終活トレンド最前線|棺桶準備、骨壺陶芸教室…。終活で人生が輝くことも
年々その認知度を高め、一般的な言葉になりつつある“終活”。NHKの連続テレビ小説「まんぷく」で登場した生前葬も終活のひとつ。近頃は、終活の一環で自分のお気に入りの棺桶を生前に選んでおく人も増えてきているという。
残された家族も故人にあった棺桶を選びたいところだが、値段もピンキリで、何度も購入するものではないので迷ってしまう。そこで今回は最近の“棺桶事情”をチェック。あわせて世代・トレンド評論家として多くの著書を世に送り出し、テレビなどでも活躍している牛窪恵さんに終活のトレンドや注意すべきことについて聞いてみた。
棺桶に入る入棺体験や霊園ツアー。陶芸教室で自分の骨壷を作る人も
「エンディングノートのセミナーや終活関連のイベントでは、明るく前向きな姿勢の独身の女性の姿も目立ちます」と牛窪さんは語る。元気なうちから終の棲家を探すために介護施設の見学を重ねている人もいるという。棺桶に入る“入棺体験”も人気だ。
「女性の場合は、40代からエンディングノートのセミナーに参加するなど終活を始める方がいらっしゃいます。入棺体験や霊園ツアーも人気です。そこで知らない人同士がつながって、お友達になって、安心感を得ている方々もいらっしゃいます。女性だと死に装束を選ぶ方もいますね。着物ではなくドレスを着たい方のための専門ブティックがあり、ファッションショーもあります。自分の骨壷を陶芸教室に通って作っていらっしゃる方も。女性の方がそういった流行りにも敏感で、足を運んでいる方が多い印象です」(牛窪さん 以下「」は牛窪さん)
バルーンで散骨、宇宙葬、遺灰で樹木を育てるキットも
お墓の維持も社会問題になりつつある。牛窪さんによると、先祖代々のお墓ではなく、友人と一緒に埋葬されることを願うケースもあるという。また、子どもに負担をかけたくないという気持ちがあったり、子どもがいないためにお墓を維持できないという理由で従来のお墓の形を選ばないケースも。
「男性は散骨にこだわる人が多いですね。海洋散骨や樹木葬の他に、巨大バルーンに遺灰を載せ、高度40~50kmの成層圏で散骨する“バルーン葬”や、遺骨をカプセルに納めてロケットに載せる“宇宙葬”のような夢のあるものが、男性には人気のようです。遺灰で樹木を育てるキットもあります」
お気に入りの写真を遺影にするために、毎年写真館に新しいものを撮りに行っている人もいるという。
他にもVR(バーチャルリアリティ)で“死者目線”で葬儀体験ができるサービスも登場。今後も様々な終活関連サービスが生まれてきそうだ。
Amazonでも買える棺桶。檜の総彫刻は300万円超え!
葬儀について決めておくことも終活には欠かせない。葬儀に必ず必要となる棺桶だが、なんと今、インターネット通販のAmazonでも棺桶を買うことができる。
気になる値段だが、Amazon(2019年4月23日現在)で最も安いものは1万8700円、最も高いもので6万2073円。意外と手を出しやすいと感じた人も多いのではないだろうか。そこで気になるのは高級品の存在。葬儀社アーバンフューネスのホームページによると、最も高価な「檜平インロー総彫刻」は316万4400円。海外と違い日本では火葬するのだから…と思うかどうかはそれぞれの価値観か。
値段の違いは材質や彫刻の有無などによるもの。檜か桐か、彫刻が施されている面数、板の厚みはどのくらいか。このような要素で値段が大きく変わってくる。キリスト教に合うキリスト棺もある。
他にもアーバンフューネスが取り扱っている「エコ棺」という間伐材を有効活用した棺桶がある。CO2排出量が通常の棺桶よりも3分の1に抑えられている地球にやさしいこの棺桶。実は音楽家の坂本龍一さんが企画に携わっていて、1棺につき10本の木がモンゴルに植林されるという。
株式会社日本コフィンが出している花筺(はながたみ)という棺桶は、華道家の假屋崎省吾さんプロデュース。花筺とは文字通り花のはこ(竹や草木で編んだかご)という意味があり、故人を忘れない、思い出を振り返るという意味も込められているという。ちなみに假屋崎さんは国産にこだわった骨壷もプロデュースしている。
人気があるのは比較的リーズナブルな布張棺。色や模様を自由に選ぶことができるので、その人のイメージに合わせやすい。人生の最期に持たれるイメージが棺桶に左右されるとしたら、こだわってみるのも悪くなさそうだ。
なぜ生前に棺桶を買う必要があるのか?
残される人に負担をかけないように、葬儀の方法や財産分与について書き残しておくというイメージのある終活。しかし、終活は残された人のためだけではなく、本人にとっても利点があるという。
「生前にお洒落な棺桶を買って、普段は着物をしまう収納ボックスとして使っているという女性もいらっしゃいます。彼女は『将来、自宅からサービス付き高齢者住宅(サ高住)などに移り住む際に、必要なものをすべて棺桶に詰めて”棺桶ひとつ”で移動したい』とも話していました」
「前向きな終活をしている女性たちからは、『終活をすることで安心感が得られた』という言葉を聞きます。自分が亡くなったらどうなってしまうのか、という先の見えない不安は大きいですね。亡くなった後にどうなるのかが保障されていないと、生きている間、ずっと不安を抱えていないといけません。60代、70代の方だと人生の終わりから逆算して考えることで、漠然と生きるのではなく、生きているうちにやりたいこと、挑戦したいことが出てきて毎日が輝き始めたという方もいらっしゃいます」
デジタル遺品とは?親の終活を無駄にしないために子どもができること
時代の変化とともに変わる終活。牛窪さんによると近年、“デジタル遺品”の問題がクローズアップされているという。デジタル遺品とは、スマートフォンやパソコン、インターネット上にある情報や資産のことだ。高齢者のスマホやパソコンの利用率が年々高まっており、今後ますます問題になっていく可能性が高いという。
「パソコンやスマートフォンにパスワードでロックをかけている場合、きちんと伝えておかないとそのまま誰もアクセスできなくなってしまいます。家族にパスワードを伝えておくか、パスワードを紙に書いてその保管場所を伝えておく必要があります」
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パスワードを書いておく場所としても活用できるエンディングノート。しかし、エンディングノートの場所もきちんと伝えておくことが必要だ。そうしないと、せっかく好みの棺桶を選んでおいても無駄になってしまう。
「親子で普段なかなかそういう話ができないのはよく分かりますが、親が書いたエンディングノートを見つけられなかったり、そもそも書き残している事実を知らなかったために希望とは違う葬儀をしてしまうということが起こっています。病気になったり、介護が必要になるとなおさら話しにくくなると皆さんおっしゃるので、元気なうちに話をしておくことをオススメします。後でエンディングノートが見つかって、希望を叶えることができなかった、ということにならないように、離れて住んでいる場合は帰省時に話をしておくといいですね」
時代に合わせて変化する終活。棺桶選びにはその人自身の生き方や家族との関係性も反映されそうだ。寝心地を追求したという棺桶もあるので、自分の好みの棺桶を探すところから終活を始めてみるのも悪くなさそうだ。
牛窪恵さん
世代・トレンド評論家。経営学修士(MBA)。マーケティングライター。インフィニティ代表取締役。同志社大学・創造経済研究センター「ビッグデータ解析研究会」部員。
オフィシャルブログ「アメーバ公式ブログ「牛窪恵の「気分はバブリ~♪」」(http://ameblo.jp/megumi-ushikubo/)
1968年東京生まれ。日大芸術学部 映画学科(脚本)卒業後、大手出版社に入社。5年間の編集及びPR担当の経験を経て、フリーライターとして独立。広告、マーケティング、行動経済(心理)学を学び、2001年4月、マーケティングを中心に行う有限会社インフィニティを設立。同代表取締役。今年3月に立教大学大学院(MBA)修士取得。数多くのテレビ・ラジオ出演や大学での授業、執筆活動等を続ける一方で、各企業との商品開発や全国での講演活動にも取り組む。トレンド、マーケティング関連の著書多数。「おひとりさま(マーケット)」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は、新語・流行語大賞に最終ノミネート。NHK「所さん!大変ですよ」、フジテレビ「ホンマでっか!?TV」、読売テレビ「ウェークアップ!ぷらす」ほかでコメンテーター等を務める。最新刊は「おひとりウーマン」消費!~巨大市場を支配する40・代パワー』(毎日新聞出版)。