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施設内「感染リスク」の高い危ない老人ホームの見分け方

 介護が必要になった親のために老人ホームを探す際、ケアの質や費用に加え、これからは「感染症対策」が万全か否かが見極めの大きなポイントとなる。感染が拡大する新型コロナウイルスはもちろんのこと、インフルエンザや食中毒など、免疫力が低下した高齢の入居者にとってはウイルスや細菌感染が命取りになることが少なくない。チェックポイントを、専門家とともに検証した。

→新型コロナ介護施設職員にも感染者が!問われる施設の感染症対策

 * * *

 高齢者医療に詳しい国際医療福祉大学大学院教授の武藤正樹医師は次のように指摘する。

「老人ホームには複数の合併症を持った“ハイリスク高齢者”が多く生活しています。そうした方々は感染すれば重篤化する確率も高い。施設側の感染症対策がどれだけ行き届いているのか、入居者側も知っておくことが重要です」

老人ホーム選び、感染症対策の大きな要素に

 終の棲家となるかもしれない介護施設を選ぶ際、重視されるのは費用のほか、ケアやリハビリの充実度、食事の内容などだった。だが、これからは感染症対策の充実度も大きな要素のひとつに加えなければならない。

 東京都板橋区の特別養護老人ホーム『ケアポート板橋』―。

 スタッフ全員が一丸となり、質の高い医療・ケアサービスを継続的に実施する「TQM(総合的品質管理)活動」に定評のある施設だ。

 玄関の自動ドアを抜けると、「手洗い」「うがい」と「マスクの着用」を促す注意書きのホワイトボードに迎えられた。テーブルには非接触型の体温計と、来館者の氏名、入退館の時刻を書き込むチェックシートが置かれている。

ケアポート板橋の入口。ホワイトボードに感染予防対策のお願いが記載されている

「入居者のご家族をはじめ、すべての来館者にスタッフと同等レベルの感染症対策にご協力いただいています。日ごろから手洗いやうがい、マスクの着用を徹底していますが、新型コロナウイルスの蔓延を受け、入り口の検温で体温が37.5度を超える方は入館をご遠慮いただいています。万一、何らかの感染が発生した場合は、チェックシートを基に感染源の追跡ができる体制をとっています」

 そう話すのは、同施設長の宇津木忠氏だ。

 感染症対策に万全を期している老人ホームにはどのような特徴があるのか。同施設の取り組みなどを手がかりに、チェックすべきポイントを整理した。

高齢者施設の感染症対策チェックポイント

●手洗い場のゴミ箱を見る

「基本となるのは、やはり手洗い、手指の消毒とうがいです。トイレや居室など施設の各所に手洗いの設備があるか、アルコール消毒用のポンプが入り口だけでなく、要所に常備されているかもひとつのポイントとなる。

 外から戻って来たスタッフが、手洗いやうがいをしていない施設は要注意です」(宇津木氏)

 手洗い場では、石鹸、ペーパータオル、ゴミ箱にも目を向けたい。

●石鹸は固形か液体か

「医療や介護の現場では、受け皿に水が残るなどして細菌が繁殖しやすい固形石鹸ではなく、消毒用の液体石鹸を使用するのが常識。手を触れずに使えるセンサー式ディスペンサーならベストですが、ボトル式でも液体を継ぎ足さず、容器ごと交換している施設は衛生面への配慮が行き届いていると言えます」(武藤医師)

 また、ペーパータオルは「手洗い時の飛沫がかからない場所」に設置しているか、ゴミ箱は「蓋つきで、手を使わず開閉ができる足踏みタイプ」であるかも併せて確認したい。

●拭き掃除は徹底しているか

 不特定多数の人が触るドアノブや手すりが常に清潔に保たれていることも、評価のポイントとなる。

 実際、ケアポート板橋では利用者やスタッフが触れる様々な場所の拭き掃除を行なう専従の職員を雇用している。

「毎日、時間や場所を決めず館内を巡り、アルコールを染み込ませた布でドアノブや手すりなどを拭いて回ります」(宇津木氏)

 こうした地道な取り組みが感染予防の基本となるわけだ。

●蓋なし便器に注意

 老人ホームでは、新型コロナのほか冬場のインフルエンザやノロウイルス、夏場の食中毒などさまざまな感染症対策が講じられている。 とくにノロウイルスなど排泄物から広がる感染症の場合、トイレ周りの清潔保持も大切な要素となる。

 介護施設のサービスの質を保証する認証機関「Uビジョン研究所」理事長の本間郁子氏が解説する。

「老人ホームでは体が不自由な人、認知機能の低下で使い方がわからなくなってしまった人のために、蓋のない便器を使うことが多い。こうしたトイレでは水を流す際、ウイルスが広範囲に飛散する可能性があるため、こまめな清掃が必要になります。使用の都度、床だけでなく壁なども丁寧に拭かれているかを職員に確認しましょう」

●“ノロキット”はあるか

 激しい嘔吐や下痢の症状を伴い、重症化すると最悪の事態を招きかねないノロウイルス。万が一感染した場合は何より初動が肝心だ。

 デイサービスの事業所を併設しているケアポート板橋では、7台の送迎車と、特養施設の各フロアに「ノロ袋」と呼ばれるトートバッグを常備している。古新聞、雑巾、マスク、防護服、次亜塩素酸ナトリウムのスプレーなどが入ったキットで、「利用者が嘔吐した場合、まずはノロを疑い、ノロ袋を持って現場に急行します。吐瀉物の飛沫がスタッフの服に付着しないよう防護服を着用し、清掃作業に入ります」(宇津木氏)

 高齢者が嘔吐することは珍しくないが、「原因にかかわらず慎重かつ厳重に対処することが肝心」と前出の本間氏は指摘する。

「ノロウイルスの集団感染は、去年1年間だけでも全国各地で確認されています。専用の対策キットを常備している施設は感染症対策に対して高い意識を持っていると言えます」

●キッチンも見学を

 食べ物を扱うキッチンが併設されたオープンスペースも重要なチェックポイントだ。

 現在、老人ホームの主流となりつつあるのが、10室程度の個室がキッチンとリビングを囲むように設計された「ユニット型」という構造。一般的に、各ユニットには専属のスタッフが配置され、より家族的なケアが期待できる。

「ユニット型のキッチンは、基本的に利用者とスタッフの共用で、多数の人が接触する場となります。こうしたスペースは施設の姿勢が現われやすい。見学のとき、可能であれば冷蔵庫の中を見せてもらうといい。清潔で整理整頓されていれば利用者の安全に対する意識も高いといえます」(本間氏)

●どんな加湿器があるか

 乾燥するこの時期、湿度管理の重要性を指摘するのは前出の武藤医師だ。

「乾燥はウイルスの感染力を高めます。50〜60%の湿度を保持すれば感染力が急激に低下するので、ホームでの加湿器の設置は必須といえます」

 ただし、加湿器内の水が細菌やウイルスに汚染されていれば、病原菌を拡散することにもなりかねない。老人ホームでは、細菌などが繁殖しにくい加熱式(スチーム式)、或いは汚染の可能性が低い水道管直結式の加湿器が備えられていることが望ましいと言える。

●1ケア1手洗い

 介護の現場で耳にする「1ケア1手洗い」は食事や着替えの介助、おむつの交換など、ひとつのケアが終わるたびに手洗いすることを指す言葉だ。

 自分で食事ができなくなった利用者にはスタッフがつきっきりで食事介助をする。この場合も、「一人終わればすぐに手洗い」が基本だ。

 介護施設では「食べて寝る」だけではなく、生きがい創出のためのレクリエーションも大切な要素となる。感染症が流行しているからといって、これを完全に中止するわけにはいかない。

●レクの道具は使い捨てか

 レクリエーション介護士講座の講師を務める介護評論家の田中健氏は次のように語る。

「折り紙、塗り絵、簡単な運動などはレクの定番ですが、濃厚接触を伴うものです。レクの前後の手洗いうがいは欠かせません。また、カードや風船などの道具を使うレクもあるのですが使いまわしを避けるのも感染症予防のためには重要といえるでしょう」

●マニュアルの有無を確認

 自前の厨房を持つケアポート板橋では食品業者が納品する際も細心の注意を払っている。

「厨房はエリア分けされていて、我々スタッフでも立ち入り禁止の場所があります。納品業者には、入り口で靴を履き替えてもらい、禁止エリアの外で食品などの受け渡しをする。その時に決められた冷蔵冷凍の処置が施されているか、食品の温度を全て測って一覧表に記入します」(宇津木氏)

 だが、どんなに仕組みを整えても職員の意識が伴わなければ意味がない。

 施設を見学する際は、目に見える部分だけでなく、気になる点は臆せずに質問するべきだ。

「施設には感染症対策マニュアルなどが準備されているものです。万が一のときの対策を聞かれて口ごもるようなスタッフのいる施設は敬遠したいですね」(本間氏)

 設備、仕組み、スタッフの質―。感染症対策という視点は施設の良し悪しを測る新たな指標となりそうだ。

撮影/大塚恭義

取材・文/末並俊司

介護ジャーナリスト。『週刊ポスト』を中心に活動する。2015年に母、16年に父が要介護状態となり、姉夫婦と協力して両親を自宅にて介護。また平行して16年後半に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を修了。その後17年に母、18年に父を自宅にて看取る。現在は東京都板橋区にあるグループホームにて月に2回のボランティア活動を行っている。 

 

※週刊ポスト2020年3月13日号

●新型コロナ肺炎から身を守る「免疫力」|鼻粘膜が弱い人は要注意

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