島根県は100才超人口が9年連続1位 長寿の秘訣は「しじみ・さば・高齢者サロン」
「まめな」というと、「勤勉な」「誠実な」という意味を連想する人が多いだろう。だが、島根県の方言では「まめなかね?」というのは「お元気ですか?」という意味だ。島根県に「まめな」高齢者が多いのはなぜか。
「都会と比べれば不便ですし、若い人も少ないので、日々の農作業や草むしりなども高齢者が自分自身でやらざるを得ず、買い物などで毎日歩く習慣があるなど、日常的に体を動かす機会は多いかもしれません」(前出の健康推進課担当者・以下同)
とはいえ、高齢者が無理に働かなければならないというわけでもない。
「島根県では、長年にわたって健康づくりの取組を進めてきた歴史があります。現在も、長期的に平均寿命・健康寿命を延ばすための『健康長寿しまね推進計画』に沿って取組を進めています。
特に、各地域の公民館などで、1週間~1か月に数回開催している高齢者サロンが盛んです。地域にもよりますが、一度参加するとその後も継続して通うかたが多く、サロンに参加するために外出して歩く習慣になっていると感じています。
驚いたのは、高齢者を含む住民のかたの主体性が強いこと。“高齢者サロンと地域の婦人会で交流してはどうか”“子供たちとコミュニケーションを取る機会が欲しい”などの提案が自然と上がり、市町村という小さな単位の中で、健康意識やつながりの意識を高め合っています」
島根県では、10才以上の子供のボランティア活動率は37.6%で、こちらも全国1位。高齢者は健康への意識が高く、子供はお年寄りを大切にする風土がある。
県担当者も藤井さんも、健康長寿のために最も重要な条件は「生きがい」ではないかと語る。行政が整えたサロンという環境を楽しみ、生きがいにしている高齢者も多いのだ。
「農業にしても、ただ体を動かして農作業をしているだけではなく、近所の人に野菜を配ったり、互いに手伝ったりしているからこそ、やりがいや生きがいを感じられているのだと思います。
実は、全国的な調査では、島根県民の身体活動量はさほど多くなかった。半面、人間関係のつながりの強さを表す指数は全国でも高かったのです。つまり、農作業などはみんなで助け合って行っているということ。身体活動量の低さを、人と人との絆で補っているんです」(藤井さん・以下同)
統計では、島根県民の「休養・くつろぎ時間」は、1日あたり101.5分で、全国で3番目に多い。島根のお年寄りは、毎日畑で農作業をして、週に一度はサロンに出かけておしゃべりやレクリエーションを楽しみ、休みすぎることも働きすぎることもない生活を送っているのだ。
週に1度の体操で活動量がグンとアップ
島根県東部の雲南市では、2017年から、藤井さんと行政が連携した「うんなん幸雲体操」という取り組みを行っている。いすに座ったまま、音楽に合わせておもりを使って体を動かす体操で、週に1回、行政の補助を受け、地域の公民館などで行っている。
「最初はほんの数十人のグループから始まった取り組みがあっという間に広がって、2020年初期には50グループ以上、参加者は500人以上です。
効果も実際に表れており、3か月間継続することで、“歩くのが速くなった”“しっぷ薬の量が減った”“片足立ちで靴下をはけるようになった”など、筋力アップを実感している声を多く聞きます。いまのところ、参加者の身体活動量の平均は4年連続で改善しています」
島根では当たり前の「おばあちゃん、おじいちゃんのサロン」は、健康意識をさらに高める“教室”にもなっている。
「私がサロンに行くときは、作業療法士の経験を生かして、運動の大切さや、食の健康について講義しています。また、デイサービスの利用をしぶっていたり、福祉用具の貸与サービスを知らなかったり、介護保険を適切に使えていなかったりする人に対し、正しい情報を知ってもらう働きかけも行っています」
元気なうちからリハビリ指導
100才以上の人口が最も多いということは、高齢化が進んでいるということでもある。現在、島根県は、65才以上人口10万人当たりの介護福祉施設数は40.3か所で全国1位だ。
となると、どうしても介護予防や日常生活の支援にも力が入る。
「今年から、島根県リハビリテーション専門職協議会と松江市介護保険課と連携し、体力の低下がみられる高齢者が介護が必要になる前に在宅でリハビリ指導が受けられるよう、仕組みを整えています。
3か月限定ではありますが、行政からの補助があるので、個人負担はありません。サロンやうんなん幸雲体操はあくまでも通いの場。早期リハビリ指導で、外に出られず閉じ込められている高齢者をできるだけ減らし、そうした場所に通えるようにしたい」
一方、健康推進課では、将来の健康長寿を見据えて、昨年から働き盛り世代への健康にも力を入れている。
「働き盛りの人は、どうしても健康診断を受けなかったり、食生活が偏りがち。それが将来の健康に影響を与えることも少なくありません。各事業所を対象に、職場での健康づくりを促す取り組みをしています」(担当者)
食べて、動いて、楽しみながら学ぶ。島根県民の「まめな」暮らし、できるところからまねしてみたい。
※女性セブン2021年10月28日号
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