家族に迷惑をかけず、自分らしい最期を…「エンディングノート」書き方5つのポイント
いつか来る“もしも”に備えたノートを書く──どう最期を迎えたいか、どう送ってほしいか、資産は何を残したいか。ゴールを決めることが明日からの未来をよりよく生きることにつながる。家族に迷惑をかけないために残しておきたい「エンディングノート」を書く際のポイントを解説する。
急に死が身近なものになった今…
収束の見えない「ウィズコロナ」生活によって、多くの人が否応なく将来について、そしてそのもっと先のことについて考えることになった。東京都在住の主婦・佐藤美香さん(仮名・63才)もその1人だ。
「同い年だった岡江久美子さん(享年63)の訃報を聞いて、急に死を身近なものに感じてしまったんです。子供たちや夫と充分なお別れもできないまま、ひとりで旅立つ可能性もあるんですよね。そう思うと、もっと家の中も整理しておきたいし、“子供のために”と入っておいた満期を迎えた保険がどうなっていたかしっかり確認しておきたいし、やることが無限にあるけれど、何をどうしたらいいのか、気ばかりあせってよくわかりません」
コロナ禍で佐藤さんのような人が増え、死に備えて今後の希望や伝えたいことを書き記す「エンディングノート」が見直されている。
自分の人生の終え方を考えるためにエンディングノートを記す
『読んで使えるあなたのエンディングノート』の著書がある、相続・終活コンサルタントで行政書士の明石久美さんが説明する。
「新型コロナによって、志村けんさん(享年70)や岡江さんが命を落としたように、“自分もいつ、どうなるかわからない”という危機感から、最期について考える人が増えました。とはいえ、だれにどんな情報を伝えればいいのかわからない、という声も確かによく聞きます。エンディングノートを書くことは、それを知るきっかけになります」
「エンディングノート」に書き込むことで、あなた自身がどう人生を終えたいか、そして、どんな情報を残せば家族に迷惑をかけずスムーズに送ってもらえるかがはっきりして、「理想的な最期」が見えてくる。
最初は何を書いたらよいかわからなくても、「何を書こうか」「自分はどうしたいのか」と思いを巡らせることそのものが終活になる。書く際にペンが止まるであろう、特に重要で書きづらいポイントをまとめた。
エンディングノート記し方のポイント
終末期医療や看取りについて考えるとき、「施設や病院ではなく住み慣れた自宅で最期を迎えたい」と望む人は多いだろう。しかし、そのまま記入するかどうかは一考したい。
「エンディングノートに中途半端に希望を書くことで、家族や親族がもめる火種を与えかねません。特に介護や最期を迎える場所についての希望は、それが顕著です」(明石さん・以下同)
たとえば「介護は在宅で受けたい」とだけ書かれていれば、親族間で相談することもなく、「ノートに書かれていたから」とそのときに同居している子供が介護をすることが決まってしまうなど、特定の家族に大きな負担がかかる可能性がある。
「子供は、できるだけ親の要望を叶えたいもの。あなたが意思を残すことで、子供を縛ることもあります。“ノートに書いてあったから”を言い訳に、ほかの親族が該当する家族1人に責任を負わせようとするケースもある。記入するかどうかはよく考え、可能な範囲で事前に家族で話し合うことをおすすめします」
エンディングノートが「希望の押し付け」にならないように注意したいが、「余命の告知」「延命治療」については、自身の希望や方針を明確に伝えた方がいい。
「“状況によってお任せ”や“家族で話し合って決めてほしい”と書くことは一見親切なように見えますが、実は大きな負担がかかる。本人の希望がわからないと家族が後々まで“ああすればよかった”“あれでよかったのか”と悔やむことになりかねません」
家族が判断するとき困らないように「どのような理由でそうしてほしいのか」を明確にしておくとよい。
1.介護は最期を迎える場所は指定すると家族に負担がかかる可能性がある
介護や看取りの場所については、「自宅で」「長女の家で」など指定してしまうと、特定の家族に思いがけぬ負担がかかってしまうことも。書き残さないのも選択の1つ。
2.延命治療をするか、告知の有無など終末期医療は明言を
延命治療をするかしないかや告知の有無などは、家族が判断しなければならないときに困ったり迷ったりしてしまう。自分の意思のみならず理由もしっかりノートに残しておきたい。
3.自分の資産についてはしっかり書き残す
「あの世にお金は持って行けない」からこそ、自分の資産についてはしっかりと書き残しておかなければ、残された人に大きな負担がかかる。
死後の手続きで多くの遺族が困っているのが“どこの銀行に口座があるのかわからない”ということ。“口座はいくつあるか”という質問に即答できる人はとても少ないのが現状です。遺産相続時に気づかず、手続きが終わった後に口座が見つかった場合、その預貯金の遺産分割協議が必要になることもあり、そうなると、大変な労力がかかります。たとえ1000万円の預貯金があったとしても、金融機関から連絡をくれることは、まずありません。あなたが把握して、まとめておくことが必要です」
後からでも口座が見つかるのならばまだいい方で、気づかないまま終わるかもしれない。金融庁によると、「10年間放置された預金」である休眠預金は、年間に約1200億円も発生しているという。銀行口座以外にも保険や株や不動産、車などのほか、借金も資産になる。残らずしっかり書き留めておきたい。
●銀行口座の、保険、株、不動産、車、借金は必ず書き留める
「特に保険は、もし詳細がわからなければ保険証券が保管されている場所を書くだけでもいい。『葬儀費用として長女に託します』など目的を書いておくと、相続人間のトラブルを防げます。保険と同じで、確定拠出年金も請求しないと受け取れないため、もらいそびれてしまいがちです。契約した本人が亡くなれば遺族が受け取れるため、明記漏れのないようにしておきましょう」
書き漏れがあるとゼロどころかマイナスになるリスクのある情報もある。
●証券は場所だけでも明記する
すべての項目を記入するのはなかなか難しい。その場合、保険証券がどこにあるかだけでも明記されていれば、保険内容や連絡先がわかる。加えて相続でもめることのないように加入した理由や保険金を何に使ってほしいかなども明記しておくといい。
●確定拠出年金も忘れずに
iDeCoは近年加入する人が増えているが、資産の1つであり、相続の対象となることを知っている人は少ない。加入している場合はしっかり情報を書いておくこと。
●クレジットカードの利用情報、定期小丹生、会費の情報を残す
「クレジットカードの利用情報や定期購入、会費などの情報もしっかり残しておいてください。会費がある場合は口座から引き落とされたり請求されたりしてしまうため、迅速に解約できるようにしておきたいですね」
●デジタル情報をを残すことが重要。IDとパワードは同じノートには書かない
加えて、インターネットなどのデジタル情報も残しておきたい。パソコンやスマートフォンのロックが解除できないと、ネットやアプリでの取引が把握できず家族が困ってしまう。ポイントは原則相続できないが、マイルや電子マネー、そのほかの取引など相続の対象になるものもある。しっかり情報を残すのは重要だが、IDとパスワードは、同じノートに書かないよう注意したい。「パスワードはここにある」と、信頼している人に伝えておき、通帳などと共に保管しておくことが望ましい。
4.葬儀の希望は「家族目線」で
葬儀に関する希望も、なぜそうしてほしいのかの理由を記しておくことで、家族間のトラブルを避けることができる。
●寺院の情報、訃報の連絡先、遺影の写真の希望を記す
「送る側のことを考えて書いてほしい。たとえば、お金がかからないようにという思いやりで火葬のみの『直葬』や『家族葬』などを希望したとしても、『かわいそうだ』と親族からクレームになり、トラブルになったり、後日の弔問対応に追われ落ち着かなかったりすることもあります。葬儀の希望を残す場合は、その理由を明確にしておくことが大切です。また、本人の死後すぐ必要になる寺院等と訃報の連絡先、遺影に使う写真の情報も忘れずに」
●形見分けを指定する場合は、理由も一緒に記す
理由が大事なのは「形見分け」も一緒だ。
「たとえば高級腕時計があって、それを譲り受けたいと思っていた相続人がいたとします。別の人が指定されていたら不満に思い、“なんであなたが”ともめ事に発展する可能性もある。なぜその人に渡したいのか理由が書いてあれば、納得されるでしょう」
5.お墓は「祭祀承継者かどうか」が鍵
お墓については、あなたが「祭祀承継者かどうか」がいちばんのポイントだ。
●祭祀承継者の場合は、墓地規約の保管場所は年間管理料をしっかり残す
「祭祀承継者とは、お墓をはじめとした仏具を引き継ぐ人のこと。祭祀財産には相続税は掛かりません。あなたが承継者であれば、その墓に入って次の承継者に託す必要が出てくるので、情報の引き継ぎが必要になる。そのため、墓地規約の保管場所や年間管理料などをしっかりノートに書き残しておく必要があります。継ぐ人がいなければ墓じまいをし、永代供養の墓に移すなどが必要です」
●祭祀承継者ではない場合は、供養の形を事前に家族と相談する
祭祀承継者ではない場合は、墓の選択肢が発生する。
「子供に墓守の負担をかけないため、散骨を選ぶことがありますが、家族は手を合わせるよりどころが欲しいと希望することがあります。供養は親戚も絡みます。お墓も多様化しているため、事前に家族と相談し、子供が嫌な思いをしない形の供養を選択することが大切です」
5.遺言書の有無は親族に伝えておく
遺言書があるかどうかをノートに記さない場合も、有無と保管場所は家族のだれかに伝えておきたい。ノートには法的効力がないため、財産の分け方を記すのは避ける。
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エンディングノートを記入することで、自分が亡くなった後に関する心残りが減り、納得いく余生と最期を迎えることができるようになるだろう。最終的に家族に託すかどうかは別として、まずは一度、書いてみてはどうだろうか。
※女性セブン2020年9月24日・10月1日号
https://josei7.com/
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