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暮らし

シニアの賃貸住宅難民問題、「社会問題としてもっと周知されるべき」と若い世代

 シニア期の快適な住まいや終の棲家を考えるシリーズ、今回のテーマは前回に続いて「賃貸住宅」についてです。高齢者が賃貸住宅の入居を拒否されている実態を解決すべく新たなサービスを構築している企業の取り組みを、住宅ジャーナリストの中島早苗さんが取材しました。

→高齢者はなぜ賃貸住宅が借りにくいのか 入居を拒否される3つの理由

 * * *

 高齢者が賃貸住宅を借りにくい、選択肢が少ないという問題について以前も書きました。では、現代日本における「住宅難民問題」は、若い世代にとっても周知の事実なのでしょうか?

「実は、20~30代の6割が、住宅難民問題を『知らない』という結果が、当社の調査によって示されたのです」

 こう話すのは、65歳以上専門で賃貸住宅の仲介等を行う不動産会社「R65不動産」社長の山本遼さん。

 4人に1人が入居を拒否されるという現状を逆手に取り、65歳以上専門で賃貸住宅の仲介等の会社を立ち上げた山本さんに、難民問題の現状を教えてもらいました。

 R65不動産が2020年5月に全国の888名(65歳を超えて賃貸住宅の部屋探し経験がある人444名+20~30代444名)にネット上でアンケート調査(※1)をしたところ、以下のような結果が得られたそうです。

※1:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000068855.html

4人に1人の高齢者が入居を拒否されている

 まず、全国の65歳以上で、不動産会社に入居を断られた経験がある人は23.1%。およそ4人に1人が入居を断られていることになります。しかも、そのうち5回以上断られた経験がある人が13.4%。関東圏ではどちらも更に高い割合で、より深刻な状況です。

 R65不動産の分析によれば、断られた要因には、年齢、保証人の有無、収入、健康度合いなどが考えられるということ。

 実際に借りようとした人の「苦労したエピソード」には、「紹介物件があっても選択肢が少ない」「借りられそうな物件があっても古い、狭い、日当たりが悪い、交通の便が悪いなど、悪条件のところが多い」など、読んでいて悲しくなるような内容が並びます。

 誰でも必ず年を取ります。高齢になって賃貸住宅を借りようとした時に、年齢を理由に断られたり、悪条件の物件ばかり紹介されたら、心理的に辛いだけでなく、入居できるまでに時間がかかり、特に転居の必要に迫られている人にとっては、身体的、経済的にも大きな負担になります。

20~30代の6割は実態を知らないという現実

 高齢者の住宅難民問題は度々報道されるため、多くの大人には知られている事実だと思っていましたが、この調査では、約6割の20~30代が「知らない」と答えています。若い世代では知らない人の方が多いという結果なのです。

 その一方で、同じ20~30代で、この問題を「社会課題としてもっと周知されるべき」と答えた人が72.7%、「将来のことを不安に思う」が67.8%。今まで知らなかったけれど、解決するべきだし、将来のことを思うと他人事ではないと考える若い世代が多いことがわかります。

 山本さんは言います。

「この調査をしてみて、実際に多くのご高齢者が賃貸物件探しや入居に苦労されていることがわかり、胸が痛みました。一番の発見は、若者の認知度の低さです。将来若い世代が苦労しないためにも、情報発信と問題解決に取り組んでいきます」

 独立前に勤めていた不動産会社で、高齢のお客さんが賃貸物件を借りるのに苦労していたのを目の当たりにした山本さんは、試行錯誤を経て、「見守りサービス」提供を考案します。高齢者が借りられない、つまり不動産会社やオーナーが貸したがらない一番の理由は、孤独死による事故物件化を恐れるから。それなら、万一の孤独死や室内での異変にいち早く気づける仕組みを提供してあげれば、ご高齢者にも安心して貸せるのではないか。そう考えたのです。

安心して借りられる、貸せる仕組み作り

「オーナーさんの不安の声を受けて開発した『あんしん見守りパック』は、電気を使った見守りサービスと、孤独死保険のセットです。これまでは、『家族が高齢者を見守るために設計されたサービス』がほとんどだったため、ご家族のいない単身高齢者や不動産管理会社にとっては不向きでした。そこで、不動産会社にとっては、物件に立ち入って器具を設置する必要や管理コストがなく、入居者にとってはカメラ等による監視のない、プライバシーを考慮した見守りのあり方を考えました。日本に限らず、海外の見守りサービスも含め検討した結果、電気を使ったインフラ型の見守りサービスにたどり着きました。

 電気の使用量データがいつもと違う値を続けると、入居者へ自動音声の電話がいき、応答がない場合は不動産会社へ連絡がいきます。孤独死の早期発見に特化しているため余計なコストがかからず、月額980円という安価で提供できている点も好評いただいています」

 見守りサービス導入から2年近く経った現在まで、幸い孤独死及び異変が生じたケースはまだないそうですが、山本さんは過去に、自社管理物件で孤独死を発見する体験をしたと言います。

「40代男性のお一人暮らしでした。近所の方が、最近姿を見ないとご家族に連絡され、ご家族が警察に連絡。警察から、管理をしている私ども不動産会社に連絡が来て、駆け付けた私は、恐らく1週間以上経っていたとされるご遺体の悲惨な状態を目の当たりにしました。この経験から、管理する立場としても、早期発見の重要性を強く感じています」

 単身世帯の増加に伴い、高齢者だけでなく、室内で人知れず亡くなってしまう人の数は増えています。独居する人の、室内での異変にいち早く気づける仕組みは、これからの社会に必要なインフラになるのかもしれません。

 これからの取り組みについて、山本さんは次のように話してくれました。

「ご高齢者の住の選択肢を増やし、賃貸物件を借りやすくするためには、全国の物件の案内や紹介、仲介を自社だけではできないので、パートナー不動産会社を増やす努力をしています。パートナー不動産会社を5,000社まで増やすことで、何とかその需要に応えていきたいと思っています。不動産会社は全国で約13万社ありますが、トップ4%が高齢者に優しい不動産会社となることで『幾つになっても好きな場所に住める社会』に近づいていけるのではないでしょうか」

 今回、山本さんの話や調査結果を教えてもらい、希望が持てると感じたのは、住宅難民問題を知れば、若い世代も他人事とは思わないという点です。

 誰もが幾つになっても、住む場所に困らない社会のために。こうした情報発信の一つ一つも大事なのだと、あらためて気づかされました。

教えてくれた人

山本遼さん/株式会社R65代表取締役。幼い頃から祖母の自立した暮らしぶりを見てきたことで「高齢者でも入居可能な賃貸住宅を」の思いを抱き、『R65不動産』を設立。
住所:杉並区荻窪4-24-18
URL:https://r65.info/

文/中島早苗(なかじま・さなえ)

住宅ジャーナリスト・編集者・ライター。1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に約15年在籍し、住宅雑誌『モダンリビング』ほか、『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て、2002年独立。2016~2020年東京新聞シニア向け月刊情報紙『暮らすめいと』編集長。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(以上PHP研究所)、『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。300軒以上の国内外の住宅取材実績がある。

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