ヤングケアラーと夏休みの問題「母を施設入所させる!」鉄の意志が揺らいだ、母と出かけた平和な夏の1日
高次脳機能障害の母のケアを続けているヤングケアラーのたろべえさんこと、高橋唯さん。母が通うデイサービスはお盆休みがあるので毎年夏は、母と過ごす時間が長くなるという。夏休みにヤングケアラーが直面する困った問題と、夏のお出かけについてのエピソード。
執筆/たろべえ(高橋唯)さん
「たろべえ」の名で、ケアラーとしての体験をもとにブログやSNSなどで情報を発信。本名は高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。ヤングケアラーに関する講演や活動も積極的に行うほか、著書『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。 https://ameblo.jp/tarobee1515/
ヤングケアラーと夏休み
夏休みは多くの学生にとって嬉しいものだが、学校より家にいる時間が増えるということは、ヤングケアラーにとっては家族のケアをする時間が増える可能性もあるということだ。
学生時代の筆者は、夏休みは学校のことと家のこととどちらも頑張らなくてはいけない状態から少しだけ開放され、ホッとした覚えがある。普段は、学校でも学生としてしっかり振る舞わなくてはならないし、宿題は毎日あるし、それに加えて母のケアや家事もしているけれど、夏休みは学校に行くのは部活だけ。宿題も夏休み明けの始業式の日に提出できればいいので、夏休みのほうが気持ちはラクだった。
現在の筆者は、特に決まった夏休みがあるわけではないが、なんだか最近は「夏休みらしい」ケアをしている気がする。
母がエアコンの設定を誤って…
母はエアコンを適切に利用することが難しい。
冷やし過ぎ、暖房になっている、勝手に止める、誰もいない時間にタイマーで作動している…。帰宅したらタイマーで暖房が付けられていた、なんて最悪の事態もあり、熱中症の不安もつきまとう。
リモコンを隠してしまおうかとも思ったが、普段からリモコンを定位置に置けずに失くしてしまい、フラフラと探し回って転倒しそうになっているので、やめた。
電池の入っていない偽リモコンとすり替えておくことも考えたが、リモコンが動かないということはわかるので、5分おきに「動かないんだけど!」と呼ばれるのも大変なため却下。さてどうしたものか…。
今年のお盆休みはどうなる?
母の通っているデイサービスは、お盆期間中は休業だ。昨年はお盆休みが1週間あり、さすがに毎日家でケアをするのは大変だったので、ショートステイを利用しようと考えた。しかしながら、7月の時点で予約が一杯だったため利用できなかった。どこの家族も考えることは同じようだ。
その経験を踏まえ、今年は早めにお盆中のショートステイの予約を取り、無事に利用することができた。
昨年はピリピリした1週間を過ごしていたが、今年はとっても気が楽である。とはいえ、きっと予約が取れなかったご家族もいるのだろうと思うと少々胸が痛む。どうかなるべく平穏なお盆休みが送れますように…。
母と久しぶりに夏のお出かけ
母をショートステイに預ける前、2人でお出かけをした。母が「暑い!半ズボンが欲しい!」と言うので買いに行くことにしたのだが、それだけのためにわざわざ出かけるのも面倒だなぁ…と思い、ついでに前から気になっていた公園にも立ち寄ってみることにした。
父や誰かと一緒ではなく、2人だけで出かける機会はそう多くない。というのも、母は出先で目に入る物全てを欲しがり、手に入らないと大荒れ、万引き未遂もしているので、1人では大変すぎて、極力連れて歩きたくないのだ。しかしながら、今後、施設に入ったらどうしても出かける機会は少なくなってしまうかなと思い、苦労することは覚悟の上で一緒に出かけてみた。
すると、なんと予想に反して、母は大きな問題を起こさずに1日過ごすことができた。筆者としてはかなり気合いを入れていたので、すっかり拍子抜けである。
まず公園で蓮の花を見て、鯉に餌をやって、次に移動してズボンを買って(なぜか長ズボンを気に入って購入、その後は買ったことを忘れて「まだ買ってない」と言い続けていた)、大好きなハンバーガーを食べて、ちゃっかりクレープまで食べ、その後もこれからの入所生活に必要な物(母はそうは思っていないようだったが)を落ち着いて買い足すことができた。
きっと、母も年齢を重ねて少しおとなしくなったのだと思う。
このまま母が年を取ってくれば、ケアしやすくなって、こうして穏やかに過ごせる日も増えるんじゃないか。家で面倒を見ることもできるんじゃないか…って、いやいや、危うくほだされてしまうところだった。筆者は鉄の意志で母の施設入所を進めなくてはいけないんだった…。
でも、願わくば、またこんな風に母と出かけてみたいと思えるような、平和でよい1日だった。
夏休み中のヤングケアラーのこと、ぜひ気にかけてほしい
今日もどこかに、筆者のように家族のケアをしている子どもたちがいる。
夏休みに家族と時間を過ごすこと自体は悪くはないことで、むしろ望ましい部分もあるし、それなりに楽しく過ごすことができているヤングケアラーもいるだろう。とはいえ1人でケアを担う時間が長くなっていないか、ご飯をしっかり食べているか、宿題に取り組めているか、遊びや部活に行けているか…。
毎日学校に通っていない期間だからこそ、近所の子どもや、親戚の子ども、周囲のヤングケアラーの様子をぜひ気にかけてみてほしい。
ヤングケアラーに関する基本情報
言葉の意味や相談窓口はこちら!
■ヤングケアラーとは
日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。
■ヤングケアラーの定義
『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。
・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている
・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている
・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている
■相談窓口
・こども家庭庁「ヤングケアラー相談窓口検索」
https://kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/consultation/
・児童相談所の無料電話:0120-189-783
https://www.mhlw.go.jp/young-carer/
・文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310
https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm
・法務省「子供の人権110番」:0120-007-110
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html
・東京都ヤングアラー相談支援等補助事業 LINEで相談ができる「けあバナ」
運営:一般社団法人ケアラーワークス
https://lin.ee/C5zlydz