『MIU404』第1話!走る綾野剛×理性的な星野源のバディで最高の刑事ドラマ誕生の予感
ついに始まった『MIU404』。先週放送の第1話は、走る綾野剛、クールな星野源のバディ誕生にドラマの醍醐味が詰まっていた。これまで脚本担当の野木亜紀子作品を考察してきた大山くまおさんが、満を持して『MIU404』(TBS金曜夜10時)を毎週振り返ってレビューします。コロナはまだまだ収まってくれないけど、金曜の夜はおうちでドラマでワクワクしよう!
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『アンナチュラル』のスタッフが再結集!
「プロフェッショナル中のプロフェッショナルがたくさん集まって、面白いことをしようとか、これを伝えようとか、ものすごく明確にある中で、今まであまりテレビドラマで見たことないものがどんどんできていくっていう、このワクワク感が非常に楽しいですね」
ついに始まった綾野剛、星野源主演、野木亜紀子脚本のドラマ『MIU404』(読み方は「ミュウヨンマルヨン」)! 待ちに待った、という人も多かったと思うが、先週放送された第1話「激突」は期待を上回る仕上がりだった。冒頭のコメントはリモート記者会見で星野源が語ったもの。
まずはドラマの建て付けからおさらいしておこう。脚本の野木亜紀子、監督の塚原あゆ子、プロデューサーの新井順子は傑作『アンナチュラル』を生み出したトリオ。主題歌の米津玄師、音楽の得田真裕も『アンナチュラル』組。綾野剛は野木の出世作『空飛ぶ広報室』の主演で、星野源は野木の国民的大ヒット作『逃げるは恥だが役に立つ』の主演。綾野と星野は『コウノドリ』のコンビでもある。
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『MIU404』は、初動捜査を24時間以内に終わらせなければいけない警視庁の第4機動捜査隊(略称・第4機捜)を舞台に、“野生のバカ”こと伊吹藍(綾野)と理性的な思考の志摩一未(星野)がバディを組んで事件の解決に挑むというストーリー。基本的に1話完結のいわゆる刑事ドラマのフォーマットを踏まえつつ、全体を通して登場人物の過去をめぐるさまざまな物語が進行していく。
あおり運転の連鎖が生み出した事件
第1話「激突」では、第4機捜の創設、志摩と伊吹の出会いから、2人が最初に担当した傷害事件の解決までが描かれた。
第4機捜の隊長・桔梗ゆづる(麻生久美子)が集めたのは、元捜査一課の志摩、ベテランの陣馬耕平(橋本じゅん)、警察庁刑事局長を父に持つ若手キャリアの九重世人(岡田健史)という面々。志摩のバディとして(仕方なく)招集されたのが奥多摩で交番勤務をしていた問題児・伊吹だった。
出動初日、2人にあおり運転を仕掛けてきた男、水島(『テセウスの船』で刑事役だった加治将樹)が突然殴られるという傷害事件が発生。第4機捜は初動捜査に乗り出す。犯人の乗った車を割り出すことに成功するが、実はその犯人(深水元基)こそがあおり運転の常習者だった。偽造ナンバーを使ってあおり運転を繰り返し、相手があおり返してきたら追いかけて襲撃するという手口を繰り返していた。
超人的な伊吹の耳の記憶と、志摩の理性的な判断、防犯カメラの映像解析を行うスパイダー班・糸巻(金井勇太)の活躍で犯人の車を発見し、第4機捜による執念の捜査で犯人を追い詰めていく。逮捕したのは、タイムリミットの午前9時ちょうどのことだった。
「早い反応 鋭い感覚 広い視野」
スピーディーな進行で飽きさせない、さすがの過圧縮エンターテイメントぶりが光った第1話。事故に巻き込まれて行方不明になっていた老婆が『うる星やつら』でラムちゃんを演じた平野文で驚いた(かなり老けメイクを施したらしい)。
見どころは当然ながら、伊吹と志摩のバディぶり。バディものの刑事ドラマといえば『あぶない刑事』や『相棒』など枚挙に暇がないが、『MIU404』のバディはお互いに欠けているところを補うというより、お互いに突出しているところをぶつけ合いながら突き進んでいく。機捜の部屋に「早い反応 鋭い感覚 広い視野」という言葉が飾られていたが、まさに2人の能力をかけあわせたようなフレーズである。
ちなみに志摩が苛立ってゴミ箱を蹴飛ばすシーンと、怒鳴り散らされた伊吹が「なんだかテンション上がってきたーっ!」と叫ぶシーンはいずれもアドリブなんだとか。「テンション上がってきたーっ!」は今後も登場しそうなので要注目。
また、想像以上に存在感があったのが、陣馬と九重の年の差バディだ。包容力のあるオヤジ刑事と現場経験のない新米エリート刑事のバディというのも刑事ドラマの定番。この2人がどのような活躍を見せるのかも楽しみにしたい。
クライマックスでは近年まれに見る激しいカーアクションが展開。さらに、とにかく足の速い伊吹の見せ場もたっぷり用意された。刑事が「走る」シーンといえば、これも『太陽にほえろ!』以来の定番である(同ドラマは若い刑事が走ること自体がコンセプトだった)。伊吹のスピードを引き出すカラフルなスニーカーは、有名アスリートたちも愛用するナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%。
「マウントの取り合いは悲劇しか生まない」
というわけで、まさしく「機捜エンターテインメント」の名に恥じない痛快な刑事ドラマに仕上がっていたが、刑事ドラマは犯罪を描くものだから、当然犯罪者を描くことになり、犯罪者を描くということは社会を描くことでもある。『MIU404』にも現代の日本社会が抱える重苦しい問題や課題が当然ながら横たわっている。
「車の威を借りてマウントを取る。だけど、マウントの取り合いは悲劇しか生まない」
第1話で扱われた犯罪は近年話題になったあおり運転だが、その奥にあるのは志摩が言うような「マウントの取り合い」である。ちょっとしたことで苛立ち、相手を執拗に攻撃する。それほど罪の意識もなく、自分の正当性を主張するが、不利になれば取り繕うように詫びを入れる。これはあおり運転だけでなく、今の日本のそこかしこで見られる日常の光景だ。この犯人に名前がつけられていないのが象徴的だった。匿名の犯人は、あなたかもしれないし私なのかもしれない。
なお、2人が初出動した日はドライブレコーダーによると2019年4月5日。エンディングで桔梗が語っていた「あおり運転罪」(実際は「妨害運転罪」)が施行されるのは2020年6月30日。2019年が舞台ということにどのような意味があるのだろうか?
刑事ドラマの定番の要素(そもそも機捜というテーマそのものが日本初の連続1時間ドラマ『特別機動捜査隊』と同じだ)をベースにしつつ、あらゆる面でアップデートが図られている『MIU404』。2020年の今だからこそ描かれるサムシングに注視していきたい。今夜放送される第2話は「走るたてこもり事件」。志摩の過去も明らかになりそうだ。夜10時から放送。
『MIU404』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)
文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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