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暮らし

人生100年時代、自宅の改修・住み替えは65才までに決めた方がいい3つの理由

 人生100年時代と言われる超高齢社会でのシニア期、どんな住まいで暮らしたいだろうか。「終の棲家の“場所”、“かたち”を元気なうちから準備することが、シニア期を幸せに生きる秘訣」と語るのは、自身も親の見送り経験がある住宅ジャーナリスト中島早苗さん。幾つかのケーススタディと共に、自分や親の高齢・介護期を想定した住まいの選択肢や心構えを考えるシリーズ、第1回は、「最後の家移り」を決断するタイミングについてだ。

もはや100年ライフは他人事ではない

 出版社勤務時代、住宅雑誌の編集部在籍期間が長かったことから、その後フリーの編集者・ライターとなり現在に至るまで、私は住まいに関する取材や記事を書く多くの機会に恵まれてきました。

 自分自身が還暦を数年後に控えた今、大きな関心事の一つは、シニア期の暮らし、「終の棲家をどうするか」という問題です。

 少し前まで自分は、既に見送った実の両親同様、70代が寿命なんだろうなと漠然と思っていました。もしそうなら、残りの人生あと15年余り。65才から年金をもらって、夫婦の残った方が老人ホームに入れるぐらいのお金を取っておいて…。自分の人生、そろそろ終末に近づいてきたんだな。そんな風にぼんやりと考えていました。

 しかし、2016年発行のベストセラー本『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)を遅ればせながら読み、その考えが甘かったことに気づかされました。100年ライフは遠い未来の話だから、これからシニア期に差し掛かろうとしている自分とは無関係と思い込んでいましたが、誤りでした。どうやらすぐそこにある現実のようです。

 日本は世界一平均寿命が長い国ですが、国連の推計によれば、2050年までに、日本の100才以上人口は100万人を突破するそうです。

 自分が何才まで生きるのかは誰にもわかりませんが、百才まで生きる可能性が現実味を帯びてきました。だとすれば、60代で仕事を引退し、先細りする年金を頼りに終末を待つというような受け身の姿勢は時代遅れで、既に通用しないのかもしれません。100年ライフが現実なら、還暦からでさえ、人生全体の半分近い年月をまだこれから送ることになるのですから。

 念の為にお伝えしますが、私は平均寿命より長生きしたいわけでも、「頑張って100才まで生きましょう!」と皆さんを鼓舞したいわけでもありません。しかし、100才生きることが都市伝説ではなく、現実になってきた今、そこまでの可能性を考えて準備をしておく必要があるのだと感じるのです。上に書いた、ついこの間までの私のように、何の根拠もなしに既に晩年を迎えた気になっていては、さびしく厳しい長い冬みたいな晩年を送ることになってしまうかもしれません。

 100年ライフでは、もっと積極的に真面目にシニア期の生き方を計画しておくことが、充実した幸せな時間を全うするカギになるのではないでしょうか。

 これからは「自分はどう生きるか」という問いは、若者だけのものではなくなるのでしょう。何才になっても、そうシニアでも「どう生きるか」に真摯に向き合い、考えて動く。それが長寿化を厄災でなく、恩恵として味方に付ける術になりそうな気がします。

「シニア期の暮らし方」住まいはどうするのか

 前置きが長くなりましたが、本題です。シニア期の「どう生きるか」には、終の棲家、暮らしをどうするかという問いも含まれます。

 100年ライフになり、これからのシニアが昔のシニアより健康で若々しく生きられるとしても、人は還暦も過ぎれば体力と気力が少しずつ下降していきます。環境を変えるのも若い頃より億劫になるでしょう。となると、終の棲家としての自宅改修や住み替えの決断は「65才までに」が理想的です。

「65才までに」と私が考える、主な理由は以下の3つです。

 1つ目は、働けて、年金以外の収入があるうちに決断し、改修や住み替えを終えられるのがベターだから。

 昨今は,高年齢者の雇用促進に関する特別措置として、企業に65才まで定年の延長など雇用確保措置を義務付けてきましたが、更にこの2021年4月から施行された改正高年齢者雇用安定法(※1)により、70才までの雇用を努力義務として課すようになりました。

※1参照:高年齢者雇用安定法改正の概要(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000694688.pdf

 これからは70才まで雇用の機会があるとするなら、そこまでに改修や住み替えが完了しているのが理想的です。改修や住み替えをリサーチし、具体的なプランを作り、工事や引っ越しをするという一連の作業に数年かかるとして、逆算すると65才までにどんな終の棲家を選ぶかの決断をするのがいいと思います。

 2つ目のカギは、「健康寿命」です。

 平均寿命は80代まで伸びましたが、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」とされる健康寿命は男女共に70代前半です(※2)。

※2参照:令和2年版厚生労働白書ー令和時代の社会保障と働き方を考えるー図表1-2-6 平均寿命と健康寿命の推移 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000765913.pdf

 家の改修や住み替えというのは人生の一大事業です。体力・気力が共に充実していないと、引っ越しさえ難しくなりかねません。となると、健康寿命が尽きる前の70才位までに一連の作業を終え、終の棲家に住めていることが理想的です。

 3つ目は、シニア期だからこそ、そのために準備された快適な住まいにできるだけ長く住みたいから。

 一口にシニア期と言っても段階があります。100年ライフだとすると、せっかく終の棲家を準備しても、85才から住み始めたのではあと15年しか時間がありません。終の棲家としての改修を終えた、あるいは住み替えた新しい家での暮らしは、アクティブシニア(65~74才位、前期高齢者)のうちから始めたい。もちろんもっと早くできるのなら、50代から計画や新しい暮らしを始めてもいいでしょう。

 これまでの取材や身近な人達と接する中で、こんな例を見てきました。後期高齢者となってから新しい暮らしを始めたものの、残念ながらその暮らしに慣れることができずに体調を崩し、数年で亡くなってしまった。あるいは、住み替えを希望していたのに、60代までというタイミングを逃してしまい、だんだんと意欲や体力が衰え、住み替えも改修すらもできず、経年劣化した不便で古い家に住み続けている。

 逆に、50代で移住を成功させた夫妻のことも思い出します。都心から海が望める熱海の地に移り住み、「ここからの眺めが最後の景色でいいと思って」と言っていた夫妻。特に新天地への移住の場合は、できるだけ早い決断が吉と出ると思います。

 誰にとっても、今日が一番若い日です。シニア期のための快適な家に、一日でも長く住めるように。65才までに決断して、その後の暮らしを安心して楽しみましょう。

 では、「終の棲家」にはどんなものがあって、実現するにはどうしたらよいのか。

 次回以降は具体的な選択肢を紹介、説明しながら、引き続きシニア期の住まいと暮らしについて考えていきたいと思います。

文/中島早苗(なかじま・さなえ)

住宅ジャーナリスト・編集者・ライター。1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に約15年在籍し、住宅雑誌『モダンリビング』ほか、『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て、2002年独立。2016~2020年東京新聞シニア向け月刊情報紙『暮らすめいと』編集長。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(以上PHP研究所)、『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。300軒以上の国内外の住宅取材実績がある。

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