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レクリエーション介護士として。芸人・レギュラーの「あるある介護」(後編)~シリーズ「私と介護」

  様々な業界で活躍する方々に、介護との関わりについて語っていただくシリーズ『私と介護』。今回は、お笑い芸人『レギュラー』のお二人にインタビュー。

『あるある探検隊』ネタで大ブレイクした後、2014年に、介護職の基礎的な資格である『介護職員初任者研修』に合格し、介護の世界に足を踏み入れたお笑いコンビ・レギュラーのお二人。彼らが目指すのは『笑いのバリアフリー化』だという。

 前編に続き、後半も存分に語っていただく。

→前編を読む:芸人コンビ・レギュラーインタビュー|笑いのバリアフリー化を目指して

 * * *

舞台に立っただけでお年寄りに大ウケ

 先輩芸人、河本準一さんの紹介で携わることになったボランティア活動で、レギュラーのお二人は高齢者施設などを訪れる機会に恵まれた。そこで経験したお年寄りたちとの交流は、二人のお笑い人生に、思わぬ影響をもたらした。

「おじいちゃんやおばあちゃんたちがすごく僕らのことを可愛がってくれるんですよ。あるある探検隊のネタに『ジジイかババアかわからない』ってのがあるのですけど、お年寄りの前でこれやったときですらバカウケでした(笑い)。河本さんも『なんでかわからんけど、まっちゃんきたときは、めちゃめちゃウケる』って言ってくれて」(松本さん)

 芸人の世界に“フラ”という符丁がある。 “持って生まれたおかし味”といった意味あいの言葉だ。

 あの芸人は『フラがある』、といえば、舞台に現れただけで、笑いをとってしまうような存在と言えばいいだろう。五代目古今亭志ん生などが、よく例に引かれる。老若男女を問わず、また仮りに落語を知らない人間であっても、あの顔と醸し出す雰囲気に触れたとたん、思わずクスリと笑ってしまう。

 そして、レギュラーの二人にもフラがある。高齢者施設の利用者も、彼らのフラに触れることで、楽しい時間を過ごしていたに違いない。

 高齢者のことをもっと知ることができれば、自分たちの芸がさらに「伝わるもの」になるかもしれない。そんな思いもあり、二人は介護職の基礎的な資格『介護職員初任者研修』を修めた。

介護とお笑いを融合させた芸を生み出すことが目標

 さらに、挑戦はそれだけでは終わらなかった。
 
「僕らが目指すんは“介護をやっている芸人”ではなくて、介護とお笑いを融合させた芸を生み出すことなんです」(松本さん)

 たどり着いたのが2014年に誕生した新しい民間資格『レクリエーション介護士』だった。

 受験資格は特になく、2日間の講習を受けたのち、規定の試験に合格すれば『レクリエーション介護士2級』を取得することができる。

 さらに研修を重ねれば『レクリエーション介護士1級』に挑戦することも可能だ。現在1級、2級合わせて約2万5000人のレクリエーション介護士が全国で活躍している。

 レクリエーションといえば、ヒマな時間を埋めるだけのお遊び、と考えられがちだがそうではない。

 例えば、面倒だからといってリハビリを嫌がるお年寄りが少なくない。ところが楽しみながら身体を動かすことができるレクリエーションであれば、参加してくれることもあったりする。

──毎日行われるレクのおかげで関節の可動域がグンと広がった。

 といった声は日常的に聞かれる。介護現場でのレクリエーションの良し悪しは、生活の質に直結するといっていい。

「2日間の講義を受けてみて、これはお笑いとコラボできるって確信したんです。それまで漠然と、どうやれば目指すお笑いがつくれるんやろう、って悩んでたものがぴったりきた感じでした」(松本さん)

「リズムネタ、歌ネタを理論的に考えるようになった」

 レギュラーの持ちネタに、次のようなものがある。

 腕を前にあげ、軽快なリズムに合わせて、両手でじゃんけんのグー、チョキ、パーを出す。

──グーチョキパーで、グーチョキパーで何つくろ〜、何つくろ〜、右手がチョキで、左手もチョキで、ワタリガニ〜、ワタリガニ〜
──グーチョキパーで、グーチョキパーで何つくろ〜、何つくろ〜、右手がチョキで、左手もチョキで、マツバガニ〜、マツバガニ〜
──カニばっかりやんかッ松本くん!

 これなどはそのままでもレクリエーションのひとつとして使えそうだ。

「専門の勉強をする前は、高齢者施設にボランティアで行くにしても、昔からやっていたリズムネタや歌ネタをただ漫然とやってたんです。ところが、勉強してからは理論的に考えることができるようになりました」(西川さん)

 集団で行う高齢者施設でのレクリエーションは、前に立って号令をかけるだけでは参加者を引き込むことはできない。例えば導入で、わざと難しいリズムの運動を織り込むというテクニックがある。若者ですらこなせないレベルの運動だ。当然多くの参加者がついてくることができずに間違ってしまうが、これが狙いだ。

 人は人前で間違うと、照れ隠しやごまかし、また純粋な楽しさの表現として「笑顔」になる。自分と同じように間違えたお隣さんと、気持ちが通じたりもする。
 
「カチコチに固まった場の空気を溶けさせるから“アイスブレイク”と呼ばれる技術です。お笑いの“つかみ”みたいなものですね」(西川さん)

 レクリエーション介護士の2日間の講義で、レギュラーのお二人は上のようなテクニックや知識を学んだ。

「おかげで確実に芸の幅が広がった」と松本さんは語る。

レクリエーション介護士として定期的に施設を訪問

 2017年11月、資格を取得したお二人は、その後レクリエーション介護士として、定期的に介護施設を訪れている。

「手足が少し不自由なだけで、認知症もほとんどないという参加者さんだったら、僕らが舞台でやっているような普通のリズムネタをアレンジした運動をやってもらったりします」(西川さん)

「ただ、認知症が進んでくるとやり方を変えないといけません。例えば後出しジャンケンというレクがあるんですけど、僕がチョキを出して、『皆さん僕に勝ってください』って言うんです。チョキに勝つためにグーを出してくれればいんだけど」(松本さん)

「そこまで行き着けないこともある。つまりジャンケンという概念が理解できなくなっているんです。そういう場合は、サッと別のレクに差し替えます」(西川さん)

 場の空気を壊さず、出し物を差し替えるなどのテクニックは、芸歴20年のレギュラーにしてみればお手のもの。

「本業のお笑いの舞台でもそうですけど、僕けっこうネタ飛ばしたりするんですよ。でもお客さんに気が付かれないようにすっと次のネタに行きます(笑い)」(松本さん)

 また、介護の知識を深めたからこそ、対応できる場面も多いという。

「普通に機嫌よくしゃべっていても、西川君がちょっといいですかってお話を聞こうとしたら『なんやおまえ』っていきなり怒りだす方もいたりします」(松本さん)

 認知症は記憶力の低下など、中心症状と呼ばれるもの以外に、その人の元々の性格や、置かれた環境、季節や日時によって様々な症状が出るようになる。感情のコントロールができなくなるのも、よく見られる症状のひとつだ。

「介護のいろはを勉強しててよかったなって思います。勉強する前なら、なんで怒ってるのかわからないから、たぶん理論で説明したんだと思う。『西川君はレクを進めたいから質問をしたいだけなんですよ』って。でもその人にとって、レクの進行なんか関係のないことですからね」(松本さん)

「以前やったら、説明して、それでも納得してもらえんかったら、すいません、って謝ってたと思うんです。でも、それやると現場の空気が固まってしまう」(西川さん)

 せっかくアイスブレイクで溶かした空気も台無しだ。

「こちらが何をいうても関係ない。その人の中でとにかく怒りが沸き起こってしまったのだから、悪いのはこっちなんです。そういうときはその気持によりそって、『そうですよね、今のは怒りますよ』って持っていく」(西川さん)

「例えば僕が西川君を悪者にして、『今のは西川君が聞き方悪いわ』とか。そうすることで、周りも変な空気にならずに和んでくれるんです」(松本さん)

 芸人としての20年間と、介護士としての数年が見事に混じり合い、想像以上の効果を生み出しているようだ。持ち前の芸とレクリエーション介護の融合は、確実に笑いのバリアフリー化を推し進めている。

 彼らの笑いが介護業界のレギュラー種目になる日はそう遠くないのかもしれない。

撮影・取材・文/末並俊司

『週刊ポスト』を中心に活動するライター。2015年に母、16年に父が要介護状態となり、姉夫婦と協力して両親を自宅にて介護。また平行して16年後半に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を修了。その後17年に母、18年に父を自宅にて看取る。現在は東京都台東区にあるホスピスケア施設にて週に1回のボランティア活動を行っている。 

●芸人コンビ・レギュラーインタビュー|笑いのバリアフリー化を目指して(前編)~シリーズ「私と介護」

●シリーズ「私と介護」|小池百合子都知事が語る母との最期の日々(前編)

●小池百合子氏インタビュー|自宅で母を看取る…覚悟の日々(後編)シリーズ「私と介護」

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