連載

親に作ってあげたい料理|頑固で料理好きの母も満足!圧力鍋で骨まで食べられる煮魚

 介護が必要というほどではなくても、高齢になった親の暮らしはなにかと気になるもの。とくに、離れて暮らす親の食事のことは、より心配だ。

 長年、家事を切り盛りしてきて料理にも一家言ある母と少し離れた所に住む一人娘の記者(57才)。二人の間に日々起こる、あんなことやこんなことを、記者が実況報告し、シリーズでお伝えする。

 * * *

 去年、記者の父が亡くなり、母は85才にして初めての一人暮らしを始めている。母はかつては好きだった料理をめっきりしなくなっているので、魚料理を届けることにした。

 使ってみたのは、老親に持って行く料理を作るのに便利だと言われる電気圧力鍋だ。  

骨まで食べられるいわし

 母に料理を持って行くと「あなたのお料理は、やっぱりまだまだなのよね」「このあいだもらった煮物は、味つけし直したわ」と嫌味なことを言われることが多いので、作るのはちょっと気が重い。

 それでも初めにトライしたのは、金太郎という小型のいわし。駅前の魚屋さんで、圧力鍋で煮るからそのままくださいと言ったら、「このまんまだと汁がにごっちゃうよ。頭とおなかは取ってあげるから、それで持っていきな」ときれいにしてくれた。

 調理に使用したのは、『パナソニック 電気圧力なべ』だ。付属のレシピブックを参考に、味つけは自分なりに工夫してみた。

【1】圧力鍋にいわしを並べ、酒大さじ4、砂糖大さじ1、しょうゆ・みりん各大さじ2、しょうが一片の薄切り、水100mlを入れ 、キッチンペーパーで落しぶたをする。
【2】「圧力調理/15分」で調理する。


 作り方はたったこれだけだ。

 食べてみた夫の第一声は「このいわし、骨を抜いて煮たの?」「骨はやわらかくなってるけど、身はしっかりしててうまいね」。

 しめしめと実家に届けると、夕食後に、母から電話がかかってきた。

「近くの魚屋さんが閉店したし、駅のスーパーでは買う気がしないから、ここのところずっと生のお魚なんて買ってなかったのよ。でも今日は骨まで食べられておいしかったわ。やっぱりあなたのところのお魚屋さんはいいのね」と自分が作っていない言い訳から始まってお魚屋さんについて感想を言われた。

一人暮らしで「栄養を摂るためだけ」の食事になった母

 最近、母の食事は栄養を摂るためだけのルーティーンになってしまっている。

 野菜を摂らなくてはいけないからと、いつもにんじんの炒め物と青菜かブロッコリーのゆでたものが作ってある。それに納豆、ちりめんじゃこ、たまご、ヨーグルト、チーズ。

 そんなものを組み合わせて、時折、肉と野菜の炒め煮のようなものを作るぐらいで食べている。魚を食べてもらえるならと、また次の煮魚を持って行ってみることにした。

「おいしくないさば」が、“おいしく”煮えた

 次の日、魚屋さんに行ったら圧力鍋で煮られそうな魚が見当たらない。さばはないのかと聞いてみたら「旬じゃないからあんまりおいしくないけど、いいの?」と言う。奥から出してきてくれた30センチぐらいの一尾を筒切りにしてもらった。


【1】圧力鍋にさばを並べ、酒大さじ4、みそ・砂糖大さじ3、みりん大さじ2、水100mlを入れキッチンペーパーで落しぶたをする。
【2】「圧力調理/3分」で調理する。
【3】ふたを開けて「煮込み/10分」で煮詰める。

母は「相当おいしかった」らしい…

 食べてみたらしっかり味がしみているのに驚いた。いつも鍋でさばの味噌煮を作るときには、当日は味が浅くて、翌日になると初めて奥まで味噌味が行き渡るのだが。圧力鍋で煮たさばは、すぐその場で食べてもびっくりするほどおいしい。

 魚屋さんが「旬じゃなくておいしくない」と言ったとは思えない仕上がりで、持って行った母は、「あなたも、料理がうまくなったのね。私も昔は随分お父さんにお魚を煮てあげてたんだけど」と悔しそうに言う。これは相当おいしかったという意味のようだ。

 父の死後、母はめっきり弱ってしまっているから、娘の私としては、運動したほうがいいとか外出したほうがいいとか、いちいち文句を言うことになる。そうすると「あなたには、85才の気持ちはわからない」「お父さんが死んでから、あなたは急に私に当たりが強くなった」などなどと言いかえされて、喧嘩になる日々が続いている。料理を持って行くことは、せめてもの親孝行かもしれない。

鮎の甘露煮を買わなくてもOK

 その次にトライしたのは、鮎。スーパーの「お早めにお召し上がりください」コーナーで養殖2尾入りの安いパックを買ってきた。

【1】鮎を切って圧力鍋に並べ、酒・しょうゆ・みりん各大さじ2、砂糖大さじ1、水100mlを入れる。
【2】「圧力調理/17分」で調理する。

 いつも魚を煮るときは、火の前についていて調味料を加えていったり、おたまで煮汁をかけ続けるが、圧力鍋ならその必要はない。指定時間が過ぎて圧力表示ピンが下がっているのを確認したらふたを開けるだけ。拍子抜けしてしまうほど簡単だ。

 いわしのときよりは少し骨が固いが、まだ母は歯がしっかりしているので噛めたそうだ。

「お父さんが生きているときは、毎年季節になると、新橋のつくだ煮屋さんで鮎の甘露煮を買ってたけど、一人になったから今年はもったいなくて買えなかったのよ」とどこまでも後ろ向きな食生活の母に、安いけど初物を食べさせることができた。

魚だけでなく、牛すね肉や鶏胸肉も

 電気圧力鍋で作って親に持って行くのに適しているのは、魚だけではない。

「牛すね肉の煮込み」は、ひと口大に切った牛すね肉を1度普通の鍋で煮こぼしてから、圧力鍋に入れ、酒・しょうゆ・みりんと水をかぶるぐらいに入れて「圧力調理/15分」で調理するだけ。

「あなたみたいな経済観念のない人にはわからないけど、一人暮らしだと、牛肉なんてもったいなくてなかなか買わないのよ」ということだそうで、数回に分けて食べてもらうのにちょうどいいお土産となった。

「鶏胸肉のサラダ」は、鶏胸肉2枚と酒50ml、水600ml、塩小さじ1を圧力鍋に入れて、「低温85/20分」で調理するだけ。ゆで汁につけたまま粗熱を取ってから、ジップロックに入れて実家に持って行った。

 自分で野菜と一緒にサラダにして食べたらしく「胸肉なのにパサパサしないのね。胸肉が体にいいっていうのはテレビで見たけど、この年になるとなかなか新しいお料理はできないものなのよ」とまた悔しそうだった。

圧力鍋を使ってみてわかったこと

 娘の料理をほめたくない母の反応も聞きながら、わかったことは以下のことだ。

●いわし、鮎ぐらいの魚なら普通に煮ただけで骨まで食べられる。
●出来上がったときにすでにしっかり味がしみている。
●多少パサパサの魚でもおいしく食べられるようだ。
●年を取った親がなかなか作らない料理を持って行くのに適している。

 今回、新しい電気圧力鍋を使ってみて何より驚いたのは、静かなことだった。

 従来の圧力鍋は、触ったりしたら絶対やけどする熱さになるし、シューツ!!シューツ!!と威嚇するような音が出ていた。新しい電気圧力鍋を使い始めたら、何の音もしない。ホントに作動しているのかと心配になり、生温かくなっているだけの圧力鍋の胴を何度も触ってしまったぐらいだ。

 今までの電気圧力鍋は、何かあったら怖いので、床に置いて周りにものがないように片付けてから調理していた。最新式は、隣の電子レンジと10センチと離していなくてもぜーんぜん大丈夫だ。

母がお惣菜を買わないから、持って行くしかない

 母は、専業主婦で料理が好きだっただけに、一人暮らしになっても、頑として出前を取ったり、お惣菜を買ったりしない。そのくせ作るものは限られていくばかりなので、私が「そんな食事をしてたら、たんぱく質が足りなくて筋肉も衰えて歩けなくなるのはわかりきってるでしょ!」と言って喧嘩になる繰り返しだが。

 あの頑固な母を説得できそうにないので、とりあえず私が料理を作って持って行くというのが、今のところの解決策だ。

【データ】
商品名:電気圧力なべ SR-MP300(パナソニック)
タイプ:マイコンあり
容量:
・満水容量3.0L
・調理容量2.0L
・炊飯容量 白米0.36~0.9L、玄米0.36~0.72L
寸法(約)幅×奥行×高さ:29.2×27.8×27.0cm
質量(約):3.6kg
価格:27600円(編集部調べ)

撮影・文/播磨吉子

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この記事へのみんなのコメント

  • ななはち

    私の母も82歳で認知症ですが、幸い82歳の父が元気で母の介護をしてくれています。まさしく老々介護ですね。 私もよく似た経験をしていますが、播磨さんの様に冷静に客観的な観察が出来きていない自分に気づきました。 認知症の母に、ついつい感情的になったり、嫌味を言っている気がします。 楽しく記事を拝見して、今の自分を反省し今後の自分を繋げたいと思います。

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