート)の管理者を務める。福祉用具専門相談員としての現場経験をいかした「高齢者在宅の自立支援・介助者負担の軽減を目的とした介適環境づくり」を実践。行動心理士でもあり、介護を必要とする人・介護する人の双方に寄り添ったアドバイスを心掛けている。https://k-worker.co.jp/
高齢者が安心して入浴するためのアイテム
母が安心して湯船に入れるようにサポートする介護用の浴室アイテムとは、どんなものがあるのだろうか?
「お風呂で介護用に使うアイテムのことを“入浴補助用具”といいます。入浴補助用具には、介護用品や福祉用具には、介護保険サービスが適用対象になるものと、適用外のものがあります。
介護保険適用のものは、本人の所得に応じて1~3割の負担で購入するか、レンタルすることができます。浴室で使うものは体が直接触れる衛生用品のため、レンタルはできず、購入になるものが多いです。
事業所によっては、購入する前にお試しできるものもありますので、お住まいの地域の福祉用具の事業所に確認してみてください」(以下、山上さん)
浴室の介護保険適用・適用外アイテム
介護保険適用
購入:シャワーチェア(浴室用のイス)、シャワーキャリー(入浴用車イス)、浴槽用手すり、浴槽内イス、浴室内すのこ、浴槽用すのこ、入浴介助用ベルト、バスボード(浴槽に付ける移乗台) など
レンタル:浴槽用手すり(自治体による)、バスリフト(浴槽内昇降機) など
手すり設置や浴室改修など工事を伴うものは住宅改修扱いとなり、自治体によっては補助が出るので確認を。
介護保険適用外
購入:すべり止めマット など
レンタル可:水場用置き型手すり(自治体による) など
入浴補助用具の選び方のポイント
選ぶ際に気をつけなくてはならないのは、「今の浴室環境や利用者の心身の状態、ニーズに合わせて選ぶこと」だという。
「福祉用具専門員がご自宅に伺い、ご家庭の浴室環境や利用者様の体の状況や介助者の負担軽減を考慮しながら一緒に選ぶのが安心ですね」
シャワーチェアは、足腰が弱くなったかたが安定して腰かけられる便利なアイテム。立ち上がりやすいようにある程度の高さがあるほうが使いやすいですよ。
イスの座面にゴムシートが貼られているものや、脚先にゴムカバーが付けられるものなどすべりにくい仕様になっているものがあります。背もたれやひじ掛けが必要かどうか、利用者さんの状態に合わせて選ぶといいでしょう。
また、手すりはどこにどのような形状のものがあれば便利なのか、浴槽に入るために何を備えればいいのかを考えながら選ぶようにしてください」
浴室まわりおすすめアイテム5選
山上さんが実際に入浴の現場で使ってみて便利だったという商品を教えてもらった。編集部が注目するアイテムも合わせて特徴を紹介する。
上記で解説したように、入浴アイテムは購入する場合とレンタルできる場合がある。気になる商品があった場合、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談してみよう。
※価格はメーカー希望小売価格(税込)。介護保険利用時の価格はすべて1割負担の人の場合。事業所により価格は異なる場合があるのでご確認ください。
ユニットバスに簡単に取り付け可能な手すり
『マスカット』ホクメイ
ユニットバスに取り付けできる縦型のポールタイプの手すり。必要に応じて付属パーツを付けて利用する。浴槽に正面から入るとき、横向きで入る側方マタギのときや立ち座りのときなどの動作をサポートしてくれる。
「立ち座り、浴槽をまたぐ、体を洗うときの体勢の安定などが、1本で行えるので便利です。自治体によってレンタル・購入の対応が違うので注意してください。私の事業所がある新宿では購入となります」
【データ】
『マスカットポールタイプⅡ』ホクメイ
価格/4万4000円~5万7200円※
介護保険利用の場合/約4400円~5720円※
※設置や付属パーツにより価格は変わります。
http://dipper-hokumei.co.jp/products/muscat/
浴槽に入るのをサポートするバスリフト
『バスリフト』TOTO
リモコン操作により電動で浴槽内を上下するバスリフト(浴槽内昇降機)。座ったままの姿勢で浴槽の最下部までシートが下りるので、安心して入浴できる。立ち上がる動作のサポートもしやすく、入浴介助の負担の軽減に繋がる。
「入浴介助で一番大変なのが、浴槽からの立ち上がりを支えること。狭い浴槽の中で利用者もケアする人もともに苦労しています。
浴槽内に椅子を置くと立ち上がりはしやすくなりますが、肩までお湯に浸かることができずに悩ましいところ。こうした悩みが、バスリフトを使うことで解消できます」
【データ】
『バスリフト』TOTO
価格/46万6400円
レンタル代(介護保険適用の場合)/約1500円/月
※バスリフトはレンタルのみ介護保険の対象です。
jp.toto.com/products/ud/bathlift/
折りたたみ式のシャワーチェア
『ユクリア AirミドルSPワンタッチ』パナソニック
ワンタッチで折りたたみができる軽量のシャワーチェア。コンパクト~ワイドまでとサイズも豊富。従来品ユクリアシリーズに防かび・汚れ防止機能が加わり、5kgから3.5㎏(ミドルの場合)へと軽量化を実現。折りたたみ幅も13㎝に縮小となり、浴室スペースをより確保できるようになった。
昨年2023年8月には抗菌機能も加わったプレミアムタイプも発売。
「軽くて安定性が良く、背もたれ・ひじ掛けのあるなしなど種類も豊富なので、浴室環境や体の状態に合わせた商品を選べます。
折りたたみ式のものは各社ありますが、中でも背もたれ側にワンタッチレバーがついているので介助者が操作しやすいのも特徴です。ワンタッチ機能があると介助者が利用者様の体を支えたり、利用者様が手すりを持ちながらご自身で折りたたむこともできるのでより安全です」
【データ】
『ユクリア AirミドルSPワンタッチ』パナソニック
価格/約3万6300円
介護保険利用の場合/約3630円
※『ユクリア AirミドルSPワンタッチ プレミアム』は別価格となります。
https://sumai.panasonic.jp/agefree/products/bath/yukuria-air/
浴槽内で安定して座れるイス
『テイコブ 浴槽台(中)』幸和製作所
浴槽の中ではイスとして、また浴槽への出入りの踏み台としても使える。座面と脚には天然ゴムが付けられ、すべりにくく安定した設計になっている。サイズは小・中と2種類からニーズに合わせて選べる。
「浴室と浴槽との高低差を少なくできるので、またぐ際に無理な体勢になりにくくなります。天板部分のパッドはクッション性があり体を傷つけにくく、手入れも取り外して洗うことができるので衛生的です」
【データ】
『テイコブ 浴槽台(中)13』幸和製作所
価格/2万3650円
介護保険利用の場合/約2365円
https://kowa-seisakusho.co.jp/tacaof/products/
浴室・浴槽用すべり止めマット
『おく楽すべり止めマット AR』アロン化成 安寿シリーズ
浴槽の底に置くだけで、体を安定させられるすべり止めマット。新素材使用で従来品より劣化耐性が約70%アップ(同社比)。浴槽の床面幅やカーブに合わせてカットして設置できる。洗い場や足の出入り口などにも併用できるので、使い勝手もいい。
「浴室用マットは、すべりにくいことはもちろんですが、高齢者にとって視認性のいい赤や青などはっきりとした色を選ぶことも大事です。マットの色は、浴室や浴槽の色と異なる色を選ぶといいでしょう」
【データ】
『おく楽すべり止めマット AR』アロン化成 安寿シリーズ
価格/5500円(小)、5720円(中)、6600円(大)
https://www.aronkasei.co.jp/anju/products/
浴室環境を整えるうえで大切なこと【まとめ】
「在宅介護においては、家の中の危険な要素をなるべく早く察知し、事故を未然に防ぐ手段をとっておくことが大切です。それは利用者のかたに不安な気持ちや恐怖心が芽生える前に行うことが必要です。
介護生活に福祉用具を採り入れることは、『物理的な事故の防止』だけでなく『心理的な安心』にもつながります。便利なアイテムはたくさんあるので、ケアマネさんや福祉用具専門員に相談して、ぜひ活用してみてください。
入浴は介護される人にとっても介助するご家族にとっても労力がいる作業。役立つアイテムを上手に採り入れることで、ご本人の入浴がラクに楽しくなると思います」
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山上さんのお話を伺って、便利なアイテムを使えば「母がゆったりと安心して湯船に入れるかもしれない」とわかった。さっそく介護保険を利用して、90代の母のために縦型タイプの手すりや浴槽台などの購入を検討したい。
取材・文/本上夕貴
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