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狭き門の特別養護老人ホーム 早く入居するための6つのコツ

 在宅介護が難しくなったとき、施設入居を検討する場合は、公的施設である特別養護老人ホーム(特養)を第一希望する人は多いだろう。特養は、基本的に要介護認定3以上で入居ができるが、都心部では、入居待機者が多く、200人、300人待ちという施設も。そういった状況を聞くと、特養入居は無理なのではとあきらめてしまいそうだが、実際のところどうなのだろう。これまで当サイトで紹介してきた特養に入居するヒントをまとめて紹介する。

特別養護老人ホームとは

 特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)は、入所者が可能な限り在宅復帰できることを念頭に、常に介護が必要な方の入所を受け入れ、入浴や食事などの日常生活上の支援や、機能訓練、療養上の世話などが提供される。入所者の意思や人格を尊重し、常に入所者の立場に立ってサービスを提供することとされている公的な介護施設だ。原則、要介護3以上から入居が可能。

 公的施設のため、入居一時金もかからず、月々の費用もおさられているため、入居希望者が多い。厚生労働省によると2022年4月現在、入居待機者は、27.5万人。なかなかの狭き門だ。実際、東京や千葉の特養では、申し込み時点で300人待ちといわれるケースも多い。

 実際入居はかなり難しいのだろうか。

 介護評論家・佐藤恒伯氏は「工夫次第では順番待ちの期間は短くできる」と語る。

「大都市の特養では数百人待ちの施設もありますが、地方では空きが目立つところも増えています。特に要介護3以上が要件となってからは、入居から亡くなるまでの時間が相対的に短くなった。つまり回転が早くなり、居室がなかなか埋まらない施設もある。質の高いケアを提供するところでも、空きが出てきています」

 こうした実態を踏まえ、特養によりスムーズに入居する方法を考えていきたい。有識者の挙げる「特養に入りやすくなるポイント」は以下のようなものだ。

特養に入りやすくなるポイント

入り方1:順番待ちの「重複登録」をする

「1人が何件も同時に登録できるので、実際に待っている人数が27万人というわけではありません」(佐藤氏)

 正式な統計調査は存在しないが、1人が3施設ほど同時に登録しているケースは珍しくないという。

「複数の特養に同時に登録すれば空室にたどり着く確率は上がる」(同前)のだ。

 都心の特養より、順番待ちの少ない地方を狙うのもひとつの考え方だ。ケアタウン総合研究所の高室成幸氏は言う。

「入居すれば生活のほとんどが施設内で完結します。都心に住んでいたからといって、都心の特養だけが選択肢ではないと思います」

入り方2:ユニット型のほうが空きは多い

 特養は大きく「個室ユニット型」と「多床室型(従来型)」に分けられる。リビングや炊事施設を取り囲むように10室程度の個室を配置し、これを1ユニットとしてケアするのがユニット型。それに対して、2〜5人部屋が並ぶのが多床室型の特養だ。2タイプの混在型もある。タイプによって利用料が変わる。

「最近はより安い料金の多床室を選ぶ人が増え、ユニット型の空きが目立ってきています」(高室氏)

入り方3:入居申込書の「特記事項」を熱心に書く

 特養の入居は単純に「申請した順番」で決まるわけではない。より必要に迫られた人が優先される「緊急性」を考慮した入居判定が行なわれる。書類審査による判定が多いので、その“書き方”がカギとなる。

 緊急度の高さは、特養の申込書の「特記事項欄」に記入することができる。

「申込書には、基本的な情報を回答する選択質問の他に、特記事項を記入できる欄があります。書き込まずに提出する人もいますが、それでは施設員が緊急性を判断しきれず、先を越されるばかりです。できるだけ細かく、どんな問題行動があるのかを具体的に書き記しましょう。スペースが足りなければ、別紙を用意しても構いません

 認知症で徘徊などがある場合は順番の繰り上げが検討されます。ところが家族が“恥ずかしい”と考え、そうした事実を申込書などに書かないケースが散見される。それでは入居が遠のくだけ。むしろ、認知症の症状は申込書の特記事項などの欄に細かく具体的に書き入れましょう」(佐藤さん)

 特記事項には、要介護者の状態だけでなく、自分たちがいかに困っているかを書くことも決め手になるという。ケアタウン総合研究所代表の高室成幸さんが解説する。

「金銭的な困りごとも“繰り上げ当選”を成功させる大きな要因です。たとえば、『現在入居している有料老人ホームの費用が年金では補えなくなり、子供夫婦たちが共働きをして支えている』などの苦境を説明することで、“繰り上げ当選”に至ったという実例もあります」

 決して面倒くさがらずに、思いの丈をさらけ出すことが特養の空席を手に入れる近道だ。

入り方4:「特養のデイサービス、ショートステイ」の活用

 入居したい特養があれば、要介護1、2の段階から、その施設のショートステイやデイサービスなどを使って「顔見知りになっておく」のも有効だと高室氏は言う。

「特養の8割くらいはショートステイやデイを併設しています。利用して施設側に“大変な実情”を知ってもらうと入居判定がスムーズに通ることがあります」

入り方5:インターネットで空室状況を小まめにチェック

 役所の老人福祉課を訪れたり、電話で空室状況を問い合わせることもできるが、インターネットを利用すれば簡単に素早く情報を手に入れることができる。

「自治体によっては特養のベッドの空き状況を一覧で公表しているところがあります。インターネットの情報をもとに待機人数の少ない特養や、新設の特養を探すのも有効的な手段です。情報収集を細かく行っているケアマネさんを選ぶことも重要です」(佐藤さん)

 特養の中には、施設のHPで空き状況を小まめに提供しているところもある。ネットをチェックする習慣を身につけておこう。

入り方6:専業主婦をやめると、緊急度が格段にアップする

 特養の入居に、家族の就労状況は大きく影響する。

「たとえば、Aさんが同居している娘は専業主婦で毎日家にいて、一方、Bさんの家は共働きのため日中は誰も見られないというケースであれば、Bさんが優先される可能性が高い。今、世の中は“70才まで働ける社会を目指そう”といったかけ声と、介護離職ゼロを応援するムードがありますから、それを追い風にしない手はありません。その上、専業主婦をやめて働き出すことで、『経済的にも大変なんだな』というアピールにもつながります」(高室さん)

 さらに、企業に勤める人たちには、介護をサポートする制度が非常に充実していると横井さんは言う。

「2017年に施行された『改正育児・介護休業法』により、企業は介護による離職を防止し、仕事と介護の両立を支援する制度を設けることを義務づけられました。介護休暇を取ることはもちろん、介護費用を援助する企業もあります。

 しかし、各社で調査を行ったところ、同制度のことを知っている社員はわずか5%しかいませんでした。これから親の介護が必要になりそうだと感じたら、速やかに職場の上司や人事部に相談し、支援制度を確認してください」(横井さん)

「うちはまだ大丈夫」と後回しにしていると、急に仕事を休んで迷惑をかける羽目になるかもしれない。

 人は誰しも老い、衰えていくのが自然なこと。決して後ろめたさを感じる必要はない。早め早めに手を打ち、しっかり主張することが、介護で苦しまない最も重要なコツだ。

 終の棲家の有力な候補となる特養。その実状を正しく把握することが、“長い老後”を生き抜く上で重要なカギとなる。

教えてくれた人

介護評論家・佐藤恒伯氏、ケアタウン総合研究所・高室成幸氏

初出:週刊ポスト

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