1月はお餅の誤飲事故が急増「お餅と一緒に”入れ歯”を飲み込んでしまった!」原因と対策を歯科医師解説
消費者庁によると、お餅による窒息死亡事故の43%が、1月に発生している。さらに、お餅と一緒に歯の詰め物や部分入れ歯を飲み込んでしまうという危険な事故も起きている。餅を食べる機会が多いこの季節、入れ歯の誤飲を防ぐための注意ポイントについて、歯科医師の宝田恭子さんに教えてもらった。
教えてくれた人
歯科医師/宝田恭子さん
宝田歯科医院院長。日本アンチエイジング歯科学会幹事。口元の筋肉を鍛える宝田式エクササイズも考案し、『「顔面地滑り」をくい止める! 宝田式 速効5分 顔筋リフトアップ』(PHP研究所)など著書多数。
お餅による窒息事故が1月に急増、とくに男性は注意
「80代の父親はお餅が大好きなんですが、喉に詰まるんじゃないかと毎年この季節は気が気じゃなくて…」(50代女性)
厚労省によると、食べ物による窒息事故は65才以上の高齢者に多い。死亡者数は年間約3500人以上で、80才以上が2500人以上と報告されている。中でも注意すべきなのが「お餅」だ。
お餅が食卓に並ぶこの季節は、高齢者によるお餅による事故が増える。消費者庁の分析によると、餅による窒息死亡事故の43%が、お餅を食べる機会が多い1月に発生しており、男性の死亡者数は女性の2.6倍となっている。
また、餅の窒息事故による死亡者数は、80~84才が最も多い。
お餅と一緒に入れ歯を飲む危険な事例も
お餅による窒息事故だけでなく、さらに注意すべきなのが“入れ歯”の誤飲だ。
消費者庁に寄せられた事故事例によると、お餅と一緒に入れ歯を飲み込んでしまった高齢者も。
「餡の菓子を食べていたところ、奥歯を一緒に飲み込んでしまい、レントゲンを撮ったら骨盤内の腸管に金属様の物体が見つかった」(80 代女性)
「喉に何か詰まった感じがして病院でレントゲンをしたら部分入れ歯が見つかった。その後、気管切開術後、喉頭の異物の摘出術を行なった」(70代男性)
高齢者の誤飲事故TOP3
1位 薬のPPPシート…36.5%
2位 義歯・詰め物…21.1%
3位 洗剤・漂白剤等…12.3%
参考/消費者庁「年末年始、餅による窒息事故に御注意ください!」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/release/pdf/consumer_safety_cms204_20201223_01.pdf
消費者庁「高齢者の誤飲・誤食事故に注意しましょう!」
https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_safety_cms204_190911_01.pdf
お餅ほか誤飲の原因と対策を医師が解説
お餅にくっついて部分入れ歯を飲み込んでしまう――。そんな恐ろしい事故を防ぐためには、どうすればいいのか、歯科医師の宝田恭子さんに対策を聞いた。
「入れ歯はそう簡単に飲み込めるものではないですが、気つかずに誤嚥してしまうケースはよく耳にします」と、宝田さん。
誤飲の主な原因は、「入れ歯がフィットしていないこと」だという。
「コロナ禍の検診控えなどで、入れ歯が不安定になっている高齢者は多いと感じます。緩んだ入れ歯をそのまま使い続けていると、噛んでいるうちに外れてしまうこともあり、誤って飲み込んでしまうんですね。
とくに、認知症のかたは飲み込んでしまったことに本人が気づかないケースもあります。
食べ物が飲み込めるやわらかさになっていないのに飲み込めてしまう、入れ歯がフィットしているかどうか自覚しにくいことも原因と考えられます」
お餅を始め、入れ歯の誤飲を防ぐための対策は、「入れ歯の定期的なメンテナンス」が大事だという。
「年齢を重ねると、顎の骨の骨密度が減少することで、入れ歯は緩くなってしまいます。これは、歯周病などとは異なり、自宅でケアをしっかりしていればいいというものではないため、定期的に歯科医院でチェックして、フィットするように調整してもらうことが大切です」
嚥下の状態を知り、食べ方の工夫を
「お餅の詰まりが不安な場合、お餅に限らず、ほかの食材でも喉の詰まりやつっかえやすさを感じているケースが多いと考えられます。
普段の食事を家族が注意深く見守るなど、嚥下の状態をよく観察したほうがいいですね。
まずは、ご自身の嚥下力を知ることが大切です。しっかりと口を閉じて噛んで嚥下できていますか? 口を少し開けた状態で噛んでいたり、お話しをしながら噛んでいたりすると、つっかえやすくなる傾向にあります」
消費者庁では、お餅の食べ方の注意点として以下の5つを挙げている。
・小さく切って食べやすい大きさにしてください。
・お茶や汁物などを飲み、喉を潤してから食べましょう(ただし、よく噛まないうちにお茶などで流し込むのは危険です)。
・ひと口の量は無理なく食べられる量にしましょう。
・ゆっくりとよく噛んでから飲み込むようにしましょう。
・高齢者が餅を食べる際は、周りの方も食事の様子に注意を払い、見守りましょう。
お餅、入れ歯…危険な誤飲を防ぐ対策「カラオケ、安定剤」
「食事のときの姿勢は大事。喉や気道がまっすぐになるように身体を起こし、本来食事をすべき姿勢を心がけるだけでも誤嚥の予防に繋がります。
また、発声練習や腹筋を鍛えることでも嚥下力はアップします。普段からカラオケによく行っているかたは、嚥下に悩んでいる人が少ない印象です」
さらに、入れ歯が取れやすいのが心配な場合は、入れ歯安定剤を使う方法も。
「安定剤の添付文書は文字が小さく分かりづらいからと、読まないかたも多いんです。歯科医師や衛生士さんと文書の内容を確認し、使い方をしっかり守りましょう。
安定剤にはさまざまタイプがあるので、歯科医師に判断してもらうのがいいでしょう。厚く塗ってしまうと高さが変わってしまうため、しっかりフィットするように塗布することがポイントです」
もしもの時の連絡先やツール
119番
電話相談窓口「救急安心センター事業(♯7119)」等
「救急車を呼んだ方がいいのか」、「今すぐ病院に行った方がいいのか」等、救急医療を受診するか迷った際に、短縮ダイヤル「♯7119」で救急電話相談を利用できる地域がある。また、♯7119 以外の電話番号やネットガイド等で類似のサービスを実施している地方公共団体も。
総務省/全国版救急受診アプリ「Q助(きゅーすけ)」
該当する症状を選択すると緊急度に応じた対応が表示される。スマホ版では、そのまま 119 番通報ができるほか、自分で医療機関を受診する場合には、医療機関や受診手段(タクシーなど)の検索を行うこともできる。
日本医師会「救急蘇生法」
餅による窒息事故の対処法「気道異物除去の手順」
https://www.med.or.jp/99/kido.html
構成/介護ポストセブン編集部
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