「1日5分ボーッと」がうつ病から身を守るのに効果的
新型コロナウイルスは一向に収まる気配がないどころか、急速に感染が拡大しており、また外出自粛ムードに。出口が見えない不安が渦巻く中、7月以降、女性の自殺率も上昇している。心が折れてしまったり、不安が募る暗い報道に影響を受けないために、“心に効く”薬を専門家に“処方”してもらいました。
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「現代人は、スマホやパソコンを頻繁に使うオンライン化により、脳の一部だけが酷使されて疲弊している。これにコロナ禍による在宅ワークが加わり、オンライン疲れがますます加速しています」
そう指摘するのは、脳神経外科医の奥村歩さん。
「脳の前頭前野は“浅く考える部分”と“深く考える部分”の2つに大別できます。前者は、たとえば目の前にライオンが現れたときなどに、身を守るために“われを忘れて”動く機能で、後者は“人生とは何か”など物事をじっくり熟考する深い思考回路。いわば“われに返る”機能といえます。重要なのは、この両者は同時に働くことができないということ。実は、デジタル機器によるオーバーワークが続くと、反射的な情報処理をする脳の浅い部分ばかりが酷使されて疲弊。その影響によって、深く考える機能がフリーズしてしまうのです」(奥村さん・以下同)
そうなると仕事の能率が落ちたり、うっかりミスが増えたりといった「らしからぬ失敗」が頻発するばかりか、想像力も働かなくなるという。
「浅い部分ばかりを酷使する状況が続くと、判断力や深い思考力がさびつくといった、うつ病の前段階ともいえる脳過労の状態になるのです」
また、パソコンなどでのオンライン作業が増えれば増えるほど、視覚以外の五感が使われない傾向が強まり、眼精疲労が急増するのも昨今の特徴だ。
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公園に出かけたり自然の緑を眺める
スマホやパソコンから離れるデジタルデトックスが必要だが、いまやオンラインなしでの生活はなかなか難しい。
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「せめて休憩時間に近くの公園に出かけたり、窓や屋上から自然の緑を眺めながら、ぼんやりする時間を持つことが重要です」
ボーッとしている最中も、脳は機能停止をするわけではなく、デフォルトモードネットワークという機能が脳の深い部分で活動しており、蓄積された情報を頭の中で整理したり、クリエイティブなひらめきを生んだり、記憶力を強化したりしているのだ。
「そして何より重要なのは、うつ患者の特徴である、浅い思考から身を守れるということです。実は、うつ病で自殺する人たちというのは、深く悩んで死を選ぶのではなく、考えの深い部分がフリーズして反射的に死んでしまうことが多いのです。だから、1日5分でも公園などでぼんやりして、デフォルトモードネットワークを働かせること。これで思考のバランスが保てます」
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ぼんやりするコツとは?
ちなみに、ぼんやりするのにもコツがあると、奥村さん。
「体がリズム運動をしているときにデフォルトモードネットワークが働きやすく、脳が活性化するので、散歩やサイクリングのほか、部屋の片づけや皿洗い、靴磨きなどの単純作業をしながら、ボーッとするのが脳にとっては最適です」
また、紫外線を浴びると脳内物質セロトニンが分泌され、脳を活性化させるため、不安やうつ状態を鎮めることができる。在宅ワークに疲れたら“散歩でボーッと”を日課にしよう!
教えてくれた人
脳神経外科医・奥村歩さん/医学博士。「おくむらメモリークリニック」(岐阜県岐南町)院長。もの忘れ外来で、これまでに10万人以上の脳を診断。著書は『脳の老化を99%遅らせる方法』(幻冬舎)など。
取材・文/北武司 イラスト/坂木浩子(ぽるか)
※女性セブン2020年12月10日号
https://josei7.com/