医師・医療法人が設立した介護付有料老人ホームと介護老人保健施設【まとめ】
評判の高い高齢者施設や老人ホームなど、カテゴリーを問わず高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップし、実際に訪問して詳細にレポートしている「注目施設ウォッチング」シリーズ。
高齢者が健康な生活を送るために必須なのが、信頼できる医師に定期的なチェックを受けること。信頼できる医師がいれば、万が一の時の対応もスムーズに受けられる。高齢者向けの施設に入居したり、利用する際もそれは同じだ。そこで今回は、医師・医療法人が設立した介護付有料老人ホームと介護老人保健施設を紹介する。
医師が理想の終の棲家を追求してきた介護付有料老人ホーム「光が丘パークヴィラ」
「終の棲家」と聞いて、どのようなイメージを持つだろうか。自分自身や家族の介護が必要になるのはまだ先だと思っている場合は、穏やかなイメージを持っているかもしれない。だが、実際に介護で悩んだり苦労していて、そんな理想郷はないと思う方もいるだろう。
高齢者のための施設が終の棲家たりえるかどうかを判断する材料の1つとして、看取り率をチェックしてみてはいかがだろうか。その看取り率が85%を超える介護付有料老人ホームが東京都練馬区にあると聞いて話を聞きに行った。まだ介護保険制度もなく、高齢者向けの施設を“姥捨て山”などと揶揄するような声がある時代から試行錯誤を繰り返し、今となっては先駆け的な存在として介護業界内でも一目置かれる存在になっているという。
緑に恵まれた都立光が丘公園に隣接する「光が丘パークヴィラ」は、1985年に医師の中村美和さんがつくった介護付有料老人ホーム。開業医として地域医療に取り組んでいた中村さんには、高齢者から先々の生活の相談が寄せられるようになっていたという。そこで中村さんは当時、いろいろな施設を見てまわったが、納得できるような施設がなく、自分でつくろうと思い立ったのが設立のきっかけだそうだ。
光が丘パークヴィラは元気な時の自立型住居と、医療や看護などが必要になった際の介護施設であるケアセンターに分かれているという。同じ敷地内にあるケアセンターには看護師・介護職員が24時間常駐しているので安心だ。また施設内にはクリニックが併設されていて医師が常駐しており、何が起こっても大抵のことには対応できるそうだ。
中村さんは光が丘パークヴィラを“高年者専用住宅”としてつくったと語る。元気なうちに入居し、年齢を重ねると起こってくることに対処し、看取りまで行うのがコンセプト。自立型住居とケアセンターに分かれていることには利点があるという。
「約85%の方をここで看取っています。病院は今、長期入院はできない制度になっているので亡くなるまで病院にいることはほとんどできません。高機能病院だと平均在院日数は12日くらいですからどんどん出されてしまいます。治療がなければ帰しますし、慢性化すれば帰すし、もちろん入院が嫌だと言えばすぐに帰します。状態に関わらず退院させますから、治ったから退院というわけではないんです。そういう状況なので、さまよえる老人が多くなってしまいました。そうすると、点々と施設を移るような人が増えてしまいます」(中村さん、以下「」は同)
ここでは元気なうちはマンションに住んでいるかのように生活でき、具合が悪くなれば手伝いをしてくれる体制が整えられている。そしていよいよ調子が悪くなれば、病気によっては病院に行くが、そうでなければケアセンターで最期の看取りまでしてくれるそうだ。どのような状態になっても1か所で対応してくれるので、施設を転々するようなことを心配しなくていいという。それは中村さんが開設当初から医療、介護、看護、生活支援を総合的に用意し、安心してもらうことを念頭において取り組んできた成果だ。
「日本の行政では、医療と介護と看護が縦割りで施設づくりをしています。お年寄りになったらいつ介護が必要になるか、看護なのか、医療なのか分からないのでさまよってしまう方が出てきてしまいます。お年寄りの対応は、総合対応で一連の流れの中でできないといけません。縦割りだとうまくいかないんです」
中村さんは終の棲家について「元気な時はもちろん、具合が悪くなっても生活できる、自分の家と同様、それ以上に対応できる家、自分の一生を託せる家」だと記している。生涯安心して暮らせる環境を元気なうちに確保したい方は、ぜひ足を運んで確かめてほしい。
→医師が理想の終の棲家を追求してきた介護付有料老人ホーム<前編>
→医師が理想の終の棲家を追求してきた介護付有料老人ホーム<後編>
医療法人が運営するクリニック併設の介護付有料老人ホーム「ようせいメディカルヴィラ」
介護付有料老人ホーム「ようせいメディカルヴィラ」の最大の特長は、運営主体が医療法人であること。1階には入院設備のある「ようせいクリニック」が併設されている。
入居に年齢制限はないそうだ。経営母体が医療法人であるため、自立、要支援、要介護、そして要医療までどのような状態であっても入居できるという。部屋での看取りも可能なので、要医療で入る施設を探している本人、そして家族にとっては心強い存在になりそうだ。実際に様々な所から相談が来て、医療依存度が高い高齢者も受け入れているという。
2007年4月の医療法改正により、医療法人運営による有料老人ホームが設置可能になった。それを機会に、地域に密着した医療・介護活動を展開してきた「医療法人社団容生会」は介護付有料老人ホームを開設。医師である増田勝彦容生会理事長にその意義や理想について聞いた。
増田理事長は1994年の増田クリニック開設以来、「すべては患者様のために」を理念として、医療と介護の包括的支援を目的に地域で活動をしてきたという。往診の際に自分の親を預ける気にならないような介護現場の状況を目にしており、その時の経験をもとに24時間、医師と看護師が常駐する有床診療所を1階に併設した有料老人ホームを作ったという。
24時間365日、何かあれば同じ建物の1階から医師、看護師が駆けつける体制を整えている「ようせいメディカルヴィラ」。法律で定められた基準以上の人員も必要があれば配置するようにしているそうだ。
「私たちは医療と介護の両輪で仕事をしているので、連携を取りやすいです。情報もすぐに伝わり、緊急時には私の携帯がすぐに鳴ります。医療と介護で困っている方は、気軽に相談してほしいですね」(増田理事長、以下「」内は同)
増田理事長の思いは建物にも表れている。廊下や共用スペースは広く、明るくするために窓を大きくし、ガラスもうまく使っている。里山をコンセプトにした色を各階に使い、和やかな雰囲気だ。何か問題が発生してもすぐに気付けるように、各フロアの見通しをよくしているのだという。建設会社と何度も話し合い、計画を練っていったそうだ。
容生会はサービス付き高齢者向け住宅「ようせいメディカルコート」も運営している。医療サポートが充実しているため、介護度が高くなっても住み続けることができるという。医療法人にしかできないものをというコンセプトで立ち上げ、行政にも驚かれるそうだ。見学に来る会社も多いというが、そっくりそのままマネをするのは難しそうだ。
→医療法人が運営するクリニック併設の介護付有料老人ホーム<前編>
→医療法人が運営するクリニック併設の介護付有料老人ホーム<後編>
快適な環境下で在宅復帰を目指せる介護老人保健施設「千壽介護老人保健施設」
長期の入院が難しくなっている現在の日本の医療制度。では、転倒による骨折や脳血管疾患、心疾患などで入院し、自宅に戻ることが難しい高齢者はどこに行けばいいのだろうか。その行き先の一つが介護老人保健施設、通称「老健」だ。
介護老人保健施設とは、要介護の高齢者が自宅で生活するための支援を行う施設のこと。理学療法士や作業療法士など専門スタッフによるリハビリを受けて、自宅で生活することを目指す。医師や看護師がいることも特徴の一つで、医学的な管理の下で介護サービスを受けながら機能訓練に取り組める。
多くの路線が乗り入れており、周辺に商業施設が充実している北千住駅。駅から徒歩10分の千壽介護老人保健施設では、入所とショートステイ、通所のサービスを提供している。運営している医療法人社団「龍岡会」は「医はサイエンスにしてアートである」をモットーにしているそうだ。
こちらで受けられるサービスは入所と通所に大きく分けられ、それぞれの定員は148人と36人となっている。入所には1か月以上施設を利用する長期入所と、1泊2日以上・1か月以内のショートステイの2種類があるという。日帰りの通所では、リハビリテーションや入浴、アクティビティーのサービスを利用できる。
「自宅に帰れるようにするのが老健の役割です。そのために何が必要かを具体的に考えてリハビリを実施しています。ただ身体機能を向上させても、その機能をうまく使えなければ意味がありません。例えば、自宅で夜、トイレに安全に行けるようにするためにどうするか。そのために、どちらの手で手すりのどの部分を掴むのか、体の向きを変えるためにどのような動作をするのかといったことを想定してリハビリに取り組むことが大切です」(副施設長の實川典子さん。以下、「」は同)
介護老人保健施設の目的は自宅で生活できるようにすること。そのため、入所前に自宅に行き、家の様子や生活状況を把握するのだという。相談の段階でもヒアリングをして情報は得ているが、実際に見ておくことがその後のリハビリを進めていく上で重要なのだそうだ。
「聞いていた言葉だけだとイメージできないこともあるので、必ずご所居者様の自宅に職員が伺います。事前にお聞きしていたご家族やご本人が自宅復帰に向けて障害になると思っていることと、リハビリの専門職が考えることが一致しないこともあります」
自宅に行くのは入所前だけではない。退所時にも訪問し、家族がいれば生活のためのアドバイスや情報の引き継ぎを行うという。ケアマネジャーがまだついていない場合は一緒に探すなど、退所後の生活に目処をつけるところまで関わってくれるそうだ。そして、ショートステイや通いのサービスを利用するという形で付き合いは続いていく。
高齢者が病院から自宅に戻る間の橋渡しの役割を期待されている介護老人保健施設。基本的な入所期間は3か月から6か月で、特別養護老人ホームや有料老人ホームのように、長期間の入居は想定されていない。そのため、余暇を楽しむための共用部分が少ない施設が多いようだ。しかし、千壽介護老人保健施設ではできるだけ快適に過ごしながら、リハビリに取り組めるように工夫をしているそうだ。
いかがだっただろうか。言葉は聞いたことがあっても、なかなかイメージが湧きにくいという声も多い介護老人保健施設。目的がはっきりしている施設なので、自宅に戻って生活したいという希望を持っている場合には強い味方になってくれそうだ。
→快適な環境下で在宅復帰を目指せる介護老人保健施設<前編>
→音楽と美術の力でリハビリをサポートする介護老人保健施設<後編>
医師や医療法人が設立した高齢者向け施設にはいざというときの安心感がある。医療がテーマとは言え、必ずしも現時点の医療依存度が高くないと入居できないというわけではない。運営方針や思いに共感できる部分があれば、選択肢のひとつにしてみてはいかがだろうか。
撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
※過去の記事を元に再構成しています。サービス内容等が変わっていることもありますので、詳細については各施設にお問合せください。