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特養に早く入所できた実例・介護費用を安く抑える補足給付とは?【介護のお金FP解説】

 介護のお金の相談や手続きを専門とするファイナンシャルプランナーの河村修一さんが、実体験や相談事例をもとに役立つ制度を解説する【介護のお金相談】。「特別養護老人ホーム」への入所を希望されていたご家族の相談事例から、介護費用の備え方や安く抑える方法などについて教えてもらった。

施設によってお金の負担額は変わる

 在宅介護が難しくなってくると、施設介護を選択することになりますが、施設選びは悩ましい問題です。特別養護老人ホーム等の公的施設に入所するのか、有料老人ホーム等の民間施設に入居するのかで、お金の負担額が変わってきます。

 比較的安価なのが、特別養護老人ホーム等の公的施設ですが、原則、要介護3からしか入所できません。

 また、特養は、地域によっては、希望してもすぐに入所できない場合もあります。

 一方、有料老人ホーム等の民間施設へ入居した場合、費用はピンキリになります。親の年金収入、資産等をしっかり把握して施設を選ぶ必要があるでしょう。

特別養護老人ホームに早く入所できた実例

 特別養護老人ホームの入所を希望されていたAさん(80代、男性)の相談事例をもとに解説します。

 東京23区内に住んでいるAさんは、昨年に奥様を亡くされてひとり暮らし。数か月前に階段を踏み外して転倒し、さらに、認知症の症状もあり要介護3の認定を受けました。

 Aさんには、お子さんが2人、長女は首都圏近隣の地方都市で暮らしており、次女はAさんのご自宅の近所に住んでいます。

 次女は、在宅での介護が難しく、家族で相談した結果、「施設介護」を選びました。Aさんの年金収入や資産等から、特別養護老人ホーム(以下、特養)への入所を希望されました。

 しかし、特養への入所は、申し込み順ではなく、緊急度の高い人が優先される仕組みになっています。そのため、Aさんは、すぐに特養には入所できず、介護老人保健施設に入所して順番を待つことを考えていました。

 そんなとき、長女が暮らす地方都市の自宅の近くの特養なら、入所できる可能性があることがわかりました。都心と地方とでは、特養の入所しやすさなどの事情が異なることもあるようです。

 早速、申し込んでみたところ、Aさんは特養へ入所することができました。

 さらに、Aさんは、介護保険制度の補足給付(特定入所者介護サービス費)を申請したことで、介護費用を安く抑えることができました。補足給付について、以下で解説します。

補足給付(特定入所者介護サービス費)で施設の負担額は減る

 特別養護老人ホーム等の公的施設であれば、一定の所得や資産によって、食費や居住費の自己負担が軽減できる制度があります。これを「補足給付(特定入所者介護サービス費)」と呼びます。

 補足給付を受けるには、次の2つの要件をすべて満たさなければなりません。そのうえで、市区町村に申請して「介護保険負担限度額認定書」の交付を受ける必要があります。

【1】世帯全員が住民税非課税(別世帯に配偶者がいる場合、その配偶者が住民税非課税)

【2】預貯金等が基準額以下(資産要件)

【介護保険負担限度額認定の対象者】

段階|所得要件|資産要件

第1段階|生活保護受給の方または、本人が老齢福祉年金受給の方|預貯金等が単身で1000万円以下の方(夫婦で2000万円以下の方)

第2段階|本人の合計所得金額と課税年金収入額と非課税年金額の合計が80万円以下の方|預貯金等が単身で650万円以下の方
(夫婦で1650万円以下の方)

第3段階(1)|本人の合計所得金額と課税年金収入額と非課税年金額の合計が80万円超120万円以下の方|預貯金等が単身で550万円以下の方|(夫婦で1550万円以下の方)

第3段階(2)|本人の合計所得金額と課税年金収入額と非課税年金額の合計が120万円超の方|預貯金等が単身で500万円以下の方
(夫婦で1500万円以下の方)

申請にはすべての口座の写しが必要

 なお、「預貯金等」(資産要件)に含まれるものは、「預貯金(普通・定期)」、「有価証券」、「金・銀など、購入先の口座残高によって時価評価額が容易にできる貴金属」、「投資信託」、「現金」となります。

 一方、含まれないものには、生命保険、自動車、腕時計、宝石などの時価評価額の把握が難しい貴金属、絵画、骨董品、家財などです。

 申請時に提出する資産の確認書類は、預貯金の場合、利用者・配偶者が持っている口座すべての通帳の写しが必要になります。

※参考/世田谷区ウェブサイト「介護保険負担限度額認定証の申請について」
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/fukushi/001/001/002/d00014807_d/fil/1.pdf

 たとえば年金収入等が80万円以下の場合、預貯金額が単身者は650万円(夫婦1650万円)以下なら対象(利用者負担限度額は第2段階)となり、施設の「食費・居住費(ユニット型個室の場合)」が基準費用額と比べると約6割強も軽減されます。
 
 ちなみに、Aさんの収入は国民年金のみで住民税非課税、預貯金も約350万円でしたので、補足給付の対象となり、施設代の自己負担額は毎月7~8万円になりました。

介護者の精神的な負担の軽減も大切

 早めに特養に入所できたAさんは、スタッフさんからも評判が良く、娘さんたちはとても喜んでいました。とはいえ、家族の前ではわがままなこともあるようで、私のところにご相談に見えたときは、娘さんたちは精神的に参ってしまっていました。

 姉妹はとても仲が良く、協力してAさんの面倒を見て、お互いにたまには愚痴を言い合ってストレス発散をしているそうです。今回のご相談でも姉妹仲の良さは見てわかり、介護に係るさまざまなお話を聞かせて頂きました。

***

 在宅介護から施設介護へ切り替えるとき、施設の形態や費用などさまざまな問題に対処する必要があります。両親を介護した私の経験から、「施設介護」は、トイレにひとりで行くことができなくなったときがひとつの目安かもしれません。

 特養などの公的施設を希望する場合、順番待ちになることもあるため、地域を変えてみるという選び方も。また、施設の利用料を抑えるために、補足給付の対象になるか調べておくといいでしょう。

 そして、介護者は、頑張りすぎて精神的に追い詰められてしまうこともあるため、いつでも気軽に相談できる家族や友人等の存在は大きいでしょう。もしも、身近に相談できる人がいない場合は、民生委員、社会福祉協議会、専門家等の力を積極的に借りてみることをおすすめします。

※記事中では、相談実例をもとに一部設定を変更しています。

執筆

河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士

河村修一さん

CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、複数の保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/

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