理想の老後がここにある!認知症3人娘「あめちゃんず」爆笑ラジオ本日も生放送
忘れることや不便なことが増えても、楽しく生きられる──そんなことを教えてくれる、認知症の“当事者”によるラジオ番組がある。北九州市の老人ホームが取り組む「認知症おばあちゃん」たちの生放送ラジオに密着すると、つらいものと思いがちな認知症老後を明るく生き抜く知恵が見えてきた。合計264歳!同じ話もご愛嬌!ご長寿社会の必読レポートだ。
平均年齢88歳の現役ラジオパーソナリティ
「次の曲は、都はるみの『好きになった人』です」
曲をリクエストしたのは、番組パーソナリティの酒井清子さん(87)。
「私の好きになった人?私の生まれて育ったとこは田舎やけん、そんな気の利いた人はおらん」
曲の推薦理由を聞かれた酒井さんはそう答える。噛み合っているのかいないのか、微妙だけど軽妙なやり取りが爆笑を呼ぶ。
福岡県北九州市にある認知症対応型グループホームもやいに入居する3人娘『あめちゃんず』。平均年齢88歳の現役ラジオパーソナリティだ。
北九州市若松区のコミュニティFM「エアステーションヒビキ」で月に一度、第四金曜日の13〜14時に放送される『ラジオ@オレンジカフェ』にレギュラー出演している。
キャンディーズならぬ“あめちゃんず”
マネージャーを務めるホーム管理者の小島成裕さんが胸を張る。
「昭和のアイドル“キャンディーズ”を日本語訳しました。今では、なくてはならない番組の顔です」
あめちゃんずは全員がアルツハイマー型の認知症を患っている。けれど元気いっぱい、お喋りも大好きだ。時に同じ話を繰り返すこともあるが、皆が初めて聞くかのように相槌を打つ声は、多くのリスナーの支持を集める。12月で24回目の放送を迎える人気コンテンツとなった。
番組を企画したのは、同ホームを運営する社会福祉法人もやい聖友会の理事長・権頭喜美恵さんだ。
権頭さんは、優しい語り口で番組を進行し、時に冗談をはさみながら、あめちゃんずの魅力を引き出す。
「最初はみなさん、こんなにお喋りはしてくれなかったんですよ。でも、最近はずっと喋りっぱなしです」
戦争。結婚。子育て。仕事。出会いや別れ……。長い人生を背景にしたトークは深くて広い。
「年なんか忘れてええんよ。忘れるけん楽しんやもんね」
最年長は中村文子さん(90)。自己紹介は決まって生年月日からなのだが、
「昭和5年6月3日生まれの80歳」
とサバを読む。
「中村さん、90歳ですよ」
進行役の権頭さんに訂正されても、気にせず「ああそうか」とニコリ。
実家がちくわやかまぼこなどを扱う練り物屋さんだったという酒井さんは、現場のムードメーカーだ。
「年なんか忘れてええんよ。忘れるけん楽しんやもんね。今度うちのかまぼこ持ってきちゃる。おいしいよ」
お店はとうの昔に閉めてしまったが、酒井さんの記憶の中では健在だ。
天神ツキミさん(87)は夫が大好きだ。事あるごとにのろけ話が飛び出す。
「いくら年をとっても、うちの人はあんぽんたん。だけどいい人なんよ。だから今でも仲がいい」
残念なことに現在夫は別の施設に入居しており、離れ離れの暮らしだ。
「でも心はいつもうちの人を思っているの」(天神さん)
認知症への偏見をなくしたい
放送が行なわれる「もやい通りスタジオ」は、もやい聖友会が運営する特別養護老人ホーム「銀杏庵穴生倶楽部」の1階に併設されている。
「ここではあめちゃんずの番組だけでなく、地元のフットサルチームのメンバーやパフォーマーの方などの番組も発信しています。誰もが使える場所として地域のお役に立てればと考え、2012年にオープンしました」(権頭さん)
権頭さんがあめちゃんずの起用を考えたのは、認知症への偏見をなくしたいからだった。
「認知症になったら何もわからなくなると思い込んでいる人がまだ多いのですが、あめちゃんずのお喋りを聴いてもらえれば、それが間違いであることがわかるはずです」(同前)
番組の立ち上げ当初は、メンバーを固定せずに、別の出演者もいたというが、回を重ねるごとに、3人の相性の良さが際立つようになった。
「1年ほど前からあめちゃんずを結成し、以降はレギュラーとして頑張ってもらっています」(同前)
コロナのおかげで面会の制限もあるなか、月に1度の番組を通して元気な様子を確認する関係者や家族も多いという。
「放送を通じて認知症に対する考えが少しでも変わってくれればと思っています」
と権頭さんは言う。
放送の様子はユーチューブ(※)でも視聴可能だ。
※社会福祉法人 もやい聖友会もやい通りスタジオ:https://www.youtube.com/channel/UCHjDw-5mo5qlga5HYCTbpxQ
「気が向いたら見ればよかよ」(酒井さん)
【データ】
社会福祉法人もやい聖友会
ラジオのスタジオがある「銀杏庵穴生倶楽部」をはじめ、グループホームやショートステイなど複数の施設を運営。あめちゃんずが暮らす「グループホームもやい」(北九州市八幡西区)は定員18人。家事など自分でできることをこなしながら共同で生活する。
http://www.moyai.or.jp/office/
撮影・取材・文/末並俊司
『週刊ポスト』を中心に活動する介護ジャーナリスト。2015年に母、16年に父が要介護状態となり、姉夫婦と協力して両親を自宅にて介護。また平行して16年後半に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を修了。その後17年に母、18年に父を自宅にて看取る。現在は東京都板橋区にあるグループホームにて月に2回のボランティア活動を行っている。
※週刊ポスト2020年12月18日号