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妻が認知症かも…「お金の管理」夫がやっておくべきこと【役立ち記事再配信】

 多くの男性は自分が認知症になることは不安に思っても、隣の妻がそうなるなど考えてもいないのではないか。ひょっとすると、これまで多くを頼っていた妻が「ボケてしまった」時のほうが衝撃は大きいかもしれない。

 そのとき、あなたは冷静でいられるか。これまでの生活が一変してしまう「まさかの事態」に備え、妻のために夫ができること、すべきこととは?

「妻がボケる」とはどういうことか

「僕が先に死んで彼女を残すよりはいい結果になった。それも含めて、すべてに感謝しています」

 アルツハイマー型認知症を患っていた妻・朝丘雪路(享年82)に先立たれた津川雅彦(78)は、5月20日の会見でしみじみと語った。津川自身も昨年秋にかかった肺炎の影響で、鼻にチューブを入れた状態。車椅子に座ったまま取材に応じる姿は痛々しかった。

 彼の言葉は、あまりにも重い。もし妻が認知症になり、自分が妻を残して死んでしまったら、妻はいったいどうなってしまうのか―。

 いまや5人にひとりが認知症になる時代。今後、寿命がさらに伸びれば、その割合はもっと増えるかもしれない。

 だが、世のほとんどの夫たちは「妻が先にボケる」ことを想像さえしていない。

 認知症を患っていても見た目は健康だし、体力もある。周囲からも「普通」に見えるから、症状の進行に気づきにくいこともある。

「アルツハイマー型認知症は潜伏期間が長く、始まった時期がわかりづらい。初期段階の特徴は『物忘れ』という記憶障害で、少しずつ症状が進行していきます。さらに中期段階になると、例えば自分の貯金通帳をどこに置いたか忘れて『誰かに盗られた』などと作話をしたり、時間や場所、人がわからなくなる見当識障害が見える傾向がある。一般的に中期段階に移行していくのは2~3年後。早ければ1年後に中期になる人もいます。徘徊が見られるようになるのも、この頃です」(認知症に詳しい米山公啓医師)

 妻が認知症になってから症状が悪化していく期間は、想像以上に短い。そして、その間に家事や買い物など「普段どおりの妻の行動」がさまざまなリスクに変わっていく。家庭の内外で起こり得るトラブルを未然に防ぐために、夫がすべきことを考える。

家計口座が“凍結”状態に

●最も注意しなければいけない「火の不始末」

 妻が認知症になった時、最も注意しなければいけないのが火の元だ。

「鍋の空焚きは非常にありがちです。お風呂も旧式のものは追い焚きタイプがあるので、やはり空焚きの危険性がある。風呂の栓をしないまま水を流し、空焚きしてしまったケースも少なくありません」

 そう話すのは、介護アドバイザーの横井孝治氏。

「失火の原因となりそうな調理器具は、IHに買い替えるほうがいい。また、石油ストーブや電気ストーブも引火したり、倒したりするリスクがあるので、エアコンを利用したほうがよいでしょう。思い切って、操作の簡単なオール電化にするのも一手です」(横井氏)

●「お金の管理」も要注意

 お金の管理をすべて妻任せにしている人も、注意が必要だ。

 妻が通帳をどこかに仕舞いこみ、思い出せない場合は家中を探し回るしかない。もっとも困るのは、妻の口座から預金を引き出す必要が生じたときだ。5才年下の妻が先にボケることを想像していなかったという東京都在住の72歳男性は、こう語る。

「教師をしていた妻の口座には退職金や年金を合わせて1000万円以上の預金があり、リフォームローンの一部を毎月そこから捻出していました。ところが、認知症が進行した妻に代わって銀行に行っても、キャッシュカードの暗証番号がわからず預金が引き出せない。窓口で事情を説明しても『本人でなければ引き出せない』と言われてしまう。これから妻の介護費用も捻出しなければならず、本当に困っています」

 こうしたトラブルを回避するための最善策は、認知症が進行する前に、夫婦間で通帳とキャッシュカードを共同管理することだ。

「実際問題として、妻が夫を疑って通帳やキャッシュカードを渡してくれないことが意外と多い。妻に無用な警戒心を抱かせないよう『何かあった時のために、互いの預貯金口座と暗証番号を把握しておこう』ときちんと説明し、合意を得ることが必要です」(横井氏)

意外とお金がかかる「成年後見人」手続き

 銀行でまとまったお金を引き出したり、土地や建物を売買する場合は、認知症の妻に「成年後見人」を立てる必要がある。成年後見人とは、認知症になった本人に代わって、本人の財産管理を行なったり、契約を代行する権利を与えられている人のことで、預金の引き出しや定期預金の解約のほか、介護サービスや施設入居の契約手続きも行なうことができる。

 だが、後見人を立てるには費用がかかるうえ、必ずしも夫の意向通りに動いてくれない場合もあるという。後見人に関するトラブル対応機関、一般社団法人「後見の杜」の宮内康二代表がいう。

「判断能力が不十分な人の法的保護を行なう『法定後見人』を立てる場合には、まず申し立て書類が必要です。これは一般の人でも書けますが、たいていは弁護士か司法書士が代筆するので、20万~30万円の費用がかかる。また、認知症初期でしっかりしている段階なら、妻が夫を代理人に選定する『任意後見人制度』が使えます。妻が公証人役場で『夫を後見人にする』と宣言すれば、約4万円の手数料で10日ほどで手続きが済みますが、家庭裁判所が選定した監督人がつくので、年間60万円くらいの費用がかかります」

 妻が認知症になってしまったら、金銭管理にもかなりの出費を覚悟しなければならない。

※週刊ポスト2018年6月8日号

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