安心して「自宅で最期」を迎える3ステップ ケアマネ・かかりつけ医の選び方、介護保険の使い方まで
病院での感染リスク、病床ひっ迫、家族の面会禁止など、コロナ禍によって病院の脆さが浮き彫りになった。在宅医療が見直される中、人生の最期をどこで迎えるべきなのか考える人が増えている。「病院で死ぬのが当たり前」という常識を変えるときがきた――
なぜ自宅での看取りが激減したのか…
厚労省『人口動態統計』によると、2005年に医療施設で死亡した人は82.4%。ここ数年も7~8割が病院で死を迎えている。一方、1951年は病院で亡くなった人は1割程度で、自宅で亡くなった人が82.5%と正反対だ。
国民皆保険制度が導入されて医療費の負担が軽くなったことや、医療技術の進歩を理由に「病院で亡くなる方が安心」と考える人が近年は増えているということだろうか。『自宅で最期を迎える準備のすべて』(自由国民社)の著者で、正看護師の大軒愛美さんは否定する。
「『病院で最期を迎えたい』という人は少数派です。特にコロナ禍では病院が家族との面会を禁止することも多く、自宅で最期を迎えたいと考える人が増加傾向にあります」(大軒さん・以下同)
コロナ禍以前に統計を取った内閣府の『平成29年版高齢社会白書』を見ても、「自宅で死にたい」と答えた人は54.6%、「病院などの医療施設で死にたい」と答えた人は27.7%となっている。なぜ、自宅での最期を望む声が多いにもかかわらず、病院で亡くなる人が大多数を占めてしまうのだろう。
自宅での看取りが激減した背景には、時代の変化が大きく影響する。
「昔は二世帯、三世帯家族が当たり前だったため、家庭内で介護をするゆとりがありました。大家族で暮らしていれば祖父母を看取った経験から“死”への免疫も身につきやすいですが、核家族が主流となった現代は家族の死を近くで見守る機会がなく、自宅で看取ることは負担が大きすぎる。同じ理由で、家庭内で介護をする姿を見ていないため、終末期患者をどう手助けすればいいのかわからないという事情もあります」
医療の発達も、自宅での看取りを“珍しいもの”に変えてしまった要因の1つ。
「昔は治らない病気だとわかれば自宅療養になるのが普通でしたが、いまは入院することも多い。しかし、治療期間が長引くほど合併症のリスクが高まる。入院が延びて寝たきりの時間が増えれば、筋力が落ちて歩けなくなる。この状態になると自宅での療養は極めて難しく、家族も病院で最期を迎えることを望むようになります」
「自宅で最期を」かえるために
●第一段階:最期をどう迎えたいか意思を明確にしておく
これを加速させているのが、自分の思いを素直に言いづらい環境だ。大軒さんが続ける。
「本音では『終末期は治療から緩和ケアに切り替えて、住み慣れた自宅で穏やかに死にたい』と望んでいても、家族に伝えていなければ医師と家族が今後の方向性を決めてしまうことがあります。すると、患者は後になって自分の意思を貫くのは“わがまま”だと考えるようになり、あきらめてしまうのです」
1秒でも患者に長生きしてほしいと治療を希望する家族を責めることはできない。だが、こうやって意に沿わぬ病院死が増えるのだ。この傾向を介護評論家の佐藤恒伯さんも指摘する。
「医師から医療を受けるか聞かれた家族は、ほとんどの場合、『イエス』と答えます。病院では医師が主導だと考えているからです。しかし、最も大事なのは患者本人の意思です。自宅で最期を迎えたい人は、元気なうちから“自分がどう生きたいか”を示す必要があります」
たとえば、東京都医師会のホームページには、将来どんな医療や介護を受けて最期を迎えるかを自由に書き込める「心づもり」シートがある。そこには「最期まで暮らしていたい場所」の項目もある。人生の計画を家族や医師と共有しておくことが、自宅での最期をかなえる第一段階だ。
●第二段階:家族ぐるみでつきあえるケアマネ、かかりつけ医を探す
自宅での最期を希望する場合、鍵を握るのは「ケアマネジャー」と「かかりつけ医」だと佐藤さんは言う。ケアマネジャーとは「介護支援専門員」のことで、利用者やその家族と相談しながら、利用者が適切な介護サービスを受けられるように管理する専門職だ。
「ケアマネは、介護の“建築士”のようなもの。最適な介護を完成させるため、ヘルパーから情報を集めたり、プランを組み立ててくれる頼もしい存在です。しかし、人と人である以上、相性がある。一度決めたらケアマネを変えてはいけないと思っている人が多いですが、合わないと感じたら無理せず、別のかたにお願いしてもまったく問題はありません」(佐藤さん・以下同)
さらに、かかりつけ医との信頼関係の深さは、看取る側の家族の行動も左右する。
「どれほど完璧に準備していても、いざ最期のときが来ると必ず家族は動揺します。ある家族は、母親の呼吸が浅くなったため慌ててかかりつけ医に連絡したところ、『もう少し様子を見ましょう』と言われ、われに返ったそうです。その数時間後、母親は静かに息を引き取りました。もし、かかりつけ医と信頼関係がなかったら、家族が勝手に救急車を呼んだかもしれない。母親をつねに診てくれて、家族ぐるみのつきあいがあったからこそ、医師の一言を信じて冷静になることができたのです」
気が動転した家族が救急車を呼び、病院で延命治療が行われ、そのまま病院で亡くなることはよくある。そこまで見越して、医師選びを行いたい。大軒さんが言う。
「かかりつけの在宅医を選ぶ決め手は、患者に寄り添ってくれるかどうかに尽きます。看取る家族も不安や緊張でいっぱいなので、家族の気持ちに配慮できるかもポイントです。初めからいい医師に出会おうと気負わず、『ダメだったら次』というくらいの気持ちで構わないでしょう」
かかりつけ医やケアマネジャーを決めるときは、なるべく家族につき添ってもらい、家族ぐるみのつきあいをしていくことが大切だ。
●第三段階:介護保険制度の利用で、ひとり暮らしでも安心
大阪府在住の海野和世さん(仮名・83才)は、4年前に夫を亡くしてから、自宅で最期を迎えることを決めた。
「築50年の木造2階建てで、3人の子供たちの部屋だった2階の3室は長いこと使っていません。ここを売って老人ホームに入ることも考えましたが、子供たちが背比べをした柱のきずなど、家族と暮らしてきた“記憶”がいっぱいで離れられませんでした」
広い家でひとり暮らしになった海野さんは、まず、生活しやすいように浴室などに手すりをつけ、床はバリアフリーにした。火災対策としてコンロをガスからIHに交換し、起き上がるとき腰を痛めないよう、布団からベッドに変えた。こうしたリフォームなどにかかった費用は、夫の生命保険と要介護1である自身の介護保険でカバーした。介護保険サービスを活用できていれば、家族がいるかどうかは基本的に関係ないと大軒さんは言う。
「私が看取ってきた患者の中には、天涯孤独や家族と疎遠になっているケースもありましたが、ケアマネやヘルパー、訪問看護師などがサポートするので心配ありません。たとえ家族と暮らしていても、サポートを活用せず、すべて自分たちでなんとかしようと気負いすぎると失敗します」
審査を経て要介護認定を受ければ、利用限度額はあるものの、自宅のリフォームだけでなく日常生活のサポートもしてもらえる。海野さんは、こうした公的サービスをフル活用している。
「週2回、訪問介護に来ていただき、洗濯や掃除を手伝ってもらっています。デイサービスで介護施設へ通い、同年代の人たちとカラオケをすることもありますし、ヘルパーさんと話をしているだけでも心が和みます」(海野さん)
無理に家事をして骨折したり、人との会話が減って認知症になると自宅での生活は途端に困難になる。長く元気に暮らせる工夫をすれば、ひとり暮らしでも最期まで自宅で過ごすことは可能だ。
■在宅医療を受けるまでの主な流れ
末期がんで入院している患者が退院し、在宅医療を受けるまでの流れをチェック。
(大軒さんの著書『自宅で最期を迎える準備のすべて』を参考に作成)
入院中
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病院のソーシャルワーカーに相談
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介護申請
地域包括支援センターや市区町村、居宅介護支援事業者で申請。家族がいない場合はソーシャルワーカーが代行して申請を行う。
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ケアマネジャー決定
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介護申請の審査
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要介護状態等区分決定
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医療ソーシャルワーカーと相談
車いすや歩行補助の杖、自宅に取りつける手すりなど、福祉用具の利用についても検討する。必要があれば自宅のリフォームを行う。
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訪問診療先の選択
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在宅クリニックの決定
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退院前カンファレンス(会議)
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介護保険・医療保険サービス内容決定
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書類作成
ケアマネジャーが介護保険サービスに関する内容を、主治医たちが医療保険サービスに関する内容の書類を作成する。
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自宅への退院
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在宅医療と介護サービス開始
※女性セブン2021年10月14日
https://josei7.com/
●菊田あや子さん、母の遠距離介護と在宅での看取りを経て『終活ガイド』を取得