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中古住宅は「古い=不安」という根強いイメージ それでもあえてお勧めな理由

 シニア期の住まいを住宅ジャーナリストの中島早苗さんと考えるシリーズ、今回のテーマは「中古住宅」だ。日本では中古住宅の購入に不安を感じる人が多いという現状があるが、実際はどうなのだろうか。自身も中古マンションを購入し、暮らしている中島さんに、データと実体験に基づいたメリット、デメリットを教えてもらった。

欧米と比べ、低い日本の中古住宅の流通割合

 あなたがこれから住まいを買うとしたら、新築と中古、どちらを選びますか。

 実は日本では欧米に比べ、中古住宅の流通割合がかなり少なく、住宅の数が世帯数を上回るという「住宅余り」の状態が続いています。

 令和2年5月発表の国土交通省資料「既存住宅市場の活性化について」によれば、全住宅流通量(既存流通+新築着工)に占める、既存(中古)住宅の流通シェアは約14.5%(平成30年)。欧米諸国との比較では、6分の1~5分の1程度の低い水準です。

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/20200507/pdf/shiryou3.pdf

 ではなぜ日本では、既存の中古住宅が流通しにくいのでしょうか。

中古住宅が敬遠される理由

 簡単に言うと、日本の中古住宅は市場の透明性が低く、適切に評価する算定方法がないため、多くの売り主、買い主、仲介業者にとって、メリットよりデメリット、不安要素の方が大きいと感じるからだと思います。

 適切な評価法が確立されず、流通がされにくいため、例えば木造住宅では、築後20年程度で建物の評価額がゼロになるなどの慣行が存在しています。

 同じく国交省が令和元年に発表した「既存住宅流通市場の活性化 政策レビュー」の中に、「既存住宅を選ばなかった理由」のデータがあります。

https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/hyouka/content/001313273.pdf

 これによれば、多い順に以下のような、主な理由が並んでいます。

1. 設備の老朽化が不安
2. 隠れたところに不具合がありそう
3. 水回りが古い
4. 新築住宅より仕様・スペックが低そう
5. 耐震性に不安がある

 つまり、多くの人は住宅を購入する際、中古住宅は古い=不安というイメージを持ち、その不安を解消する法律も術もないことから、最初から選択肢にも入れていない可能性があります。

 確かに、上の理由にもある通り、築年によっては現在の耐震基準を満たしていない住宅や、配管などの見えない部分が老朽化して不具合が生じるような物件もあり得ます。

 しかし、逆に言えば、築年数がそれほど経っていない物件など、新築とさほど変わらない性能を満たしている中古住宅も多いはずです。それを一律に「中古」として検討もしないというのは、私はもったいない気がします。

 なぜならほとんどの場合、新築より中古住宅の方が割安に取得できるからです。

 では、新築に比べて中古住宅はどの程度の価格で購入できるのでしょうか。

 同じく国交省の令和2年度 「住宅市場動向調査 調査結果の概要(抜粋)」によれば、三大首都圏で住宅を買った人の購入価格の平均は、土地+注文住宅を建てた人で5,359万円。年収倍率は6.67倍です。分譲マンションでも4,639万円で年収の5.28倍。

 一方、既存戸建住宅では2,894万円で、年収の3.81倍です。この価格は新築注文住宅の約半額で、分譲の戸建住宅に比べても4分の3程度です。既存マンションなら2,263万円、年収の3.29倍で、こちらも分譲マンションの半額程で買うことができます。

https://www.mlit.go.jp/common/001401317.pdf

築35年の中古マンションで問題はなかった

 私も5年前に、築35年の中古マンションを買って住んでいますが、購入前に、耐震基準を満たしているかどうかや、修繕計画がきちんと履行され、修繕積立金も計画通り積み立てられているか、管理状態が良いかなどを事前に不動産会社に確認していたこともあり、大きな問題はありません。

 購入する際、新築マンションも見て回りましたが、あまりに高額で予算オーバー。また、希望する立地には既に住宅やマンションが建っていて、新築物件はほとんど出なかったため、住みたい「場所」を優先し、中古マンションにターゲットを絞りました。

 このように立地を優先する人は、その場所に建つ中古物件を探した方が、希望に沿う住まいを見つけやすいように思います。

 中古住宅が流通しにくい日本ではありますが、この数年、少し変化も見られます。

 上記の国交省の資料にもありますが、平成28年に、東日本レインズによる集計開始以降初めて、首都圏における中古マンションの成約件数が、新築マンションの発売戸数を逆転したのです。平成31(令和元)年の首都圏における新築マンションの発売戸数は3.12万戸、中古マンションの成約数は約3.81万戸です。

中古住宅のメリット

 中古住宅は新築より劣ると思われがちですが、メリットもあります。例えば、新築よりもリーズナブルに取得できる分の余剰金を、自分好みのリノベーション費用に充てることができます。

 特に自分にとって必要なもの、不要なものがわかってくるシニアにとっては、中古のリノベーションはお勧めです。決まりきった間取りやデザインで分譲される新築よりも、自分たちの家族構成、ライフスタイル、価値観に合わせてリノベーションした住まいの方が、満足度が高いのではないでしょうか。

 但し、心配な点は売り主に納得できるまで質問、確認するのはもちろん、第三者として信頼できる不動産会社や建築士に相談する、マンションなら現地に足を運んで管理人さんに気になっていることを聞いてみるなど、事前に十分リサーチすることをお勧めします。

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文/中島早苗(なかじま・さなえ)

住宅ジャーナリスト・編集者・ライター。1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に約15年在籍し、住宅雑誌『モダンリビング』ほか、『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て、2002年独立。2016~2020年東京新聞シニア向け月刊情報紙『暮らすめいと』編集長。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(以上PHP研究所)、『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。300軒以上の国内外の住宅取材実績がある。

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