高齢者のための安眠8か条を医師が指南!短時間でも睡眠の質を上げる行動とは?
暑さで眠れない…。なかなか眠りにつけないと悩む高齢者は多い。早めに布団に入ったのに、気づけば夜が明けている。そしてそんな日常に不安や焦燥感を抱く人は少なくない。しかし、長く眠るほど元気になるのは若いうちだけ。年を重ねたら、いかに睡眠に対する努力と期待を手放すかが、健康で快適な生活を送るためのカギとなるのだ。
うまく睡眠が取れない高齢者が多い理由
無理に眠ろうと努力するのは百害あって一利なし。しかしその一方で「眠れない」の裏に病気や不調が隠れているケースもある。抗加齢医学と睡眠の専門医・阪野クリニックの阪野勝久さんが指摘する。
「睡眠時間が短いことで日中に強い眠気や疲労感が出て活動に集中できないなど、社会生活に支障が出ているのであれば、不眠症に該当します。また、高血圧や糖尿病といった生活習慣病を治療している人は、合併症として不眠症状が出るケースもあります。
反対に、たとえ睡眠時間が短かかったとしても家事や周囲の人たちとのコミュニケーションなど日中の生活に影響が出ていないのであれば心配する必要はありません」(阪野さん・以下同)
病気や不調を伴う不眠でなければ、まずは早く寝床に入る習慣を改めることから始めたい。
「うまく睡眠が取れない高齢者に多いのは、早寝ゆえに深夜に覚醒してしまうパターンです。夜9時くらいに布団に入れば、夜中の2時や3時頃に目が覚めますが、当然周囲はまだ眠っているため、暇と孤独を持て余して布団の中でダラダラ過ごすことになる。ストレスがかかるうえ、長時間寝そべっていれば倦怠感や筋力低下にもつながります。布団に入る時間を後ろ倒しにして、午前0~1時頃に眠れるように生活スケジュールを調整すれば、朝5時頃に目覚めることができる。世間の時間の流れに沿った生活をするのが理想です」
在宅医療のスペシャリストであるたかせクリニック理事長の高瀬義昌さん(高=はしごだか)も「遅寝早起き」を推奨する。
「患者には、夜11時頃に眠って早朝4時頃に目が覚めるのがいいとアドバイスしています。実践してみて日中に眠気が出るなど、睡眠量が足りないと感じるようならば、少しずつ時間を足していってください。最初から“何時間眠る”と決めずに、後付けで判断することがポイントです」(高瀬さん)
眠りにつく時間を調整することに加えて、積極的に取り組みたいのは、朝になったらしっかり起き上がり、太陽の光を浴びること。城北さくらクリニック副院長の犬丸真理子さんが言う。
「年を重ねると五感が鈍るため、わずかな光はうまく感じ取れないこともあります。もし高齢者を介護する立場であれば、朝が来たらカーテンを開けてしっかり光を部屋の中に取り込み、睡眠リズムの改善に協力することも意識してほしい」(犬丸さん・以下同)
高齢者の安眠のためにできること
高齢者の安眠のために、家族が協力できることはほかにもある。
「夜に眠れず、その分、日中うとうとしてしまうような高齢者も多いですが、こうした“昼夜逆転生活”を避けるために、昼間、家族が一緒に散歩に出かけるなど、体内時計が整うような方法を試してみてほしい。デイサービスを利用することも有効です。日中起きて活動していれば、夜は疲れて眠くなり、スムーズに入眠しやすくなります」
ただし、寄り添いすぎは禁物だ。早朝に目を覚ましてから夜遅く眠りにつくまで、一日中付き添う日々が続けば家族も疲弊する。
「お世話しようとする気持ちは尊いですが、“人の手を借りるのも愛”と心得てください。日中はホームヘルパーを呼んだり、夜中に家族を起こすほどひどい不眠であれば、医療者に相談して体に負担のない範囲で睡眠薬を使うことも検討してほしい。家族だけで抱え込んでしまえば、消耗します。また、日中眠ってばかりの場合、認知症による意識障害で昏睡状態に陥っている場合もある。違和感を覚えたら早めに病院にかかってください」
短時間で睡眠の質を上げる8つの方法
●太陽の光を浴びる…朝起きてすぐに太陽の光を浴びることで体内時計がリセットされる。起床したら必ずカーテンを開けること。
●朝食を摂る…毎日一定の時間に朝食を摂ることで体内時計が整う。食欲がなくても食卓につき、飲み物だけでも摂ること。
●散歩する…日中、散歩をすることで太陽の光を浴びられるうえ、活動量が増え快眠につながる。
●夕食を早めに摂る…食べてすぐ眠りにつくと、胃腸に負担がかかり胸焼けで安眠が妨げられる。
●カフェインを控える…特に「熱い緑茶」は要注意。アルコールやチョコレートなども控えること。摂取したい場合は、就寝3時間前までに。
●室温を一定に保つ…18~24℃が最も睡眠に適している。集合住宅の場合、分厚いカーテンや耳栓などで騒音対策も。
●スマホを控える…スマホやテレビの光は脳を刺激し、眠りに入りづらくなるため就寝前は控え、軽い読書などをするといい。
●アロマやストレッチを取り入れる…睡眠時間が減り、暇ができた場合はアロマオイルやストレッチなどを取り入れ、リラックスできる時間を過ごしたい。
深い眠りのためにやってはいけないこと
たとえ短くなったとしても、睡眠には心身ともに疲労を回復する高い健康効果があることに変わりはない。少しでも質を高めて深い眠りを取り、一日を元気に過ごすために犬丸さんが推奨するのは体内時計を整えること。
「朝起きて太陽の光を浴びた後、朝日を浴びながら散歩をすればさらに効果的です。決まった時間に朝食を摂るのも体内時計を整えるために重要。もし食欲がなかったとしても、朝食を食べるときと同じ時間に起きて食卓につき、飲み物だけでも摂るようにしてほしい」
気を配るべきは夕食も同様だ。
「あまり遅くならないうちに食べるようにすることが重要です。眠る時間が後ろ倒しになったからといって夜10時に晩ご飯を食べ、お腹いっぱいの状態で布団に入れば、胃腸に負担がかかるうえ、胸焼けしてスムーズに入眠できなくなります。
また、夕食後に熱い緑茶を飲んで一息入れる習慣を持つ人も多いですが、カフェインが含まれているので睡眠が浅くなってしまう。コーヒーは意識して夜は控えていても、緑茶や烏龍茶は気にせず飲んでいるという人は意外に多いのです。お茶に加え、夜遅くにチョコレートや栄養ドリンク、アルコールを摂ることも控えた方がいい。お酒を楽しみたいならば、適量を就寝の3時間くらい前までに飲み終えるようにしましょう」(阪野さん・以下同)
快適な睡眠環境の作り方
こうした日中の生活習慣の改善と並行して、快適な睡眠環境をつくることにも取り組みたい。
「快眠を得やすい室温は18~24℃ほど。できれば寝室と生活環境を分けるのが理想的です。特に集合住宅では騒音対策が必要なこともあります。気になる場合は厚めのカーテンに替えたり、耳栓を使うなどしてください」
テレビを寝る直前まで見ていたり、スマホに手を伸ばしたりするのも御法度だ。
「睡眠時間が短くなった分、夜の時間を持て余してしまう人もいると思いますが、テレビやスマホで時間を潰すのは推奨できません。これらの光は脳への強い刺激になり、覚醒させてしまって寝付きが悪くなります。寝る前におすすめなのは、ストレッチや読書。ただし本や雑誌の内容は軽いものを選んでください。深刻であったり刺激的な内容のものは脳の覚醒を促してしまう。アロマオイルをたいてリラックスするのも効果的です」
万全に準備して短くて質のいい睡眠が取れたら、翌日も元気に過ごせるはずだ。
「日中活動していて、眠気を感じたら昼寝を取り入れてみてください。ただし『20分以内』が鉄則です。それ以上寝てしまうと深い眠りに入ってしまい、起きた後にかえって体がだるくなる。夜間の睡眠の質にも影響します」
寝苦しいこれからの季節も、睡眠への期待を手放せば乗り切れるはずだ。
教えてくれた人
阪野勝久さん/抗加齢医学と睡眠の専門医・阪野クリニック、高瀬義昌さん/たかせクリニック理事長、犬丸真理子さん/城北さくらクリニック副院長
※女性セブン2022年6月30日号
https://josei7.com/
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