健康

調査で判明!100才で元気な健康長寿エリートの血液数値には共通点があった【医師解説】

 かつては見果てぬ夢だった「100まで生きたい」はいまや現実に。あなたが100回目の誕生日を迎えるとき、どんな状態で生きていたいだろうか?100才を超えてなお自立して幸せに生きる健康長寿エリートたちの血液数値にはある共通点があることが、最新研究で明らかになった。血液の数値「T-proBNP」「アルブミン」と長生きの関係について、専門医に解説いただいた。

約9万人が100才を超え「人生100年時代」に

「きんは100才、ぎんも100才」―いまからさかのぼること約30年、お茶目な双子の登場に日本中が釘づけになった。テレビCMや『徹子の部屋』(テレビ朝日系)への出演、流行語大賞の受賞とお茶の間を夢中にさせたのは、きんさんぎんさんの明るい性格やユーモラスな受け答えはもちろん、100才を超えて健康に生きる人が極めて珍しい存在だったことにある。人口統計によれば1992年の100才以上の人口は全国でわずか4152人だった。

 しかし現在、100才超えの超高齢者の人口は約9万人に達しており、厚生労働省の試算によれば5人に1人が100才を超えてなお生きる可能性を持つ「人生100年時代」が到来している。とはいえ、その中で健康な体を持ち自立して幸せに生きている人はほんの一握りだ。

 実際に85才を超えると2人に1人が要介護認定を受けているという調査もある。もし100才を迎えることができたとしても、体が思うように動かず、意思疎通もままならない状態であれば幸せとはほど遠い。どうすればこの「人生100年時代」を幸福に過ごすことができるのか。

 その答えを求め、20年以上にわたり研究を続けているのが、慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターだ。

 同センターでは100才を超えてなお自立して生活しているいわば「健康長寿エリート」たちの生活習慣や性格傾向、生い立ちなどを聞き取り調査して、分析を行うことにより、健康長寿の秘訣を解き明かそうとしている。研究に携わる教授の新井康通さんが解説する。

「私たちが“百寿者”と呼び、長年にわたってデータを集めてきた100才以上の人口は急激に増えています。しかし、110才まで長生きする“スーパーセンチナリアン”となると途端に数が減り、百寿者の500人に1人の割合になります。そういった人たちは健康寿命も長いゆえに、100才時点でも認知機能の衰えがなく、自立した日常生活を送っているケースが多い。こうした百寿者やスーパーセンチナリアンたちを長年にわたって調査したことにより、健康長寿を実現する人には、さまざまな共通点があることがわかってきました」

「血液」の数値が長寿に関係

 新井さんによれば、100才以上で自立した生活ができている人の共通点は「血液」にあるという。

「スーパーセンチナリアン36人を含む100才超え896人の血液データの解析と追跡調査をしたところ、『NT-proBNP』と『アルブミン』という血液検査の項目に健康長寿の秘密があることが明らかになりました。『NT-proBNP』は心臓の機能が低下している人ほど値が高くなる傾向があり、100才の時点で比べると、100~104才で亡くなった人の平均値が781、105~109才で亡くなった人の平均値が665だったのに対し、110才以上まで長生きした人の平均値は217と、明らかに低かったのです」(新井さん・以下同)

 一方の『アルブミン』はたんぱく質の一種で、栄養状態を示す目安となる数字。成人であれば4以上が正常値で、3.5以下になると低栄養状態だとされている。

「100~104才で亡くなった人の100才時点でのアルブミン値は平均で3.6でしたが、110才以上まで生きた人は3.92もあった。この値が低くなると運動機能が落ちて全身が衰弱する『フレイル』と呼ばれる要介護一歩手前の状態に陥るリスクが上がると考えられます」

■「健康長寿エリート」たちの血液数値には2つの共通点が!

 100~104才までに死亡した人の平均値はNT-proBNP 781pg/ml・アルブミン 3.60g/dl、105~109才までに死亡した人の平均値はNT-proBNP 665pg/ml・アルブミン 3.60g/dl 3.68g/dl、110才以上まで生きた人の平均値はNT-proBNP 217pg/ml・アルブミン 3.92g/dl

 数値はいずれも100才時点のもの。『NT-proBNP』は心臓の機能が低下している人ほど数値が高くなる。『アルブミン』はたんぱく質の一種で、数値が高いほど栄養状態がいい傾向に。

 つまり、心臓や血管の機能が高く、良好な栄養状態を維持できる体の持ち主こそが人生100年時代をサバイブできるということ。

 こう聞くと“持って生まれた体質や血中成分に左右されるのではないか”と思う人もいるだろう。親やきょうだいが短命であったり、“がん家系”の人は、悲報だと受け止めるだろうか。しかし、あきらめるのはまだ早い。

「確かに遺伝的に長生きしやすい、いわゆる“長寿家系”は存在しますが、非常にまれです。ながらくこの研究に携わってきた私でさえ、双子の百寿者にはお目にかかったことがありませんし、がんに罹患した経験を持つ“がんサバイバー”の百寿者もいる。寿命はその人の生き方によって大きく左右されるのです」

 長生きできるかどうかにおいて、遺伝よりも生き方が重要であることを指し示すデータはほかにもある。秋葉原駅クリニックの医師・佐々木欧さんは、海外で行われた双子研究の結果を例に挙げて解説する。

「デンマークで行われた、同一の遺伝子を持って生まれた一卵性双生児と、異なる遺伝子を持って生まれた二卵性双生児の寿命を比較した研究では、遺伝による先天的な要因と生活習慣などの後天的な要因の影響の度合いを比べて解析しています。その結果、一卵性双生児であっても、必ずしも寿命が似かようというわけではなく、遺伝による要因は全体の4分の1程度であり、大半は生活習慣に影響されることが明らかになったと報告されているのです」

アルブミンを増やすための食生活

 つまり、健康な体で100才を迎えるために、いまから実践できることは多く残されているのだ。

「特に重要なのは、たんぱく質をしっかり摂ることです。アルブミンの数値は、普段の食事に含まれているたんぱく質を摂取することでキープできますし、百寿者の多くはたっぷりたんぱく質を摂っている人が多い。

 肉や魚、大豆や乳製品など食卓に取り入れやすいものでかまいませんが、特に推奨したいのは青魚です。私たちが行った85才以上の高齢者を対象とした聞き取り調査によれば、青魚が多く含む良質な油分である『EPA』や『DHA』を多く摂っている高齢者ほど下肢の運動機能の衰えが少ないという結果が出ているのです。これはEPAやDHAの持つ抗炎症作用が理由だと推測されます」

教えてくれた人

慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター教授 新井康通さん

慶應大学で長年にわたって「百寿者」と「スーパーセンチナリアン」の研究を続ける。

取材・文/土屋秀太郎 取材/小山内麗香、戸田梨恵、田村菜津季、伏見友里

※女性セブン2022年5月12・19日号
https://josei7.com/

●島根県は100才超人口が9年連続1位 長寿の秘訣は「しじみ・さば・高齢者サロン」

●3代続く料理研究家・堀江家に学ぶ健康長寿の食事術12選「父は106才で亡くなる3日前まで夕食を完食」

●長生きする”血液”をつくる3つのルール|筋トレ、質のいい睡眠、あと1つは?

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