85才でちくわが噛めない人の生存率は何パーセント?【歯学部教授が解説】
100才以上が8万人を突破した日本では、歯を守ることが社会的な課題となっている。なぜなら歯を失ったまま義歯をつけていない人が認知症になるリスクは、歯が20本以上ある人の1.9倍も高いのだ。健康長寿のためには、きちんと噛める歯が不可欠。そのために知っておくべき最新情報とは──
A子さんが 思い知らされた「噛めなくなる未来」とは…
東京都在住のA子さん(46才・パート主婦)は、年明けに緊急事態宣言が再発出されたことで、昨年春から気になっていた、ぐらつく歯の痛みを放置し、がまんしていた。
「歯痛は命にかかわる病気ではないので不要不急と思い、通院も自重していました。ただ、その後のチャンスに行かなかったのが痛恨のミス。あのとき、早めに診てもらっていたら‥‥」(A子さん・以下同)
その後、3月に会社の歯科検診を受けたところ、虫歯と歯周病が進行していた。
「抜かざるを得ない歯が数本あり、歯周病も進行していたのですが、私は顎の骨が小さくてインプラントが難しいらしく、最初は部分入れ歯にすることになりました。このまま歯周病が悪化すると、50才手前で総入れ歯にしないといけない可能性もあると言われて目の前が真っ暗に。噛めなくなったらどうしよう…」
85才でちくわが噛めない人の5年後の生存率は?
15年間にわたり「咀嚼(そしゃく)力と寿命の関係」を追跡調査(2002~2017年)した疫学調査(※1)では、次のような結果が報告されている。
「85才の時点で、『こんにゃくとちくわを噛んで食べられない』と、回答したすべての男性を追跡調査したところ、5年半後には生存率が0%でした。きちんと噛めないと栄養にも偏りが出て、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)と寿命に、いかにマイナスかがわかります」
そう鶴見大学歯学部教授の花田信弘さんは説明する。
「噛む力」と「顎の丈夫さ」が重要
「実は、8020運動(※2)の目標値は2016年に達成され、歯は本数よりも“噛む力”が次なる課題となりました。下グラフのように、60代の4人に1人が以前よりも噛めなくなり、政府目標を下回っています。そのまま噛む力が弱くなり、85才でこんにゃくやちくわが噛めなくなって、寿命が縮む人がいる一方、入れ歯で板チョコを噛み割れる117才の女性もいます。その違いは、噛む力のほか、歯の根を支える顎の丈夫さにあるのです」(花田さん・以下同)
合わない義歯も食べられなくなる原因に
花田さんによると、上の歯よりも下の歯の根を支える土台となる下顎が重要だという。
「骨は使うことで造骨細胞が活性化します。そのため、よく合った入れ歯や、歯根膜を残した歯で噛むことが骨の維持にきわめて重要です。合わない義歯であまり噛まずにいると、顎の骨が徐々に溶けて平らになり、顎骨骨折が起こる。すると、食べられなくなってしまいます」
人生100年時代。健康で生き生きと年を重ねるために、歯を守る知識を得ておこう。
(※1)岩手県歯科医師会と鶴見大学の共同研究。岩手県内の85才343人(男性138人、女性205人)を15年間追跡調査した。
(※2)80才で20本の自分の歯を残すことを目標とする「8020推進財団」が、1989年に始めた運動。
教えてくれた人
花田信弘さん/鶴見大学歯学部 探索歯学講座教授
口腔衛生研究の第一人者。3DSという除菌治療法を開発。歯科大学などで客員教授や非常勤講師を務める。
取材・文/北武司 イラスト/こさかいずみ
※女性セブン2021年4月1日号
https://josei7.com/
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