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離れて暮らす高齢の親の「食事・嚥下」5つの観察ポイント「年末年始は家族で”とろみつき”の飲み物を試してみよう」【管理栄養士提案】

 離れて暮らす親はまだまだ元気だと思っていても老いは少しずつ進行していくもの。しばらく合わないうちに「1日2食しか摂っていなかった」「お茶を飲むときにもむせるようになった」など変化に気づくことも。「食事面」の変化に早めに気づくポイントと対策を管理栄養士の川鍋仁美さんに教えてもらった。年末年始のお休みで久しぶりに親に会う機会がある人はチェックしてみて。

教えてくれた人/管理栄養士・川鍋仁美さん

管理栄養士。2児の母。大学卒業後、総合病院に勤務。介護食・嚥下食などの献立作成や栄養相談など行ってきた経験を活かし、現在はデイサービスで高齢者の栄養サポートなどを行う。介護する人もされる人も笑顔になれる「介護食作り」を目指し、活動中。「管理栄養士が伝授!いちばんやさしい介護食ガイド」の運営・執筆も手がける。https://eiyousupport.com/

食事から見えてくる親の変化

 お正月休みには、実家に帰省して高齢の親と会う予定のかたも多いのではないでしょうか。久しぶりに高齢の親と会うと、再会を喜ぶとともに「歳をとったなぁ…」と少し寂しく感じることも。しかしその気づきを見過ごさず、しっかりと向き合うことで、ゆくゆく介護やサポートがしやすくなると思います。

 高齢者の身体機能は少しずつ低下していくものですが、早めに気づくことで対策がとれますし、また誤嚥などの命にかかわるトラブルの予防にもつながります。

 年末年始に帰省して高齢の親と久しぶりに会うときに気にかけてほしい「食事面」のチェックポイントをご紹介します。

【1】普段の食事は「1日何回?何を食べている?」

 親御さんと丸1日一緒に過ごす時間があれば、1日に何回どんな食事を食べているか様子を見てみましょう。

 訪問ヘルパーさんやデイサービスなどを利用している日には、3食しっかり食べているかもしれませんが、ひとり暮らしの場合、自分ひとりの日はどうでしょうか。

 栄養相談を行っていると、「食事をしっかり食べている」と話されるのですが、よくよく具体的な食事内容を聞いていくと、「1日2食しか食べていない」という高齢者のかたは結構多いんです。

「そんなにお腹が空かない」「3食作るのは大変だから」と、朝食と昼食が兼用の高齢者が多い印象です。低栄養を予防するには、1日3食が基本です。

 お正月はおせち料理などの特別な食事になりますので、できれば確認してほしいのは「普段の食事」。「1日2食」が習慣になっている場合、ヨーグルトやバナナ1本、牛乳1杯からでもよいので、1日3回飲む・食べることをおすすめしてください。

 また、「食べている」と話していても、実際には「朝はコーヒーだけ、昼は甘い菓子パンをちょっと食べるだけ」というケースも多々あります。

 菓子パンが悪いわけではありませんが、糖質がメインとなってしまうので、手軽に食べられる食事としては菓子パンより「おにぎり」の方が海苔や具材でミネラルやタンパク質も摂れるのでおすすめです。

 パンを食べるなら、菓子パンではなく「食パン」にして、チーズやハムをのせて食べることで、たんぱく質強化につながります。ゆで卵をプラスするのもおすすめです。

【2】やわらかいものばかり食べていませんか?

 食事の様子を確認して、「かたいものを避けて、やわらかいものばかり食べている」場合、義歯が合っていない、虫歯があるなど口腔状態に問題があることも考えられます。また、自分の歯で食べられているかたでも、歯医者に行くのが億劫で、どこかの歯を抜けたままにしているケースも。

 帰省時には親御さんに、かかりつけの歯科について確認しておくとよいでしょう。また、自治体によっては無料の栄養相談を実施していることもあるので、一緒に情報を調べてみるのもいいと思います。

【3】水分の摂取頻度はどれくらい?

 夏場はこまめに水分補給を心がけているかたは多いのですが、冬場はトイレの頻度が気になるからと、水分補給の頻度が少なくなっているかたも多いです。

 気温が低い冬場はのどの渇きを感じにくいのですが、乾燥している冬こそこまめな水分補給が必要です。目安としては1日に1.5~2.0リットル。コップ1杯の水分を1日に7~8回飲むことをおすすめしています。

 起床時、間食時、食事時、入浴時、就寝前などタイミングを決めておくと水分不足の予防につながります。

 自分が水分をしっかりとれているかは、意識して回数を数えないと実感が湧きにくいものです。家族が一緒に確認してあげることで、改めて水分補給のタイミングや回数を意識できるようになると思います。

【4】「おやつ」は食べ過ぎていない?血圧や血糖値は大丈夫?

 間食にも目を向けて欲しいと思います。甘いお菓子ばかり食べ過ぎていないか、塩気の多いおせんべいを食べすぎていないか、実際に買っているものを帰省したタイミングで確認してみましょう。

 おやつを食べることは、食の楽しさを感じられますし、3食の食事で摂り切れない栄養量のアップにもつながるので、悪いことではありませんが、あくまで量や頻度が適切な場合に限ります。

 注意したいのは「お菓子を“食事替わり”にしている」「血糖値が高めなのに甘いお菓子ばかり食べている」「血圧が気になるのに塩分が多いおやつをよく食べている」こと。健康状態とあわせておやつの量や頻度を改めて確認してみましょう。心配な場合は、主治医に相談することを提案してあげてください。

【5】むせやすい、飲み込みにくそうにしていない?

 食事や水分をスムーズに飲みこめているか様子を見てみましょう。

 飲み込みにくそうにしていたり、むせる回数が増えている場合、嚥下機能が低下しているかもしれません。最初は「たまに」むせるくらいのちょっとした違和感でも、少しずつ嚥下機能の衰えは進行してしまいます。

 お茶や水などの飲み物を飲むとき、汁をすするとき、違和感なくしっかりと飲み込めているか注意深く見守りましょう。

 お茶や水などでもむせることが増えていたら、誤嚥予防のためにも食材のとろみ付けを検討する必要があります。

 私が勤務しているデイサービスの利用者さんの中には、お茶を飲むと、時々むせているかたがいらっしゃいました。「とろみをつけましょうか?」とご提案したところ、「大丈夫、必要ない」と断られることが多く…。

 あるとき、「1度だけ、一緒に試してみませんか?」ととろみをつけたお茶をご提供したところ、「味は変わらないし、飲みやすい」と感じてくださって、それ以降、とろみつきの飲料や食事に移行しやすくなりました。

 一度体験してしまえば、ハードルは一気に下がることもあるものです。誤嚥の不安を抱えながら食事をするより、とろみをつけて飲み込みしやすくしておけば、安心して食事を楽しめるのではないでしょうか。

飲み物に「とろみ」をつけてみよう

 市販のものを使ってとろみをつける際、計量作業など手間に感じるかもしれませんが、使っていくうちにすぐに慣れます。とろみをつけた飲料などは冷蔵庫に保存しておいてもしっかりとろみが保持されます。

 片栗粉のとろみは「離水」といって水分が分離してしまい、その水分が誤嚥につながることもあるので、誤嚥の不安がある場合には、専用のとろみ調整材を使うことをおすすめしています。医師や管理栄養士などの専門家に相談した上で、お正月休みなどご家族一緒に過ごせるタイミングで、とろみつきの飲み物や食事を作って、みんなで実際に試してみてはいかがでしょうか。

手軽にとろみをつけられる市販のアイテム3選

 手軽に使える市販品をピックアップ! 年末年始の機会に試してみませんか。

※価格はすべて税込み表示。

キユーピー やさしい献立 とろみファイン(キユーピー)

 さっと溶けてダマになりにくい。料理や飲み物、炭酸飲料などにも使える。1.5g×50本 1145円

https://www.kewpie.co.jp/udfood/product/toromi/toromi/4901577063046/

バランス献立 とろみエール(アサヒグループ食品)

食事の味や風味はそのままに適度なとろみをつけられる。2.5g×30本 702円

https://www.asahi-gf.co.jp/special/senior/foods/items/toromiyell/toromi_stick.html

つるりんこ牛乳・流動食用(森永乳業クリニコ)

「つるりんこ」シリーズには、通常のとろみのほか、とろみがつきにくい牛乳や流動食に手軽に使える『つるりんこ牛乳・流動食用』もラインアップ。3g×50本 1944円

https://kenko.morinagamilk.co.jp/products/detail/2024

***

 高齢の親と久しぶりに会うときに食事面で確認してほしいことをご紹介しました。せっかく久しぶりに会うのに、いろいろと確認しすぎて「こうした方がいい」「あれはだめ」などと指示ばかり出してしまうのは角が立つかもしれません。親御さんご自身も老いや衰えを実感しているので、あえて指摘されると腹も立ち、認めたくない気持ちもあるでしょう。

「ずっと元気でいてほしいから」「安全に生活してほしいから」。親を思う気持ちが伝わるように声がけができたらよいですよね。いつも近くにいる人は気づかない何気ない変化も、久しぶりに会うからこそ気がつくこともあります。お正月休みは、親の変化を気にかけながら家族で大切な時を過ごしてほしいと思います。

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