倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.82「祖母の形見と夫の形見」
漫画家の倉田真由美さんの夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)は着道楽だった。亡き夫が残していったたくさんの服や靴――。10年前に亡くなった祖母の形見を見て、今思うこととは。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。新著『抗がん剤を使わなかった夫』(古書みつけ)が発売中。
亡き祖母のこと
実家のある福岡に住んでいる妹が、時折うちに遊びにきてくれます。
妹とは、他の人とは絶対にできない話ができます。とりわけ私たち姉妹にしか分からない、家族の話。先日は、10年前に亡くなった祖母の、私は知らなかった話を妹から聞きました。
「おばあちゃん、服は絶対に木綿がいいって木綿しか着んかったよね」
「え、そうだったの?」
「そうよ。おばあちゃん、着物も全部木綿よ」
お茶や詩吟、漢詩など様々な習い事をしていた祖母。和服を着る機会も多く、着道楽で洋服もたくさん持っていました。私も形見に着物や祖母が贔屓にしていたメーカーの服などもらいましたが、着物も服も祖母自身ほとんど袖を通していなかったもので、私も着る機会はなくほとんど処分してしまいました。
残しているのは、祖母が使っていた小さな手鏡。私が子どもの頃、これを使っていた祖母の姿を覚えています。やはり形見は、故人が使っていた記憶があるものでなくては形見として愛着を持つことが難しいです。
でもあと一つ、祖母の形見で大切にしているものがあります。妹が作ってくれた手ぬぐいです。祖母が私たちの家に泊まりに来た時にいつも着ていた浴衣を、妹が手ぬぐいに作り替えて私にプレゼントしてくれました。
最初見た時、「あれ、なんだかとても懐かしい柄だ」とは思いましたが、すぐに祖母の浴衣だとは気づきませんでした。妹が「おばあちゃんの浴衣よ」と教えてくれて、浴衣姿の祖母がパッと思い浮かび、以来大事にしています。
浴衣のままだと嵩張るし狭い家なので取っておくのも大変ですが、手ぬぐいならスペースいらずでずっと手元に置いておけるし、日常使いもできます。汚したくないのであまり使っていませんが。
夫の形見の服もこうして加工すると保管しやすいな…とも思いましたが、Gパンやジャケットは元より、Tシャツや短パンですら夫が着ていたイメージが強すぎて切ったり形を変えたりはとてもできないと諦めました。