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もしも住宅ローンが支払えなくなったら…コロナ禍での不動産事情 固定資産税滞納にも注意

 住宅ジャーナリストの中島早苗さんとシニア期の住まいについて考えるシリーズ、今回はお金の話です。長引くコロナ禍で、生活状況に変化が起こった人が多い中、住宅のローンの支払いに困窮することがあるかもしれません。そのような事態に陥った場合はどうすればいいのか。実例をもとに対応策を探ります。

 * * *

コロナ禍で住宅ローンの返済に行き詰まる人は2年間で7倍に

 日本でもコロナ禍が始まってから2年が経ち、現在はオミクロン株による再流行で、第6派と言われる波のただ中です。

 長引く経済への影響は、個々人の住生活とも無縁ではありません。今回は、コロナ禍などで思いがけず失業や減収となり、住宅ローンや固定資産税が滞ってしまうケースについて考えてみたいと思います。
 
 まず、2年にわたるコロナ禍での経済への打撃で、雇用にはどのような影響が出ているのか見てみましょう。

 厚生労働省では、都道府県労働局の聞き取り情報や、公共職業安定所に寄せられた相談・報告等 を基に、新型コロナウイルス感染症の影響による「雇用調整の可能性がある事業所数」「解雇等見込み労働者数」の動向を集計しています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouseisaku1.html

 それによれば、新型コロナウイルスに係る雇用調整による解雇等見込み労働者数は、令和2年5月29日時点では16,723 人。そこから増加を続け、同4年1月14日時点の累計は123,955人と、7倍以上にも増えています。

 多くの人がコロナ禍で仕事を失ったり、労働時間を縮小されるなどして苦境に立たされ、それに伴い住宅ローンの返済に行き詰まる人も増えています。

 金融庁のまとめによれば、昨年末までに全国の金融機関に寄せられた返済期間の延長などの条件変更の相談は、およそ10万件にも上るということです。

 実際にコロナ禍で失職し、住宅ローンの返済が滞って自宅が競売予定となっている人から相談を受けているという、不動産会社経営の村上秀志さん(東京都港区 セイ・コーポレーション代表取締役)に話を聞くことができました。

 村上さんによれば、現在2人から同様の依頼を受けているということですが、そのうちの1人のケースを下に紹介しましょう。

失職し離婚、自宅が仮差し押さえになった人からの相談

 Aさんは10年前、さいたま市で60㎡の戸建て住宅を3800万円で購入。しかし約2年前、コロナ禍の初期に失業し、毎月のローンと固定資産税の支払いが滞るようになりました。現在アルバイトで働くものの、妻とは離婚。残債金が2000万円あり、ローンを借り入れたB銀行から自宅に対し、仮差し押さえの手続きをされてしまいました。その段階で、銀行からAさんに対し、今後支払いができるのか、できなければ競売に入る旨の通知が来ます。

●「競売」か「任意売却」か迷う前に

 同時にB銀行から、競売の前に「任意売却」という選択肢もあることを告げられ、銀行紹介の不動産会社での自宅の査定を勧められます。提示された査定価格は2100万円。2100万円なら競売よりは高い価格だろうし、残債も返せる。Aさんは、仕方ないかと思いながらも、他の不動産会社にも相談してみようと考え、村上さんと会うことになったそうです。

 村上さんが市場価格を調べると、まだ築10年で、交通の便も良い立地などから、3000万円ということがわかります。これを知ったAさんは村上さんに任意売却を任せることに。村上さんはB銀行と交渉して競売までの期限を3カ月延ばしてもらい、現在、Aさん宅の3000万円前後での任意売却に向けて動いているとのことです。

 ちなみに任意売却とは、競売手続きに入る前に、住宅ローンを借り入れている金融機関に許可を得て、残債がある住宅を市場に出して売却することを指します。

 村上さんは言います。

「住宅ローンの返済が滞ってしまい、借り入れている金融機関から差し押さえや競売手続きに入る通知が来てしまうと、多くの人は慌て困惑し、冷静な判断ができなくなります。結果、競売するしかないと思い込んだり、金融機関に紹介された不動産会社の査定価格を信じて売却してしまったりなど、市場価格よりずっと安い価格で家を手放すような事態に陥ることも珍しくありません。しかし、たとえそのような状況にあっても、本来なら今のAさんのように、任意売却によって市場価格に近い価格で売却することが可能です。

 住宅ローンを支払えていないことに負い目を感じ、金融機関の言われるがままになってしまう人も多いのですが、交渉はできるのです。ただ、期限があるので、何も対策を取らずに競売という最悪の結末を迎えないよう、すぐに行動を起こすことが大事です」

 確かに、家を買って住宅ローンを組むなどというのは、普通の人にすれば生涯にあっても1度か2度のこと。住宅ローンについて法律にも詳しくないし、わからないことだらけかもしれません。その上、もしもローン支払いができなくなり、「差し押さえ」「競売」などという通知を受け取った日には、パニックにもなるでしょう。

 しかし、そのような時にも慌てず、借り入れをしている金融機関や、そこから紹介された不動産会社1社の話だけでなく、幾つかの不動産会社に相談してみることをお勧めします。

良い不動産会社とは

 良い不動産会社の見分け方を、村上さんに聞いてみました。

「それは難しい質問です(笑い)。大手だから良いとは限りません。何社か当たって相談をしてみて、面倒くさい内容でも話をよく聞いてくれて、メリットもデメリットもきちんと説明してくれる不動産屋さんを探してみてください」

 また、その他「住宅ローンだけでなく、固定資産税の滞納でも差し押さえや競売を通知されることがあるので注意が必要です」とも村上さんは教えてくれました。

 もしも「住宅ローンの金額が今後払えないかもしれない…」と思ったら、できるだけ滞納する前に、金融機関に支払い計画の変更を相談してみましょう。

 今は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う特例により、最長15年返済期間延長や、最長3年間元金据え置きなどといった支援策がありますので、まずは相談してみることをお勧めします。

●ピンチが訪れても慌てず救済策を探る

 働き盛り世代だけでなく、住宅ローンはシニア世代でも返済中の人も多いと思います。

 できれば自宅を手放さなくて良いように、万一手放す場合でも、できるだけ良い条件で売却なり対処するために。ピンチが訪れてしまったとしても、慌ててパニックにならず、救済策を探したり、複数の不動産会社に当たって適正な売却方法、価格を探ってみていただきたいと思います。

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文/中島早苗(なかじま・さなえ)

住宅ジャーナリスト・編集者・ライター。1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に約15年在籍し、住宅雑誌『モダンリビング』ほか、『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て、2002年独立。2016~2020年東京新聞シニア向け月刊情報紙『暮らすめいと』編集長。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(以上PHP研究所)、『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。300軒以上の国内外の住宅取材実績がある。

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この記事へのみんなのコメント

  • しんたろう

    あと半年でローン完済の予定ですが、職場の配置転換で給与削減されたり、出産を機にパートナーが専業主婦となったりして、世帯収入が激減した時期がありました。当時は返済に滞りがないよう、支出を抑え、もしもの時のために競売、任意売却をシミュレーションし、その後の人生設計も立てた覚えがあります。当時は確かに四六時中、ローンの支払いのことが頭から離れず、パニック状態が日常化しており、今から思えば、一歩間違えば悲惨な判断をしていた可能性もあったと思います。住宅ローンは銀行にとって、ほとんど取りっぱぐれのない「美味しい」商品です。もしもの時には一人で悩まず、堂々と顧客として銀行に交渉しても良かったのかな、というのは反省点の一つです。

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