のどが原因で命を落とす人は年間3500人!のどの鍛え方や誤嚥性肺炎の予防法を医師が解説
食事中にむせることが増えた、昔ほど大きな声が出せなくなった…それらを「ただの老化現象」だと思って油断してはいけない。放っておくと、食べることはおろか、起き上がることもできなくなり、あっという間に命を落とすことになるかもしれない。長生きするために「のど」を鍛える方法を名医に聞いた。
「のど」が原因で死亡する高齢者は毎年3500人以上
<食事中に5センチ大の餅がのどに詰まり、突然うなり声をあげて倒れた。救急車で運ばれ、病院で処置してもらったが、死亡した。(80歳代 男性)>
これは、国民生活センターのホームページに掲載された窒息事故のいち事例だ。餅に限らず、食べ物がのどに詰まって命を落とす人は少なくない。
厚生労働省の調査によれば、毎年3500人以上の高齢者が食べ物による窒息死、つまり「のど」が原因で命を落としている。
嚥下力が低下するとむせやすくなる
食べたり飲んだりするたびに誰もが無意識に「咀嚼(そしゃく)」し、「嚥下」しているが、実はその過程は複雑だ。
飲み込もうとして口の中のものがのどの奥に達すると、上あごの奥の「軟口蓋(なんこうがい)」が持ち上がり、鼻と口の間を塞ぐ。同時に舌のつけ根が収縮してのどぼとけ(喉頭・こうとう)が持ち上がることで、声帯への通り道も閉じる。そうして初めてのど(咽頭・いんとう)が収縮して食道の入り口が開き、飲み込むことができる。ここまでにかかる時間は、わずか0.5秒。
年齢とともにこの動作がにぶくなったり、タイミングがズレるようになることで、むせることが増える。飲み込み損ねたものを“異物”として吐き出すためにせき込むのは正常な生体反応のため、嚥下力が落ちても、むせることがただ増えただけなら、心配する必要はない。
怖いのは「誤嚥性肺炎」
しかし、激しくむせれば呼吸困難が生じ、重篤になればそのまま意識を失うことさえある。また、のどの力が弱って嚥下し損ねたときにむせることさえできなくなってしまったら、それは窒息につながり命にかかわる。
“異物”が食道ではなく気管に入ることで口の中の細菌が気管に入り込んで起きる「誤嚥(ごえん)性肺炎」は、時に死を招く病気だ。
池袋大谷クリニック院長の大谷義夫さんが解説する。
「誤嚥性肺炎の症状は、せきやたん、微熱などで、ひどければ高熱や息切れなどが出ることもあります。症状だけでは市中肺炎と見分けはつきませんが、肺炎で亡くなる人の95%が高齢者であることから考えても、誤嚥性肺炎がかなりの割合を占めていると考えられます」
厚生労働省「人口動態統計」(2021年)によれば、「肺炎」と「誤嚥性肺炎」が日本人の死因の5位と6位を占める。以前は「肺炎」が3位だったが、これはこの2つを合わせて「肺炎」として統計を取っていたためだ。
「さらに『老衰』とされた死者の中にも、誤嚥性肺炎は含まれるはず。誤嚥性肺炎で亡くなったかたの数は、統計で示されている数字よりも多いと考えられます。誤嚥性肺炎は抗生剤で治療しても再発するケースが多く、とても厄介な病気です」(大谷さん)
★「誤嚥性肺炎リスク」セルフチェックリスト
当てはまるものが多いほど、誤嚥性肺炎になるリスクが高い。また、【1】に当てはまる場合は免疫力の低下、【2】~【6】は動脈硬化、【7】は逆流性食道炎、【8】~【10】はのどの筋力の低下が原因として考えられる可能性が高い。
【1】65才以上だ。
【2】喫煙習慣がある。
【3】脂っこい食べ物が大好き。
【4】大きないびきをかく。
【5】野菜が嫌いで、あまり食べない。
【6】血圧や血糖値が高い。
【7】胸焼けがある。
【8】のどに違和感がある。
【9】声がかすれてきた。
【10】あまり人と会話しない。
出典:大谷義夫『「よくむせる」「せき込む」人のお助けBOOK』
60代半ばから嚥下機能は低下する
つまり、誤嚥性肺炎を遠ざける努力をしなければ、死はすぐそこに迫ってくるということだ。のどの筋肉が衰え始めるのは、40代後半から。60代頃になると、嚥下力の低下による不調を感じる人が増える。そして60代後半にさしかかったら、いよいよ警戒を強めなければならない。
加齢とともに歯が弱くなるとやわらかい食事を選びがちになる。だがそれこそが、嚥下力を低下させている。
嚥下トレーニング協会筆頭理事で耳鼻咽喉科専門医の浦長瀬昌宏さんが言う。
「60代半ばを過ぎると、健康な人でも半数以上は嚥下機能が低下します。加齢に加え、やわらかくて噛む必要のないものばかり食べるようになる人が増えるのも、その一因です。高齢者施設ではのどに詰まらせないようにやわらかい食事が出ることが多いですが、皮肉にもこの配慮はますます入居者の嚥下力を落とすことにつながっているのです」
誤嚥性肺炎は、食べたり飲んだりしているときだけに起きるものではない。睡眠中に「自分の唾液」を誤嚥してしまうことで、唾液に含まれていた細菌から発症するケースも非常に多いのだ。
「飲み込むのが困難なほど嚥下力が低下すると、のどの中に唾液がたまります。本人からすると“たんがからんでいるような感じ”がするのですが、実は飲み込めなかった唾液であることも多い。眠っている間にそれが気管に流れ落ち、嚥下力が弱いがゆえにむせて吐き出すこともできず、肺炎を発症してしまうのです」(浦長瀬さん)
つまり、嚥下力の低下を自覚できていないことが、生死を分けてしまうのだ。
自分の「のど年齢」を調べてみよう
「太っていないのに、あごだけがたるんでいる」「急にむせやすくなった」という人は嚥下力が落ちている可能性があると、浦長瀬さんは言う。ほかにも、「声が出にくくなった」「せきが増えた」という場合も要注意。自分の嚥下力がどれくらいか、次の方法でチェックしてみてほしい。
まずはひと口の水を飲んで、口の中を軽く湿らせること。その後、人さし指をのどぼとけのやや上側に添えたまま、唾液を飲み込む。飲み込む動作を30秒間で何回できるかで、自分の“のど年齢”がわかる。
「10回以上できれば、のど年齢は20代とみていいでしょう。9回なら30代、8回なら40代…と、1回できなくなるごとに10才のどは老けていき、4回以下しかできなかった場合、のど年齢は80代以上になります」(大谷さん・以下同)