夫のネット銀行ID・PW知ってますか?今すぐ備えたい「お金の大問題」
年末年始の帰省で久しぶりに両親に会い、しわの増えた顔と頼りない背中を見て「老けたなあ」としみじみ思う。耳が遠くなってテレビの音量は大きいし、子供の頃の話をしてもすっかり忘れている。
「もしもの時のことを、そろそろ話し合っておかないと」そう思いながらも、具体的に何から手を付ければいいかわからない。「次に会った時でいいか」と先延ばしにし、時間だけが過ぎていく――。
亡くなった母の銀行口座、暗証番号、通帳、印鑑…わからない!
半年前に、ひとり暮らしの母親を亡くした谷口恵子さん(仮名・52才)が語る。
「昔は銀行口座を開設するのが簡単だったので、6年前に亡くなった父は、マグカップやお皿など景品目当てに、あちらこちらに口座を作っていました。マメな父は、『生活費』『老後資金』『教育資金』『もしものための貯金』など、いくつもの銀行に分散して預金していました。
父の死後、おおざっぱな性格の母は、生活に困らない程度にしか銀行口座を管理せずに暮らしてきました。年金の口座ぐらいしか、ほとんど使ってなかったと思います。そんなことだから、母の死後、どこの銀行にいくら預けて、財産全体がいくらあるのか、さっぱりわかりませんでした。葬儀の後、実家を隅から隅まで捜索し、通帳や印鑑捜しをすることに。
しかも、あちこちから出てくるものだから、『他にもまだあるかも』と終わりがないんです。通帳は出てきても印鑑がどれかわからないし、暗証番号もわからない。結局、思い当たる金融機関に1件ずつ問い合わせるハメになりました。
生前にしっかり確認しておかなかったのが最大の失敗でしたね」
親が亡くなったり、認知症を患った後では、口座の存在を聞き出すことは二度とできなくなる。預金通帳や印鑑はおろか、口座の存在さえも知らなければ、預金は死蔵されたままになり、消失したも同然になる。
実際、10年以上取引が行われていない、金融機関の「休眠口座」は、毎年約700億円ずつ増え、総額6000億円を超えるという。
通帳のないネット銀行や証券の口座をどうする?
特に、今はあらゆるものが電子化された時代だ。昔と違ってお金の保管先は、必ずしも銀行口座やたんす預金だけではない。通帳のないネット銀行や証券会社の口座、電子マネーなどさまざまなところに分散されている。
ネット銀行は、取引に関する通知などの郵便物が届くのは年に数える程度。まったく届かないこともあるため、重要な手がかりの1つである郵便物も頼りにならない。
Suicaやnanacoのような電子マネーは、カード型のものやスマホと連動しているものもある。買い物はほとんどクレジットカードで支払い、ポイントを貯めている人も多く、気づかないうちに数万~数十万円分貯まっていることもある。
電子マネーはもちろん、ポイントもお金と同じ価値を持つ立派な財産だが、それらの存在を知らなければ、有効期限切れで消失することもある。
社会保険労務士の井戸美枝さんが話す。
「本人が認知症になったり、亡くなった後では、ネット銀行の預金口座やスマホで管理する財産を捜し出すのは至難の業です。本人のスマホやパソコンの履歴、クレジットカードの明細などから捜し当てるしかありません。しかも、そもそもログインIDやパスワードもわからない状況がほとんどです。そうなれば、もうお手上げです」
せっかくのお金が永久に受け取れなくなる事態を防ぐにはどうすればいいか。 「まず、本人が元気なうちに保有している複数の口座を、できるだけ1つか2つにまとめておくべきです。また、すべての財産が一目瞭然になるように書き出して、『財産目録』を作成しておくとよいでしょう。
その際、『預金総額』や『株式の時価総額』だけ書いてもダメです。どの銀行に、どれだけ預金しているのか、どの証券会社に、どのような株式があるのかなど、詳しく書き記してください。財産目録を作ったら、通帳や印鑑、有価証券、家や土地の権利証など家族にわかるようにしておくことも大切です。
パソコンやスマホのパスワードはもちろん、ネット銀行や証券会社の口座のログイン情報も紙に書いて残しておいてください」(井戸さん)
ペーパーレス時代だからこそ、あえて紙で残しておくことが重要なのだ。