85才、一人暮らし。ああ、快適なり【第17回 無駄遣い】
伝説の雑誌『話の特集』の編集長を創刊から30年にわたり務めた矢崎泰久氏。その手腕は、雑誌のみならず、映画、テレビ、ラジオのプロデューサーとしても発揮されている。
世に問題を提起する姿勢を常に持ち、今も執筆、講演など精力的に活動中だ。
現在、85才。自ら望み、家族と離れて一人で暮らすそのライフスタイル、人生観などを矢崎氏に寄稿していただく。
今回のテーマは、「無駄遣い」。お金を持つと、何か買いたくなってしまうという矢崎氏。その使い方とは?
悠々自適独居生活の極意ここにあり。
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幼い頃から、いわゆる「無駄使い」が大好きだった。
現金で必要な物を買うのは、当たり前で少しも面白くない。小遣い銭を貰ったりすると、すぐに使ってしまう。
とにかく、お金を持っていると、何か買いたくなる。
「どうして貯金しないの」と、よく母親に叱られたものである。
その癖が今もって抜けない。江戸っ子は宵越しの銭は持たぬという言葉もあったが、要するに浪費が楽しくてならない性分なのである。
ポケットの中にお金があるだけで落ち着かない。早く使ってしまいたい。
敗戦直後、私たちは酷い目に会っている。ある日、突然、預貯金が封鎖された。つまり銀行にあずけていたお金が、政府によって凍結されてしまったのである。
もちろん経済政策として行われた措置であったが、それでも自宅の金庫に現金を持っている人もいた。そこで政府は新円切替えを断行する。旧紙幣はすべて紙屑になってしまった。こんなことが起こるなんて誰も思っていなかったのだ。個人の現ナマはすべてゼロになってしまったのである。
この体験も私たちの世代には強烈に残っている。現金があったら、なるべく早く使ってしまった方がいいという思いが植え付けられる。
「無駄遣い」の弁解をしているわけではないけれど、浪費癖が身に付いたのは、その影響があったに違いない。