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「認知症の親ががんに」「親の年金で施設の支払いを」…お金の手続きどうする?【役立ち記事再配信】

 親が認知症に…など介護に直面する前に、やっておきたい準備がある。特に「お金の問題」だ。さまざまなケースで備え方を解説する。

 * * *

親のがん特約保険金で治療費を払う場合

 同じケースでも親の治療費を「医療特約」の保険金で支払いたい場合は選択が違ってくる。

 生命保険の医療特約やがん保険などは、医師の診断があった段階で一定の保険金が支払われる契約が多い。

「親父はがん特約に入っているから、保険金で治療費を払えそうだ」

 家族がそう思っていても、医療特約の保険金や入院給付金は被保険者本人(親)の口座に振り込まれるのが原則だ。この場合、任意後見でないと振り込まれた保険金を使うことはできない。

「家族信託」で長男が管理できるのは信託契約で長男名義の信託口口座(しんたくぐちこうざ)(※1)に移した資金だけで、親の口座に入った保険金には管理権は及ばないからだ。

→「成年後見」と「家族信託」の違い 図表でわかりやすく解説

 認知症になった親の口座は事実上“凍結”されるため、事前に任意後見人を指名していない場合は、法定後見人を申し立てなければならなくなる。

→認知症が疑われ「銀行口座が凍結」すると本人も子供も引き出せない

※1:信託口口座/委託者(親)の財産から分離独立して管理される口座。信託口口座の通帳には親(委託者)の名前と長男(受託者)の名前が記入される。

親の老人ホーム、毎月の支払いを、「親の年金」でするには?

「親が認知症になったら介護付きの老人ホームか介護施設に入ってもらって、毎月の費用は親の年金で払っていこう」

 そんなふうに考えている人は多いはずだ。しかし、親が認知症になって口座が凍結されてからでは手遅れだ。

 どんな事前の準備が必要なのか。

「家族信託」の方が子供の裁量で親の資産を使いやすい特徴がある。しかし、このケースは家族信託を選べない。

→「成年後見」と「家族信託」の違い 図表でわかりやすく解説

 年金の振込口座は本人(親)名義の口座しか指定できないからだ。事前に契約を結び、資金を信託口口座に移しておく家族信託では、子供は親の年金に触れないのである。

 親からあらかじめ通帳などを預かっておく「財産管理委任契約」と「任意後見」のセットがいい。

「後見制度はあくまで親に判断能力がなくなったと家族が裁判所に申し立ててからスタートします。親が少しずつ認知症になると、どの段階で委任から任意後見に切り替えるかタイミングに悩むかもしれません。しかし、いずれにせよ症状が進行しても任意後見人として子供が親の口座から年金をおろし、親の老人ホームの費用を払い続けることは可能なので安心です」(後見制度に詳しい行政書士・東優氏)

親が老人ホームへ。実家を売って入居一時金に充てたいときは?

「親の介護は家族の負担が重い。認知症になったら老人ホームに入れたいが、1000万円近い額となる入居一時金は実家を売って捻出したい」

 そう考えている人は、「任意後見」制度を選択すると、裁判所や後見監督人から家の売却が「親の資産保全に反する」と判断されてしまい、NGが出される可能性がある。

 司法書士・酒井俊行氏がいう。

「家族信託契約で実家を信託財産にして、使用目的を『受益者の安心・安全かつ平穏無事な生活を実現すること』と定め、子供(受託者)に不動産の処分権を認めておけば、子供の裁量で売却できます。

 家を売って得たお金を子供が自分のために使ってはならない。親(受益者)の老人ホームの入居一時金に使うのなら、契約目的通りになる。制度の趣旨に合っています」

 では、親の老人ホームの入居一時金は実家を売って捻出し、ホームの月々の費用は「親の年金」から支払いたいという場合はどうすればいいか。

 実は、任意後見・財産管理委任契約と家族信託は併用できる。

 家や株は「家族信託」で子供の裁量で処分できるようにしておいて、同時に「任意後見」契約も結んでおくことで、いざ、親の認知症が進んだ場合には、子供が任意後見人となって預金の引き出しが可能になる。

 ただし、任意後見監督人をつけるために月5万〜6万円(財産額5000万円以上の場合)の費用がかかるなど、制度を利用するコストもあるので、“必要もないのに併用する”というやり方は避けたほうが賢明な選択となる。

「親と二世帯住宅」に住みたいなら?

 親が認知症になれば、実家を二世帯住宅に建て替えて面倒を見たい。建築費の一部を親の預金から出せないだろうか。

 これも親の財産を減らすことになるため「任意後見」では裁判所に認められない可能性がある。

 しかし、親と話し合って「世話をするために二世帯住宅にして同居しよう」と決め、実家の不動産と親の預貯金を「家族信託」にして建築費に充てるという信託契約を結ぶことで、建て替えは可能になる。

 前出の酒井氏のアドバイスだ。

「認知症になってからでは親は工務店との建築請負契約を結ぶことができません。ですが、事前に家族信託契約を結び、信託財産の家を子供の名義に変更しておけば、親が認知症になってからも子供だけで工務店との建築契約を結ぶことができます。

 ただし、他に兄弟姉妹がいる場合は、遺産争いの種になりかねないというリスクもある。事前に他の相続人の同意を取っておくのがベターでしょう」

親のクレジットカードなどを解約したい場合は?

 親が銀行引き落としやクレジットカードで支払っている新聞代、スポーツジムの会費、携帯アプリの契約を解約したいときは、「任意後見」を結んでおかなければ親のかわりに解約手続きを行なう権限が認められない。

「財産管理の委任契約は、本人の財産の管理に限られ、スポーツジムや新聞購読、携帯アプリ利用等にかかる料金を止めるには、本人自身の解約が必要になります」(前出・東氏)

 放っておけば、財産はどんどん減ってしまう。

 * * *

「法定後見」になった場合は…

 厚労省の推計では、認知症患者の割合は75歳を境に急速に増え始め、80代前半は約25%、85歳以上になると約55%に達する。

 もし、事前の備えを怠れば、親が認知症になった後、「法定後見」を申し立てて裁判所が選んだ弁護士など職業後見人に親の資産を完全に握られる。

「法定後見は家族にとって絶望的な事態につながる。法定後見人が選ばれると、家族は資産管理に何の発言力もなくなり、親の資産がいくらあるかを教えてもらえなかったケースもある。父親が認知症なら、多額の資産があっても、父親の収入・資産で暮らしていた母親の生活費に使うことはできないから、母親は少ない自分の年金だけで暮らさなければならない。父親を“この老人ホームに入れたい”と希望しても、法定後見人の一存で違うホームが選ばれても文句は一切いえないこともある。不正な行為があったりした場合以外は家族の申し立てで法定後見人を解任することもできません」(家族信託コンサルタントの横手翔太氏)

 家族にとっては、将来の「相続財産」であるはずの親の資産が、事実上の“国家(裁判所)管理”になってしまうのだ。

 だからこそ、親が75歳になる前に「任意後見」か、「家族信託」を選んで親の資産を家族の手元にしっかり確保しておく必要がある。

※週刊ポスト2019年2月8日号

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