嚥下食レシピ大賞1位の「蟹刺し」がリアルすぎる! 家族の愛情たっぷり介護食の秘密
今年で10回目を迎える「嚥下食レシピ大賞」で、見事大賞に輝いたのは、豪華な蟹を嚥下食でリアルに再現した「蟹刺し」。嚥下食とはどんなものなのか? 応募作品の背景や、オンラインで行われた審査の様子をレポート。特別な日の介護食の参考にしてほしい。
「嚥下食レシピ大賞」栄冠に輝いたのは?
「嚥下食レシピ大賞」は、飲み込みが難しい人(嚥下障害の方)のための嚥下サポート食品を手がけるニュートリーが主催するレシピコンテスト。加齢などで飲み込むことが難しくなった人でも食べやすいように調理した“嚥下食”のレシピの中から、優勝を競い合うというもの。
第10回となる今年は、病院や介護施設などで調理を手がける人たちを中心に、全国から37件の応募があったという。予選を勝ち抜いたファイナリスト7組が、オンラインによる最終審査で嚥下食に込めた熱い思いをプレゼンし、その様子がライブ配信された。
審査員には、金谷栄養研究所・所長の金谷節子さん、修文大学・健康栄養学部管理栄養学科・講師の小島真由美さんを迎え、全国から163名の視聴者も審査・投票に参加した。
「斬新なアイディアがあるか」「作ってみたいと思えたか」「自施設でも作れそうか」などの審査基準をもとに、もっとも多くの得点を獲得したのは、大賞の「おうちで作ろう『蟹刺し』~ディップソースを添えて~」だった。
レシピ開発の背景や作り方をレポートする。
大賞は元気がなかった父を笑顔にした”蟹刺し”
レシピ大賞に輝いたのは、蟹刺しをリアルに再現した「おうちで作ろう『蟹刺し』 ~ディップソースを添えて~」。
この作品は、大阪・守口市で父・江端重夫さん(82才)を在宅介護している娘の左惠子さん、奥様の真澄さんと、重夫さんの食事支援を担当する「くれはクリニック 在宅NSTチーム」が一緒に考案したもの。
一見すると嚥下食とは思えない立派な蟹を、嬉しそうに頬張る父、重夫さんの大きな笑顔が印象的だった。
レシピ大賞「おうちで作ろう『蟹刺し』 ~ディップソースを添えて~」
「蟹は父の大好物なんです。嚥下力が弱くなった父に食べさせたくて一緒に作ってみました。NSTチームのみなさんとも試行錯誤しながら改良して今回のレシピが完成したのでとても嬉しいです!」
涙を浮かべこう話すのは、娘の江端左惠子さん。ご家族とケアスタッフみんなで長年、重夫さんを支えてきた。
「コロナ禍で父がリハビリに通う機会が減ってしまい、元気がなくなってきていて…。料理作りはリハビリになると思って家で一緒に料理をはじめたんですよ」(左惠子さん)
江端さん一家を支えている「くれはクリニック 在宅NSTチーム」のスタッフによると、
「ご家族がいつもみんなで協力して嚥下食を楽しんで作っている」とのこと。
できあがったぷりぷりの蟹刺しを、とろみをつけたビールとともに味わう重夫さんは満面の笑み。家族とチームが結束し、嚥下食作りを楽しんでいる様子が伝わってきた。
「嚥下障害の方が自ら料理に参加されるというのは、素晴らしいですね。ご家族の見守りには頭が下がります」と、特別審査員・金谷節子さんも絶賛した。
「おうちで作ろう『蟹刺し』 ~ディップソースを添えて~」の作り方
<材料(1人分)>
■蟹刺し
蟹缶…330g
蟹スープ…160ml
MCTオイル…10ml
ソフティアG(飲み込みやすいゼリー状に固めるために使用)…3.0g
食用色素(赤・オレンジ・黄色)…適量
蟹の殻…適量
【作り方】
【1】ざるで蟹の身と蟹のスープを分け、それぞれ分量を計量する。
【2】蟹の身、蟹のスープ、MCTオイル、ソフティアGをミキサーにかける。
【3】ブレンダーにかけた蟹のペーストを鍋でゆっくり加熱する【A】。
【4】【A】100 gを別の器に取り分けて、食用色素で色付けをする【B】。
【5】蟹の殻にラップを敷き、【B】をスプーンで表面に塗り込む。
【6】【5】の上に【A】をこんもりとのせる。
【7】ラップで包み、冷蔵庫で冷やす。
【8】固まったらラップを外して、裏返して着色部分が表面に出るように蟹の殻に納める。
優秀レシピ賞「”新”ドゥーブル・フロマージュ風チーズケーキ」
コンテストで2番目に多い得点を獲得した優秀レシピ賞は、『嚥下食は国境を越える!海外でも称賛された“北海道産の乳製品で作った「”新”ドゥーブル・フロマージュ風チーズケーキ”」』が受賞した。
レシピを考案したのは、修学院札幌調理師専門学校・講師の小林利幸さん。介護施設で働いていたとき、利用者の「みんなと同じものが食べたい…」のひとことが、小林さんを嚥下食作りに突き動かしたという。
「嚥下食は、通常食とは見た目が違うこともあり、みんなと同じものが食べられず寂しいとおっしゃる方がいました。嚥下食の人も通常食の人も同じものが食べられないかと思い、考案したレシピです」(小林さん)
すでに国内外などで発表して好評を得てはいたが、今大会に向けて改良を続けようやく完成版となったそうだ。材料も地元北海道の新鮮な牛乳やクリームチーズを使用し、まろやかな口どけに仕上げた。
「みんなで同じものを食べると思い出に変わる」。小林さんは、そう感じたという。
地元の食材をいかした嚥下食も
そのほかの5作品もどれも嚥下食の利用者のことを思った作品ばかり。
レシピ賞「茨城食材 デザート3種盛りコース仕立て、茨城県産スーパーフルーツトマトの微発泡ジュレ、茨城県産彩りメロンのブランマンジェ、紅あずまのフォンダンOIMO」(特別養護老人ホームさつき荘)
「茨城を旅している気分」をと茨城食材を使用。フォンダンOIMOの中のソースをベストなとろみ具合でキープさせること、ブランマンジェの柔らかな食感の仕上げに苦労した。
奨励賞「フルーツパフェ」(AOI八王子病院)
構想1か月。嚥下機能食を必要としない常食の患者と“同じものを食べている”と意識できるようにと考案した。フルーツの種類を多くし果実の食感の凹凸までしっかり再現した。目にも華やかで特別な日に食べたいパフェ。
奨励賞「華やかに鮭のはさみ焼き」(特別養護老人ホーム こもれび)
施設でも人気メニュー。常食メニューとほぼ同じ食材を使用。カボチャのヘタやブロッコリーの房の部分をほうれん草を攪拌して使い色を出しフォークで成型。玉子に発酵食品の甘酒やみそを使い消化吸収を良くし栄養を摂りやすくする工夫も。
奨励賞「お家でランチ弁当妙高の豚汁付いてます。」(介護老人保健施設サンプラザ長岡)
7回目の応募となる常連チームの作品。トレハロースを使って水分を逃がさないよう工夫した。立体感を意識してお弁当に詰めることがポイント。
奨励賞「サーモンとホタテのカルパッチョ」(岩手県立宮古病院)
ホタテは酒と塩を振って蒸したホタテの貝柱に、水と『ソフティアG』を加えミキサーでペースト状にして飲み込みやすいように。加熱し、冷やし固めたあと丸く型抜きしバナーで焼き、焼き帆立のように演出。イカ刺しに見立てたのは大根を使ったゼリー。
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嚥下食はミキサーにかけたり、柔らかくなるまで煮込んだりと、手間がかかるものだが、アイディアと工夫次第で手軽に楽しみながら作ることもできる。食べる人の気持ちに寄り添った心温まる嚥下食は、家族の健康と笑顔を守ってくれている。
取材・文/本上夕貴