のどが原因で命を落とす人は年間3500人!のどの鍛え方や誤嚥性肺炎の予防法を医師が解説
【やり方】
【1】水をひと口飲んで口の中を湿らせる。
【2】人さし指をのどぼとけに添えた状態で、30秒間で何回唾液を飲み込むことができるか数える。
・10回以上(飲み込めた回数)…20代(のど年齢)
・9回…30代
・8回…40代
・7回…50代
・6回…60代
・5回…70代
・4回以下…80代以上
肺炎球菌のワクチン接種で予防を
もし、のど年齢が衰えていたとしても、やみくもな“のどケア”はおすすめできないと、大谷さんは言う。
「のどの筋肉を鍛えたりすることも一定の効果は見込めます。しかし、それより先に、肺炎の原因菌としてもっとも多い『肺炎球菌』のワクチンを接種してください。誤嚥性肺炎の一部は、肺炎球菌を含んだ自分の唾液を誤嚥することで発症します。ワクチンを打っていれば菌に対する免疫ができ、感染しにくくなったり、感染しても軽い症状で済みます。
英国の権威ある医学雑誌に掲載されたデータによれば、ワクチンを接種することで肺炎球菌性肺炎の発症を60%低下させると報告されています。1回の接種で、効果は5年以上持続します」
しかし日本における2021年の肺炎球菌ワクチンの接種率は65才時には約40%、70代以上ではわずか約20%ほど。欧米諸国の高齢者の接種率が70%近いのに対し、きわめて低い。肺炎球菌ワクチンは65才以上なら自治体からの補助もあるため、活用してほしい。
誤嚥性肺炎の予防には口腔ケアが大切
口内に肺炎の原因菌を増やさないための「口腔ケア」をおろそかにすることも禁忌だ。歯磨きはもちろん、デンタルフロスや歯間ブラシ、舌専用ブラシなどを活用し、若い頃以上のケアが推奨される。高齢者は、定期的な歯科健診も忘れずに受けてほしいと、大谷さんは話す。
さらに、高血圧や糖尿病といった生活習慣病予防を怠ることも、誤嚥性肺炎を招く。こうした生活習慣病から動脈硬化が進展し、誤嚥のリスクを上げるからだ。
「動脈硬化が進むと『ラクナ梗塞』という小さな脳梗塞ができやすくなります。すると、嚥下やせきなど、のどの反射を促す脳内物質がつくられにくくなるのです。肥満ぎみの人は、まずダイエット。1日30分ほどのウオーキングを習慣にすれば、免疫力の維持にもつながるため、肺炎予防になります」
のどを鍛えるのは早めに始めるほど有利
自分ののど年齢を把握し、ワクチン接種と口腔ケアに励みたい。対策が遅れるほど、取り返しのつかないことになる。
特に、一度“80代レベル”にまで低下した嚥下力は、ほとんど元に戻すことはできない。
「食べ物や唾液を自力で飲み込めないほど嚥下力が低下したら、改善は困難です。だからこそ“嚥下力が少し落ちてきている”くらいの、元気なうちからのどを鍛えてほしい。“ものを飲み込むときにのどがどんなふうに動いているか”を意識するだけでもトレーニングになります。理解力が高くのどの感覚の鋭い30代、40代など、若いうちから始めるほど有利です」(浦長瀬さん・以下同)
飲み込むときののどの動きを理解するには「のどぼとけ」と、あご裏にある“ごっくん筋”の場所を知ることから。
首の正面を触って探すと、女性でものどぼとけがあるのがわかるはず。指で触れたまま唾液を飲み込んでみると、嚥下とともに上下に動く。“ごっくん筋”は、あごの先端から少し奥にある。力を入れないとやわらかいが、親指であごの裏に触れたまま飲み込むと下に硬く張り出してくる。
「ものを飲み込むときは、のどぼとけが持ち上がって、舌は口の中で上あごにぴったりとくっつきます。このとき、ごっくん筋が硬く収縮します。この一連の流れを理解するだけでも、嚥下力が向上します」
3秒でできる“ごっくん筋”トレ
のどの動きを理解したら、“ごっくん筋”をトレーニング。
多めの水をひと口で飲んでみたり、「5秒に1回飲み込む」のを10回連続で繰り返したり、あえて上を向いて水を飲むことでも、ごっくん筋に力が入ることがわかる。
「これらのトレーニングを難なくこなせるようになると、口に水を含まなくても、のどぼとけやごっくん筋を動かせるようになっています。“ゴクッ”と飲み込んだときの、のどぼとけが上がって、ごっくん筋が硬く張り出している状態を3秒間キープしてみましょう。1日3回が理想的ですが、のどに疲れを感じるくらいしっかりキープできれば、1日1回でもOKです」
ごっくん筋を鍛える「3秒トレーニング」
【前から見た図】
のどぼとけが上に持ち上がっているのを確認する。
【横から見た図】
「ごっくん筋」が下に硬く張り出している。
のどぼとけに軽く触れた状態で「ゴクッ」と唾液を飲み込みその瞬間の、のどぼとけが持ち上がった状態を3秒間キープする。1日3回行う。慣れてくれば1日1回でOK。
しゃべることでものどのトレーニングに
日常生活を送る上でも、できることはまだまだある。のどを使う場面は、食事だけではない。声を出すだけでも、トレーニングの一助になる。
「しゃべらなければ、のどはどんどん衰えていきます。長かったコロナ禍の自粛生活で人と話す機会が激減した結果、のどを充分使えずに過ごした人も多いでしょう。同居の家族がいるなら、会話する時間を持つことをおすすめします。友人との会話もLINEなどではなく、直接会ったり電話をする方がいい。本を音読するのもおすすめです」(大谷さん)
ただし、カラオケなどで歌うことは、トレーニング効果が低い場合がある。
「嚥下力を鍛えるには、のどぼとけを動かすことが重要。それには、高い音を出すこともひとつの方法です。極端に言えば、金切り声を出すほど、のどぼとけが上がりやすい。ですが、歌の上手な人ほど、高音を出すときものどの上げ下げをせずに歌うことができてしまうため、あまり効果がないのです。指でのどを触って、のどぼとけが動いているか確認しながら歌うのをおすすめします」(浦長瀬さん)
のどが原因で命を落とさないために、いますぐできることがある。
教えてくえた人
大谷義夫さん/池袋大谷クリニック 院長、浦長瀬昌宏さん/嚥下トレーニング協会筆頭理事・耳鼻咽喉科専門医
イラスト/勝山英幸
※女性セブン2023年7月20日号
https://josei7.com/
●命の危険にもつながる誤嚥性肺炎を防ぐ|予防法やトレーニング法【まとめ】