手元供養のすすめ|コロナ時代の新しい供養…インテリア骨壺って?
昨年まではめんどうだったお盆の帰省も、コロナ禍でままならなくなると、途端に不安になってくる。年に一度の墓参りすらできない状況は、いつまで続くのだろうか。もし、いま、大切な人を亡くしたら―いつか必ず訪れる別れに備えて知っておきたい、コロナ時代の供養のあり方とは?
コロナ禍の今、新しい供養が注目を集めている
「今年のお盆は帰省もお墓参りもできなかった」――コロナ禍では、まだまだ遠方には行きづらい。実家や墓地、霊園が遠いと、先祖を供養することもままならず、心を痛めている人も多いだろう。
「亡くなった大切な人をいつも身近に感じたい」「いつも傍(そば)で見守ってほしい」という気持ちがあっても、墓参りに行けなかったり、そもそも家に仏壇を置く場所がなかったりと、思うようにいかないのが現状だ。
そんな中で生まれた故人をしのぶ新しい形が「手元供養」だ。シニア生活文化研究所代表の小谷みどりさんが話す。
「手元供養とは、2000年代頃から少しずつ世の中に浸透してきた供養の方法です。ライフスタイルが変わって“生まれ育った場所で死ぬ”ことが減ってきて、自宅とお墓の距離が遠のく中、“遺骨の一部を手元に置いて供養したい”というニーズの高まりで広まっています」
新しい供養|手元供養は大きく分けて2つ
手元供養には、大きく分けて2つある。
1つめは、遺骨の一部を容器に入れて手元に置く「分骨」。2つめは、遺骨を「加工」する方法だ。
最も手軽でポピュラーなのが、遺骨をペンダントなどのロケットに分骨する方法だ。
1.分骨とは…インテリア性の高いミニ骨壺も
「耳かき1杯分ほどの遺骨をロケットペンダントなどに入れて身につけます。火葬場から持ち帰ったお骨の一部を自分で粉骨すれば、かかる費用はロケット代だけですみます」(小谷さん・以下同)
粉骨とは、遺骨を細かく粉砕すること。
「遺骨を乾燥させた後に自分ですり鉢などを使って粉骨することもできますが、相当な力が必要ですし、大切な人のご遺骨を粉々にするなんて、と抵抗を感じる人も多いので、業者に頼むことをおすすめします。業者に頼むと、費用は3万円程度。遺骨のごく一部だけ粉骨する場合も、すべての骨を粉骨する場合も、金額は一律です」
さらに、自宅に置ける、インテリア性の高い“ミニ骨壺”に分骨する方法がある。
「多くの窯元が、分骨用の骨壺を販売しています。通常の骨壺とは異なり、色、形、素材、デザインはさまざま。例えば、生前ゴルフが好きだった人はゴルフボール形、写真と一緒に飾りたければフォトスタンドと一体になっているものなど、ひと目では骨壺とはわからないようなものもたくさんあります。位牌や仏壇代わりになるので、家に仏壇を置けないという人も供養ができます」
これなら、実家や霊園から遠くで暮らす人も供養ができる。ただし、分骨の際には注意すべき点も。
「火葬後に発行される『埋葬許可証』は、ご遺体1体につき1枚しかもらえません。火葬場でロケットやミニ骨壺に分骨してもらったものを数年後に納骨したくなっても、埋葬許可証がないため、後からは納骨ができません。分骨を選ぶなら、火葬場で埋葬証明書と併せて『分骨証明書』をもらっておくようにした方がいい」
2.加工とは…遺骨を固めて「遺石」や遺骨ダイヤモンドに
一方で、遺骨を固めて「遺石」にする方法を選ぶ人も。
「遺骨を一度溶かして、冷却しながらギュッと固めて三角形のおにぎりのような形にしたものが遺石です。また、より小さな遺石にして、ペンダントやブレスレットに加工する方法もあります。粉骨することで遺骨のかさが3分の1くらいに減るため、粉骨した後に小さな骨壺に入れたり、ロケットペンダントに入れたりする人もいます」
遺骨や遺灰から炭素を抽出して人工ダイヤモンドのアクセサリーに加工する方法もある。主に、ダイヤモンドへの生成は海外で、アクセサリーへの加工は国内で行うため、費用も時間もかかる。
「ものによって金額は異なりますが、粉骨と加工費用を合わせて50万円くらいが相場です。私も夫の遺石をペンダントにして身につけていますが、デザインは普通のアクセサリー。誰にも遺骨だとは気づかれず、常に肌身離さず持っていられます」
分骨・加工…選択肢も豊富な「手元供養」の種類
分骨/ロケット
耳かき1杯分ほどの遺骨をロケットに入れる。ペンダントタイプのほか、ブレスレットタイプなどもある。自分で粉骨できれば、かかる費用はロケット代のみで済む。
分骨/ミニ骨壺
遺骨の一部を小さな骨壺に入れて自宅に置ける。壺型のほか、故人の生前の好みに合わせて、ゴルフボール形やフォトスタンドになっているものなど、ひと目では骨壺とわからない、インテリア性の高いものも多い。
加工/遺石
遺骨を溶かして固めて、手のひらサイズの“おにぎり”のような形に固める。粉骨は量にかかわらず3万円程度。
加工/遺骨ダイヤモンド
遺骨に含まれる炭素を抽出して人工ダイヤモンドを作り、ネックレスや指輪に加工する。含まれる炭素の量で色が変わるので、人によってまったく異なる色のダイヤモンドになる。費用は50万円程度で、4~6か月程度かかる。
自分が亡くなった後も一緒にいられる
「お骨を加工するなんて罰当たり」「ちゃんと納骨しないと浮かばれないのでは」と不安に思う人もいるかもしれない。
「そもそも、昔は土葬が当たり前で、埋葬したら骨も残りませんでした。宗教的には、遺骨は特別な意味を持つものではありません。墓地以外に骨を埋める行為は法律で禁じられていますが、骨を勝手に埋めたり海に捨てたりしなければ、分骨も粉骨も問題ない。世界には火葬できない宗教もありますが、分骨してはいけないという宗教は聞いたことがありません」
仏壇があったり、鴨居の上に遺影が飾ってあったりする家が当たり前ではなくなりつつあるいま、手元供養は現代の仏壇や遺影に代わる存在ではないかと、小谷さんは言う。
「お墓参りは、いうなれば、亡くなった人に会いにいくこと。特別に信心深い人でなくても、亡くなった人に対しては、“心の中にいる” “近くで見守ってくれている”と感じている人が多いはずです。遺骨はその人そのもの。お墓に行かなくてもいつでも大切な人に“会える”。これは手元供養の大きなメリットです。大切な人の遺骨を手元供養して傍に置いておくことは、生きる原動力にもなります」
手元供養を選ぶ注意点とは…
ただし、手元供養を選ぶ場合、1つだけ気をつけなければならないことがある。
「手元供養をしている当人が亡くなった後、遺石や骨壺などをどうするか、考えておく必要があるでしょう。手元供養をしている人にとっては大切な人の遺骨でも、次の代にとっては、“よく知らない親族の骨”ということもある。もし、一緒に暮らしたこともない人の遺骨だった場合、思い入れが持てず、残された人が持て余してしまいます」
基本的には、管理していた人が亡くなったときに棺の中に入れてもらうのがいいという。
「手元供養していたものを“遺品”として火葬してもらえば、大切にしていた人と自分の骨が混ざり、一緒に供養してもらえます。あらかじめ“私が亡くなったら一緒に棺に入れてね”と、遺言で伝えておくといいでしょう」
大切なのは形式ではなく「しのぶ心」。亡くなった人を思う気持ちが人それぞれであるように、供養の仕方も、形にとらわれず、それぞれのやり方があっていい。
教えてくれた人
小谷みどりさん/シニア生活文化研究所代表
※女性セブン2020年9月24日・10月1日号
https://josei7.com/