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注目の「マイナ保険証」何が便利?介護施設で暮らす高齢者の申請はどうする?リット・デメリットメをFPが解説

 マイナンバーカードが健康保険証としても活用できる「マイナ保険証」。別人の情報が紐付けられる誤登録が問題になっているが、そもそもマイナ保険証とはどんなものなのか、高齢者や介護施設で暮らす人は活用できるのだろうか。メリット・デメリットについてファイナンシャルプランナー・河村修一さんに解説いただいた。

注目の「マイナ保険証」どうなる?

 医療機関での手続きや受診、支払いがスムーズになるなどの利便性があると謡われる「マイナ保険証」ですが、別人の情報が紐付けられる問題が発覚し、世間を賑わせています。

 現在、マイナ保険証に関して、健康保険証の紐付けに誤りのある事案が複数発生していることから、デジタル庁、厚生労働省、総務省の3省庁によるマイナンバー情報総点検本部が設置(令和5年6月21日)されています。

※デジタル庁「マイナンバーの誤紐付け事案」(2023.6.20時点)

現行の健康保険証が2年後に廃止か

 マイナ保険証は、令和3年10月から利用が開始されました。現行の健康保険証は、令和6年(2024年)秋ごろに廃止され、マイナ保険証へ一本化される予定になっています。

 現時点では、猶予として令和7年秋までは継続使用可能の方針が打ち出されていますが、そもそも廃止に対して反対意見も上がっています。

 なお、健康保険証の廃止後、マイナ保険証を持っていない場合は、「資格確認書」(無料)の送付が検討されていますが、こちらも議論が続いています。

 高齢者や介護が必要な人にとって、健康保険証は頻繁に活用する大切なもの。そもそも高齢者や介護が必要な人、介護施設で生活する人たちは、新たな制度に対応できるのでしょうか。改めて、マイナ保険証でいったいどんなことができるのか、確認していきましょう。

マイナ保険証の主なメリット

 マイナ保険証を利用することで、以下のようなメリットがある。

【メリット1】医療機関での手続きがスムーズになる

 医療機関で常用している薬の名前を思い出せず、医師などに伝えることができなかったことはないでしょうか?「マイナ保険証」を活用すれば、本人が同意すれば、初めての医療機関でも、特定健診情報や今までに使った薬剤情報が医師等と共有でき、より適切な医療を受けることが可能になります。

 また、顔認証で受付ができるなど、医療機関の受診がスムーズになります。

【メリット2】健康管理の情報を把握できる

「マイナポータル※」を利用して、特定健診情報(40歳から74歳までの方を対象に、メタボリックシンドロームに着目して行われる健診結果の情報)や、薬剤情報がいつでも閲覧でき、自分自身の健康管理に役立てることができるようになります。

※マイナポータル…マイナンバーカードと紐付いた国が運営する自分専用のサイト(またはアプリ)から、行政手続きや確定申告などがオンラインで行える。

【メリット3】高額療養費制度の手続きの負担が減る

 医療費が高額になった場合、「高額療養費制度」により、自己負担限度額を超えた分を一時的に支払い、後日申請すると返金される仕組みになっています。このとき、「限度額適用認定証」(加入している保険組合等に申請)があれば、一時払いは不要になります。

 マイナ保険証を利用すれば、自己負担限度額を超える一時的な支払いが免除されるため、「限度額適用認定証」の申請手続きなどの負担が減ります。

【メリット4】医療費控除の申請がオンラインでできる

 医療費控除の確定申告をしようとして、思ったより手間がかかり途中であきらめた人もいるのはないでしょうか。マイナポータルを介してe-Taxと呼ばれるオンラインの確定申告ができるため、医療費控除の申請手続きがスムーズにできます。

【メリット5】健康保険証としてずっと使える

 転職・転居等による保険証の切替えや更新が不要になり、健康保険証としてずっと使えるため、利便性が向上。

【メリット6】医療機関で初診料等が安くなる

 マイナ保険証を医療機関で利用する場合、診療報酬の加算の窓口負担が低くなります。例えば、初診の場合、マイナ保険証を利用すると窓口負担は6円、利用しなければ18円となり(令和5年4~12月)、マイナ保険証を利用した場合のほうが負担減等になります。

マイナ保険証の活用で考えられるデメリット

 マイナ保険証を利用するためのシステムを運用を開始している医療機関等は、現在4割程度※にとどまっている。デメリットを以下にまとめた。

※全国健康保険協会「医療機関・薬局におけるオンライン資格確認の導入状況」

【デメリット1】マイナ保険証がまだ利用できない医療機関もある

 4月から「マイナ保険証」のためのオンライン資格確認システムの導入が、医療機関や薬局で義務化された。これは、マイナンバーカードをカードリーダーに置き、「顔認証」か「暗証番号」で、本人確認と保険資格の確認が一度にできるシステムだが、導入されていない場合は利用できない。

【デメリット2】デジタルならではの不具合

 システムの不具合や通信トラブルなどの可能性も考えられる。

【デメリット3】毎回受診時に資格確認が必要

 毎回受診時にオンライン資格システムでの確認をしなければならない。保険証の提示は月に1回だったことを考えると、手間が増えるという声も。

【デメリット4】個人情報が漏洩するリスクも

 サイバー攻撃などにより病歴などの個人情報が漏洩するリスクがある可能性も。

【デメリット5】更新手続きが面倒

 マイナ保険証の更新時の手続きは市区町村等の窓口に出向かなければならない(代理人でも更新手続きは可能)。

【デメリット6】再発行に時間がかかる可能性も

 マイナ保険証を紛失した場合などの再発行に時間がかかるという懸念も。

※参考/デジタル庁・総務省・厚生労働省「マイナンバーカードが健康保険証として利用できます」
※参考/厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用について~医療機関・薬局で利用可能~(令和4年1月)」

施設で暮らす高齢者の申請はどうなる?

 マイナ保険証を利用するためには、マイナンバーカードを申請・取得する必要があります。特別な理由がある場合は、市区町村長が認める任意代理人による申請も可能となっています。

 マイナンバーカードをすでに持っている場合は、専用のウェブサイト『マイナポータル』やセブン銀行のATM、医療機関・薬局の顔認証付きカードリーダーなどからマイナ保険証利用の申し込みを行います。

 なお、マイナポータルについては、代理人登録をすることで、本人にかわって操作ができるようになる。

※申し込み方法/マイナポータル(マイナンバーカードの健康保険証利用について)

 マイナンバーカードの交付枚数率※は、全国で69.8%(令和4年1月1日時点)となっており、普及は進んでいるといえます。

 一方で、介護施設で暮らすかたや高齢の単身者で申請が難しいなどの問題もあります。デジタル庁※によると、「デジタル庁・総務省中心に、全力をあげて、施設に入所している方なども含め、すべての方々がマイナンバーカードを持ちうるように努めてまいります」と表明していますが、現行の保険証の廃止に反対を表明している医療機関もあるため、今後政府がどんな措置が講じるのか、注意深く見守る必要がありそうです。

※総務省/マイナンバーカードの申請状況

※デジタル庁「よくある質問:マイナンバーカードの健康保険証利用について」

→シリーズ記事「FPが教える介護で得するお金の話」

執筆

河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士

河村修一さん

CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、複数の保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/

●年金で入れる「ケアハウス」とは?種類や入居条件、費用、サービスを解説 入居した父親が退去を余儀なくされた実例も【FP解説】

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