温泉の種類や効能を医学博士が解説 美人の湯とは?硫黄泉て何?全国温泉地の泉質ガイド
日本は世界有数の温泉大国と言われ、環境省の調査によると宿泊施設のある温泉地は全国で約3000もあるという。温泉には疲労回復やストレス解消などさまざまな効能がある。疲れた身体を温泉で癒して、お肌もツルツルになりたい!湯船の健康効果や泉質の効能について大学の研究者に話を聞いた。
温泉の泉質や効能を医学博士が解説
川中島の合戦を終えた武田信玄は、部下(しもべ)を連れて山梨県身延町の下部温泉で疲労回復に努めたといわれている。また、織田信長は下呂温泉(岐阜県)での湯治を好んだとも。もちろん、自宅の風呂でも、心身を回復させたり、病気を予防したり、けがや病気の治癒を早めることはできる。近年、「湯船」の健康効果が医学的に立証された。
千葉大学が3年間かけて全国の高齢者約1万4000人を対象に行った調査では、週7回以上湯船につかる習慣がある人は、週0~2回しか湯船につからない人と比べ、要介護リスクが3割も減少することがわかったのだ。湯船につかる習慣は、ほかにもさまざまな病気のリスクを下げることができる。
医学博士で温泉入浴指導員の一石英一郎さんが解説する。
「大阪大学などの研究で、ほとんど毎日湯船につかる人は、週2回以下しか湯船につからないグループと比べて、心疾患が35%、脳出血が46%、脳梗塞が23%も、発症リスクが減少しました。毎日お湯につかってリラックスしながら全身を温め、血流をよくすることは、寿命を左右するさまざまな病気のリスクを下げ、健康寿命を延ばすことにつながるのです」
入浴をシャワーで済ませるのと、湯船につかるのとでは、健康効果に大きな違いがある。
東京都市大学人間科学部教授で温泉療法専門医の早坂信哉さんが言う。
「シャワーとは違い、湯船につかると温熱による血管拡張効果と水圧によるマッサージ効果で血流が改善します。血流がよくなれば、血液に乗って運ばれる酸素が体のすみずみまで届き、老廃物が効率よく回収される。それにより、疲労回復や新陳代謝が促進されます」
全身を効率よくお湯で温められるのも、シャワー浴にはない大きなメリットだ。温熱作用によって筋肉の緊張がほぐれると、こりや痛みが軽減するほか、浮力によるリラックス作用で自律神経が整い、睡眠の質の向上や腸内環境の改善にも役立つ。
「体が温まって血管が広がることで一時的に血圧を下げ、毎日繰り返すことで動脈硬化の予防にもつながると考えられます。そうして温まって全身がほぐれることで痛みが取れる。痛みが取れれば活動量が増し、認知症などの予防にも役立つ。毎日の浴槽入浴を積み重ねることで、健康寿命を延ばすことにつながります」(早坂さん・以下同)
温泉の成分の種類を知る「美人の湯」とは?
可能なら、やはり温泉に行ってゆったりお湯につかりたいもの。家の風呂と違い、湯が冷めることがないのがメリットの1つだ。また早坂さんによれば、その種類にかかわらず、温泉成分が溶け込んでいることで、さら湯よりも体が温まりやすく、高い温熱効果が得られる。
「『単純温泉』と称される温泉であっても、自宅の浴槽でさら湯を温めただけのものよりは、はるかに高い温熱効果を持ちます。保温効果が高いのは、熱海温泉(静岡県)などに代表される塩化物泉。塩類が肌の表面に皮膜をつくることで、温泉から上がっても体が冷めにくく、温熱効果が長持ちします。蔵王(ざおう)温泉(山形県)などの硫黄泉も、硫化水素が血管を拡張させることによる血流改善効果が高い」
二酸化炭素泉(炭酸泉)は、微細な炭酸ガスが経皮吸収されることで血流がよくなり、血圧を正常化したり、胃腸の調子を整える作用が期待できる。
「東京都大田区の黒湯温泉は炭酸水素泉です。その名のとおり真っ黒い湯が特徴で、これは藻類に由来する成分が含まれた『モール泉』というもの。アルカリ性で肌の古い角質を落とす効果があり、天然保湿成分のメタケイ酸も豊富に含んだ“美人の湯”でもあります。
日本三大薬湯といわれる有馬温泉(兵庫県)、草津温泉(群馬県)、松之山温泉(新潟県)には、いずれも塩化物泉があります。中でも松之山温泉は『ジオプレッシャー型温泉』かつ『化石海水温泉』。海底の泥岩などに閉じ込められ、地温で温められた海水です。約1200万年前の植物の化石から溶け出した成分も含まれています」(一石さん)
成分の濃いお湯は浸透圧の関係で体にしみ込みやすいといわれる。水分と一緒に温泉成分が体内に吸収されやすく、温熱作用も高いということだ。早坂さんは、体に応じた泉質の選び方が重要だと話す。体質や体調によっては、肌や体への刺激が強すぎたり“湯疲れ”を起こしてしまう恐れがあるからだ。
「疲れていたり、弱っていたりするときは、単純温泉や塩化物泉、硫酸塩泉、炭酸泉など、マイルドな泉質のお湯がいい。一方“いまも元気だけれど、もっと元気になりたい、リフレッシュしたい”というときや体力に自信のある人には、硫黄泉や酸性泉、鉄泉、放射能泉、含ヨウ素泉など、効能も刺激も比較的強めの温泉でもいいでしょう」(早坂さん・以下同)
温泉旅行に行く際は、成分で選んでみてもいいかもしれない。
■全国「長生き温泉」リスト
※泉質と効能、温泉地の一例。
■単純温泉
【泉質】さら湯よりも温熱作用が高い。マイルドで万人向け。
【温泉地の一例】
作並温泉(宮城)、板室温泉(栃木)、鬼怒川温泉(栃木)、湯西川温泉(栃木)、那須温泉(栃木)、伊香保温泉(群馬)、下呂温泉(岐阜)、飛騨高山温泉(岐阜)、修善寺温泉(静岡)、伊東温泉(静岡)、道後温泉(愛媛)、由布院温泉(大分)
■二酸化炭素泉(炭酸泉)
【泉質】皮膚から炭酸ガスが吸収されることで血流がよくなり、血圧を正常化する。けがなどの回復を早める。飲用すると胃腸を刺激して便秘の解消効果も。
【温泉地の一例】
八甲田温泉(青森)、みちのく温泉(青森)、男鹿温泉(秋田)、三又温泉(秋田)、泡の湯温泉(山形)、肘折温泉(山形)、庄川温泉(富山)、湯屋温泉(岐阜)、有馬温泉(兵庫)、十津川温泉(奈良)、上湯温泉(奈良)、長湯温泉(大分)
■炭酸水素泉(かつては重曹泉とも)
【泉質】重曹のアルカリ性により、肌がツルツルになる「美人の湯」。
【温泉地の一例】
十勝川温泉(北海道)、黒湯(東京)、白峰温泉(石川)、平湯温泉(岐阜)、湯村温泉(兵庫)、南紀白浜温泉(和歌山)、龍神温泉(和歌山)
■塩化物泉
【泉質】肌の表面に皮膜をつくることによる保温効果。温かい状態が長続きする。
【温泉地の一例】
登別温泉(北海道)、秋保温泉(宮城)、鳴子温泉(宮城)、乳頭温泉(秋田)、松之山温泉(新潟)、和倉温泉(石川)、飛騨高山温泉(岐阜)、熱海温泉(静岡)、有馬温泉(兵庫)、城崎温泉(兵庫)、湯郷温泉(岡山)、黒川温泉(熊本)、別府温泉(大分)、指宿温泉(鹿児島)、琉球温泉(沖縄)
■硫酸塩泉
【泉質】「傷の湯」と言われることもあり、やけどやけがなどによいとされる。
【温泉地の一例】
鳴子温泉(宮城)、銀山温泉(山形)、飯坂温泉(福島)、四万温泉(群馬)、伊香保温泉(群馬)、山代温泉(石川)、山中温泉(石川)、玉造温泉(島根)、さぎの湯(島根)
■硫黄泉
【泉質】硫化水素が血管を拡張させ、血流を改善する効果が高い。
【温泉地の一例】
登別温泉(北海道)、繁温泉(岩手)、鳴子温泉(宮城)、乳頭温泉(秋田)、蔵王温泉(山形)、那須温泉(栃木)、万座温泉(群馬)、月岡温泉(新潟)、白骨温泉(長野)、昼神温泉(長野)、飛騨高山温泉(岐阜)、雲仙温泉(長崎)、黒川温泉(熊本)、霧島温泉(鹿児島)
■酸性泉
【泉質】殺菌力が高く、肌荒れや水虫などの皮膚疾患の改善を助ける。
【温泉地の一例】
登別温泉(北海道)、酸ヶ湯温泉(青森)、八甲田温泉(青森)、荒川温泉(青森)、嶽温泉(青森)、玉川温泉(秋田)、蔵王温泉(山形)、塩原温泉(栃木)、草津温泉(群馬)、岳温泉(福島)、栄之尾温泉(鹿児島)
■鉄泉
【泉質】保温効果、造血作用が高く、貧血や月経障害などの改善に役立つ。飲用も効果的。
【温泉地の一例】
登別温泉(北海道)、ニセコ湯本温泉(北海道)、黄金崎不老ふ死温泉(青森)、鳴子温泉(宮城)、須川温泉(秋田)、草津温泉(群馬)、強羅温泉(神奈川)、関温泉(新潟)、長良川温泉(岐阜)、有馬温泉(兵庫)、雲仙温泉(長崎)、鉄輪温泉(大分)、指宿温泉(鹿児島)
■放射能(ラドン、ラジウム)泉
【泉質】微量の放射線を入浴または空気中から吸入することで、利尿作用、痛みの鎮静、新陳代謝の促進などを助ける。「万病の湯」とも。
【温泉地の一例】
登別温泉(北海道)、母畑温泉(福島)、栃尾又温泉(新潟)、増富温泉(山梨)、飛騨高山温泉(岐阜)、柿野温泉(岐阜)、ローソク温泉(岐阜)、三谷温泉(愛知)、湯の山温泉(三重)、赤目温泉(三重)、天橋立温泉(京都)、湯の花温泉(京都)、有馬温泉(兵庫)、三朝温泉(鳥取)、こんぴら温泉(香川)
■含ヨウ素泉
【泉質】飲用による高コレステロール血症の改善。ただし、甲状腺機能亢進症の場合は飲用は禁忌。
【温泉地の一例】
大潟村温泉(秋田)、新屋温泉(秋田)、白子温泉(千葉)、青堀温泉(千葉)、酒々井温泉(千葉)、古代の湯(東京)、聖籠温泉(新潟)、たまゆら温泉(宮崎)、佐土原温泉(宮崎)、木花温泉(宮崎)、新富町温泉(宮崎)、三重城温泉(沖縄)
※女性セブン2022年11月3日号
https://josei7.com/
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