終活におすすめ3つの準備| 「人生会議」「もしバナゲーム」「ITAKOTO(イタコト)」
終活とは――人生の最期を自分の望むように準備すること。「終活」という言葉は、41才で急逝した流通ジャーナリスト・故金子哲雄さんが自らの最期を綴った著書が話題となり、その年の流行語大賞にノミネートされて以降、広く知られるようになった。コロナ以降、新たな終活とは、どんなものか。いつから何を準備すべきか…。
金子さんの意思を受け継いだ、妻で終活ジャーナリストの金子稚子さんに新たな終活の考え方や終活に役立つ最新ツールなどについて聞いた。
終活とは|時代とともに変わる形
「金子は、2012年の10月2日に亡くなる前、自分の通夜や葬儀、告別式、会葬礼状から墓の準備まで、完璧に準備を進めていました」(金子稚子さん、以下同)
肺カルチノイドという難病で余命宣告を受けた金子哲雄さんは、壮絶な闘病から自分の最期をプロデュースするまでを著書に残した。
「金子が命と向き合った『終活』は、死を語ることはタブーとされてきた世の中に、一石を投じたのかもしれません。
死と向き合う作業は、残された日々をどう生きるか、どんな風に生き抜くか、それが彼の考える『終活』だったと思うんです」
→自宅で看取るということ|菊田あや子さん・金子哲雄さんに学ぶ在宅介護
テレビやメディアなど第一線で活躍していた若き流通ジャーナリストの死の準備は、瞬く間に「終活」として一般に浸透した。
「あれから8年、巷に広まった終活の形も変わってきているように思います。エンディングノートを活用して自分の死後に備えることも注目されましたが、今は少し考え方が違ってきていますね」
終活はいつから? 準備や進め方は?
「新たな終活の形は、死んだ後の準備ではなく、残された時間をどう“生きる”かを考え、言葉にすること、もっとカジュアルにそういったことを話し合えるようになることが大事です。
しかし、この先、自分はどう生きたいのか、何を大事にしていくのか、そういうことを言葉にするのは意外と難しいものです。
自分の気持ちを色で表す「自分メモ」を書いてみる
エンディングノートや遺言となると、ハードルが高いかもしれませんね。だから、私は地方で暮らす高齢の母親に、まずはその日の気分を色で書いてみることをすすめました。
たとえば、『今日の気分は“赤”で、少し気持ちがかっとなったことがあったとか、“青”で沈んだ気持ちとか、その日の気持ちを色で記録することで、自分の感情がどんな風に浮き沈みするのかを後から俯瞰して見られるようになります。
心が浮き立つオレンジは、お友達とお茶をして楽しかった日だ…のように。
今もこの先もハッピーに生きていきたいじゃないですか。心の動きを色で簡潔に表して、できればその理由もメモしていくことで、自分が気分よく過ごすには何が必要なのか、何を大事にすればいいのかが少しずつ明確になると思うんです。私の母はその日の血圧とともに、心の動きを色で簡潔にメモしていますよ」
厚生労働省が進める『人生会議』ー新たな終活の形
「残された人生をどんな風に過ごしていきたいか、どんな医療を受けたいか、どんなケアを受けたいかということを考え、周囲の人と話し合うことをアドバンス・ケア・プランニングといいます。
『人生会議』という愛称で厚生労働省が進めている施策ですが、実際に人生の最期を家族と話し合ったことがある人は4割。半数以上の人がまだ話したことがないというデータがあります。
それだけ言葉にして話し合うことがまだ難しいということなんですね。家族間だとどうしても拗れがちなので、こういった話を引き出せる“話者”やロジック、対話を仕切れるコーディネーターのような存在が今後は必要になってくるのではないかと考えています」
新・終活の基本|大事なことは2つだけ
稚子さんが考える終活に必要なのは、2つだけだという。
「終活は、遺言を書いてお墓を用意して相続対策してと、さまざまな段取りをするものだと考える人もいますが、大事なのは、2つ。シンプルなんです。
1.自分の“いきかた”を決める
2.自分が所有する“物やお金”の行き先を決める
この2つさえ決めておけば、残された人たちは迷いません。なにより、もめ事が減らせるはずです。
1. 自分の“いきかた”を決めるとは?
「1については、延命治療はどうしたいかとか、口から物を食べられなくなったらどうしたいかとか、そういうことではなく、まずは体が動かなくなったり認知機能が衰えたりしても、どこでどのように過ごしたいのかを決めることですね。
こんな時、自分が気分よく過ごせるのはどんな場面だったのか、先にご紹介した自分メモが役に立つはずです」
2.“物やお金”の行き先を決めるとは?
「そして2については、時計は○○さんにあげて、宝石は○○に…、お金はこのようにしてほしいと、物とお金の行き先を決めておくことですね。
ちなみに、私は金子が残したブログやフェイスブック、メールアドレスといったデジタル遺品について実はいまだに整理できずにいるんですよ。時期がきたら閉じようとは考えているのですが…。
いまはデジタル遺品を扱うサービスも登場しているのでそういったサービスを活用することもありかもしれません」
新・終活におすすめのツール3選
人生の最期について話し合うきっかけになるツールを使うのもおすすめだと稚子さんは語る。いま注目している新・終活に役立つサービスをピックアップした。
1.厚生労働省『人生会議』のチェックリストを活用
「終活の第一歩として、前述の『人生会議』が入りやすいですよ。残された時間を生きるために大切にしておきたいことや、頼れる人、終末期の医療や介護などについて、チェック方式で選んでいき、結果を印刷することもできます」
厚生労働省が推進する『人生会議』のサイトhttps://www.med.kobe-u.ac.jp/jinsei/acp/index.htmlでは、人生最期をどう過ごしたいのかを、チェックリスト方式でシミュレーションできる。
2.人生の最期を話し合う「もしバナゲーム」
医療従事者が制作したカードゲーム。「カードには、人生最期のときに自分が『どんな状態でありたいか』『何をしてほしいのか』といった内容の言葉が書かれています」
「たとえば、「呼吸が苦しくない」とか「お金の問題を整理しておく」とか「いい人生だったと思える」など。カードゲームで遊びながら自分にとって何が重要なのか、理解を深めていくことができます」
【データ】
もしバナゲーム
価格:2000円(税別)
iACP:https://www.i-acp.org/game.html
3.遺書動画サービス「ITAKOTO(イタコト)」
ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんがプロデュースした『ITAKOTO』は、自身のスマートフォンで遺書動画を作成し、クラウド上に残すサービスだ。
「大切な人と生前から遺書動画の共有をするというもので、死を特殊なものではなくもっと身近に捉えられていることに興味を持ちました。
スマホを使って自分の遺書動画を作成して誰かに伝えるという行為を通して、むしろ生きること、今大切にしていることを見つめ直すことができますよね」
アプリをダウンロードして写真や遺書を送りたい届け先を入力し、動画による遺書を作成するもの。難しい操作は一切なく直感的に使えるのだが、”相手を思いながら遺言を残す”という作業は、自分の人生を見つめ直すことにもつながる。1通は保存期間1年で無料で試すことができる。
【データ】
ITAKOTO
https://itakoto.life/
価格:1通(保存期間無制限)月額120円~
「自分が何を大切にして生きているのかを確認するためにも、元気なうちに使ってみてほしい」と「ITAKOTO」を制作した田村淳さんは語る。
新たな終活の形は、より気軽な、身近なものへと変わりつつあるのかもしれない。
教えてくれた人
終活ジャーナリスト・金子稚子さん