「風呂上がりの綿棒」「ヘッドホンやイヤホンの多用」は40代から始まる“聴覚の老化”を早める? “加齢性難聴”を予防する生活習慣を専門医が解説
年齢とともに衰える聴力。 誰にも起こる老化現象の一つだが、会話が聞こえづらくなったり、車や自転車に気づかず事故に巻き込まれるなど、生活に大きな支障が出る恐れがある。聴覚の老化には日常生活の何気ない行動が影響していることが判明した。聴覚の老化を早める習慣と遅らせる習慣を解説する。
教えてくれた人
室井一辰さん/医療経済ジャーナリスト、大河原大次さん/耳鼻咽喉科専門医・日本橋大河原クリニック院長
聴覚の老化を早める習慣/遅らせる習慣
老化現象を“克服”する研究が世界中で進んでいる。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは言う。
「近年は世界的に老化研究の進歩が目覚ましい。2020年以降は抗老化(エイジングケア)から一歩進み、動物実験などによって“若返り”の可能性が科学的に証明され始めています。米ハーバード大医学大学院教授で、長寿と加齢研究の世界的権威であるデイビッド・シンクレア氏の提唱した『老化は治療や予防が可能な病である』との考え方が広まりつつあるのです」
今年2月に英オックスフォード大の研究チームが「老化を左右するのは遺伝よりも生活習慣」とする研究報告を学術誌に発表した。
「約50万人のデータを解析したところ、遺伝要因が寿命に与えた影響が2%未満だったのに対し、生活習慣を含む環境要因は17%でした。体に良い習慣を日常生活に取り入れることで長生きの可能性が高まるというシンプルながら重要な指摘です」(室井さん)
「聴覚の老化を早める習慣/遅らせる習慣」について専門医が紹介する。
「風呂上がりの綿棒」が炎症の原因に。難聴を加速させる間違った耳のケア
「聴覚の老化は40代に始まり、ゆっくり進行。多くの人は60才前後で『聞こえが悪くなった』と感じます」
そう指摘するのは耳鼻咽喉科専門医で日本橋大河原クリニック院長の大河原大次医師。
「こうした加齢性難聴が発症するのは、音を脳に伝えるセンサー(内耳にある蝸牛の有毛細胞)が動脈硬化などの血流障害で劣化して壊れたり、内耳と脳を繋ぐ聴神経が衰えたりすることが原因と考えられます」(以下、「」内は大河原医師)
加齢性難聴を避けるには、血流障害の原因となる動脈硬化を予防することが大切だという。
「肥満を健康的に解消し、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病をきちんと治療し、数値を下げることが加齢性難聴対策の第一歩です」
映画や音楽の音量にも気をつけたい。
「有毛細胞は大音量を長時間聴くことでダメージを受け、劣化が進行します。映画や音楽を楽しむ際は音を控えめにすることが基本です」
ヘッドホンやイヤホンの多用が原因の、いわゆる「ヘッドホン難聴」にも注意が必要だ。
「音が直接耳の中に入り、内耳への刺激が強い反面、じわじわ進行するため自覚しづらいのがヘッドホン難聴の特徴です。使用時は1時間に1回は外して耳を休めましょう。WHO(世界保健機関)も連続使用を避けること、騒音下でも音量を上げずに済むノイズキャンセリング機能がついた機種を使用することを推奨しています」
やってしまいがちなNG習慣が、「風呂上がりの綿棒」だ。
「入浴後は耳垢が柔らかくなっており、その状態で綿棒を入れると耳垢をより耳奥に押し込んでしまう。結果、炎症の原因になることがあります。外耳炎によって音が聞こえづらくなるとテレビの音量も上がりがちで、有毛細胞にダメージを与えかねない。耳掃除をするなら綿棒ではなく耳かきを使用しましょう」
発症すれば治らない加齢性難聴だが、「聞き取る力・聞き分ける力」は鍛えられるという。
「複数人の言葉を聞き取りづらくなるのも、加齢性難聴の症状の一つ。聴力は戻らないまでも、積極的に会話に参加することで聞き分け、聞き取る力が改善する可能性はあります」
「難聴」を早める習慣・遅らせる習慣リスト
<老化を早める習慣>
・1時間以上イヤホンを付け続ける
内耳への刺激が強く、加齢とともに難聴を早める
・風呂上がりに綿棒を使う
柔らかくなった耳垢を奥に押し込んでしまい、炎症の原因になる
・映画や音楽を大音量で視聴する
内耳の有毛細胞を傷つけ、音響性難聴の原因になる
<老化を遅らせる習慣>
・複数人で会話する
加齢性難聴による「聞き分け」「聞き取り」の改善に効果的
・ノイズキャンセリング機能のあるイヤホンを使用する
周囲の騒音をカットすることで、音量を上げずにすむ
※週刊ポスト2025年7月11日号
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