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芸人コンビ・レギュラーに密着インタビュー|笑いのバリアフリー化を目指して(前編)~シリーズ「私と介護」

 様々な世界で活躍する方々にご登場願い、介護との関わりについて語っていただく『私と介護』。今回満を持しての登場は、お笑い芸人『レギュラー』のお二人だ。

 介護現場での活動を通して確立させた、高齢者の心を掴む『笑いのバリアフリウー化』の真髄に迫る──。
 
 舞台のソデから姿を現しただけで、もう何人かが笑い転げている。にじみ出るようなおかし味をまとったお笑いコンビ『レギュラー』は、芸歴20年を超えるベテランだ。坊主頭の松本康太さんと、長身の西川晃啓さん。伝家の宝刀ともいえる切れ味バツグンの持ちネタは、ご存じ『あるある探検隊』だ。

──ドゥドゥビドゥバドゥビ
──ハイ、ハイ、ハイハイハイ、ワオッ
──あるある探検隊、あるある探検隊ッ
──松本君、誰もが知ってる「あるある」頼むでぇ
──まかしときッ西川君、行くでぇ

 客の注目をグィっと集めながらも、適度にもったいぶり、そして…

──くしゃみと同時にオナラ出る
──ハイ、ハイ、ハイハイハイ

 関西出身のふたりがコンビを結成したのは1998年のこと。すぐに頭角を現し、デビューから2年目の2000年には「第30回NHK上方漫才コンテスト」で優秀賞。さらに2年後、「第23回ABCお笑い新人グランプリ」では最優秀新人賞を獲得するなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで、芸人としてのキャリアを重ねた。
 
 ’04年ごろからは主戦場を東京に移し、全国区でブレイク。原動力はもちろん『あるある探検隊』だ。子供からお年寄りまで楽しめるわかりやすいリズム芸は、どこに行っても大人気だった。数年してブームに陰りが見え始めたあとも、ふたりはスタンスを崩すことなく、お笑いの仕事を続けた。

「大嫌いな勉強」をして介護資格を取得

「そもそも上手な芸人じゃありませんから、ブレイクしたっていうたって、そのままの人気が続くとは思っていませんでした。でも下手は下手なりのやり方があって、実はそんなところに、施設のお年寄りたちに可愛がってもらうコツがあったりするんです」(西川さん)
 
 二十歳のころからお笑い芸ひと筋でやってきたふたりは、2014年に『介護職員初任者研修(旧・ヘルパー2級)』の資格を取得し、ファンを驚かせた。同資格は介護職としての基礎的なものだが、130時間にも及ぶ講義を受講した上で、筆記試験に合格しなければならない。

 当の松本さんは、

「学生のころはサッカーしかしてなくて、高校もスポーツ推薦やったんで勉強まったくしたことないんです。だから勉強大嫌い」

 と、屈託なく笑うが、「大嫌いな勉強」をしてまでふたりは資格を手に入れたわけだ。

「2014年の7月でした。当時はお笑いの仕事もあんまないし、夏休みを利用して千葉県にある介護学校に通って講義を受けました。朝から夕方まできっちり座学とレポート製作です」(西川さん)

介護へ思いが向かった3つの理由

 勉強嫌いでお笑い一筋。そんなレギュラーの思いが「介護」に向かったのには3つの理由があった。松本さんは次のように語る。

「僕らが“あるある探検隊”でバーっとテレビにも出さしてもらっていた時期に父親がガンになりまして。ちょうど同じような時期におばあちゃんも物忘れが激しくなってきた。それで、おかんが両方のサポートをするようになったんです」(松本さん)

 母親と父親。配偶者と親…など、親しい人間の複数が同時に要介護状態になる “ダブル介護”は、今の日本で目をそらすことのできない問題のひとつだ。松本家もまさにそれだった。

「人気に陰りが出てきて、仕事が減って時間があくにつれて…。そんな時期に、おとんが亡くなって、おばあちゃんも亡くなって。ちょうどその頃、ニュースでよく介護のことをやっていたんです。“介護うつ”とか“ダブル介護”の大変さとか」(松本さん)

 父と祖母のサポートをしていた母親の口から、愚痴がこぼれたことは一度もなかった。松本さんはそのことを思い出し、実は母親も大変な思いをしていたであろう「介護」について、改めて思いを致すようになったという。

「これが介護に興味を持ち始めた1つひとつ目の理由です」(松本さん)

 2つ目の理由は芸人仲間の友情が作った縁だった。

「松本くんは、下積み時代、次長課長の河本準一さんの部屋に居候していたんです。その後もなにかにつけて世話になってたんですね。そんな河本さんが、生活保護費受給についてのゴタゴタで、地元のひとたちに迷惑をかけたってことで、今でもそうですけど、ずっとボランティア活動を続けてらっしゃるんです」(西川さん)

 岡山県出身の河本さんは、地元の児童養護施設や介護施設での定期的な交流活動を続けている。
 
「ある日、『ちょっとまっちゃん、時間あるんやったら手伝ってくれへんか』って言われたんです。ちょうど仕事もヒマになってきたころやったんで、行かせてもらいます、ってことで。このとき始めて老人ホームなどの介護施設でお年寄りたちと交流するようになった」(松本さん)

 河本さんのボランティア活動は、よしもと芸人の間では有名だ。ノンスタイルの井上裕介さんなども参加していたという。

「河本さんはいろんな芸人さんを誘っていかはるんですけど、『まっちゃんがきてくれたときはお年寄りの食いつきがめっちゃええんや』っていってくれるんです。あるある探検隊とかのリズム芸がウケたというのもあるんでしょうけど、どうもそれだけじゃなさそうなんですよ」(松本さん)

「そもそも僕らブレイク真っ最中のころから若い女の子たちにキャーキャー言われたことないんです。どっちかというと、お子さんとお年寄り(笑い)」(西川さん)

「そうそう、二極化。中間がない。たまに若い女の子から声かけられて『母がファンなんです』って(笑い)」(松本さん)

「つまり、ぼくらってどっかしらでおじいちゃんとかおばあちゃんに好かれるというか、安心感とかおかし味を感じてもらえるキャラなんやないかって思うんですよね。実際、ネタを作るときは、若い世代より少し上の世代を意識するようにしてるんです」(西川さん)

 取材の当日に見せていただいた舞台でも、客席の一角を占領した中高年のおばさまたちがばかうけしていた。

「河本さんに紹介してもらったボランティア活動で、お年寄りと交流を持つもとができた。これが介護に目を向けた2つ目の理由です」(松本さん)

 そして3つ目の理由は以下の通り。

 介護をする母親の姿と、高齢者施設でのボランティア交流が重なり、「もっと高齢者に届く笑いが作りたい」と考えるようになったのだった。

 行き着いたのが「介護職員初任者研修」だった。

「お年寄りのことをきちんと知れば、よりわかりやすい笑いを作ることができるかもしれない。そんな思いから、ちゃんと勉強してみようと思うようになったんです。でも、介護職員初任者研修って130時間も授業受けないとだめなんです。レポートもあるし、最終日には試験もある。ひとりじゃ続ける自信がなかったんで、西川くんを誘った(笑い)」(松本さん)

 既述の通り、14年にレギュラーのふたりは無事資格取得に至る。ただ、彼らが目指すのは介護職員レギュラーではない。

 お年寄りにも分かってもらえる笑いを創造することこそが彼らの目標だ。いわば笑いのバリアフリー化を目指しているといえる。

笑いをバリアフリー化するためにどうするのか

 ここからふたりの新たな苦悩が始まった。

「介護職員初任者研修で学んだことは本当に役に立ちました。認知症には見当識障害というのがあって、自分がどこにいるのか、今何時なのか、そうしたことがわからなくなる。また、理論的な理解が難しく、ボケやツッコミといった言葉のやり取りでは面白がれない。そんな人でも例えば僕らの“あるある探検隊”のリズムであれば楽しんでもらえる。そうした現実を学ぶことができたました」(西川さん)

「ただ、それだけではだめなんです。あるある探検隊のリズムを取り入れた体操を作ったりしたんですけど、これも介護職員を目指す方々を対象にした講習会などではウケるのですが、僕らがやりたいのは体操ではなくお笑いなんです。もちろん体操があってもいいけど、それだけじゃ芸人として、いまひとつ納得できない」(松本さん)

 悩んでいるときに出会ったのが『レクリエーション介護士』だった。
 
「人を楽しませるレクリエーションならお笑いと融合させることができる。そう直感しました」(松本さん)

 2017年、レギュラーは『レクリエーション介護』について学び、笑いのバリアフリー化をまた一歩進めるのだった。

→後編を読む

撮影・取材・文/末並俊司

『週刊ポスト』を中心に活動するライター。2015年に母、16年に父が要介護状態となり、姉夫婦と協力して両親を自宅にて介護。また平行して16年後半に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を修了。その後17年に母、18年に父を自宅にて看取る。現在は東京都台東区にあるホスピスケア施設にて週に1回のボランティア活動を行っている。 

●レクリエーション介護士として。介護業界の“レギュラー”芸人が語る(後編)

●シリーズ「私と介護」|小池百合子都知事が語る母との最期の日々(前編)

●小池百合子氏インタビュー|自宅で母を看取る…覚悟の日々(後編)

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