薬なしで血圧を下げる「降圧体操」1日1分で数値50mmHg改善も!
暖冬とはいえ、微妙な寒暖差が身に応える季節。寒い日は血管が収縮して血圧が上がりやすく、温度差によるヒートショック(*1)も多発する。そこで実践したいのが、ノーベル生理学・医学賞の発見を応用し、全身に効果が出るようにした「降圧体操」。これで血圧が下がった人も多いとか!
(*1)ヒートショックとは、急激な温度の変化により血圧や脈拍に変化が起こること
血液中に“NO”を発生させれば血圧は下がる
アメリカ・UCLA医学部薬理学科教授のルイス・イグナロ博士らが、一酸化窒素(NO)による血管に与える影響の研究で、ノーベル生理学・医学賞を受賞したのが1998年。
「その後、なぜかこの大発見は、充分に活用されてきませんでした」と語るのは、加藤雅俊さん。「降圧体操」の生みの親だ。加藤さんは薬剤師でありながら、薬に頼らない体質改善を提唱する。
「薬をのんで血圧が下がったとしても、それは根本治療ではありません。が、血液中に“NO”を発生させることができれば、ほとんどの人の血圧は下がり、血圧の上がりにくい体質を目指すことができます」(加藤さん・以下同)
そもそも、NOは窒素と酸素の無機化合物で、有害な大気汚染物質だが、血管を若返らせる重要物質でもある。
NOの主な働きは、【1】血管を柔軟にし、血流をスムーズにする 【2】血小板の凝固を抑制し、血栓を防ぐ 【3】傷ついた血管を修復し、血管が厚くなるのを防ぐ、などだ。
「上のイラストのように筋肉にギュッと力を入れ、血流を悪くしてからパッと力を抜くと、NOは分泌されます」
加藤式降圧体操のやり方
「加藤式降圧体操」により、最高血圧198だった血圧が142まで下がった54才の男性をはじめ、数値が50以上改善した例(*2)も多いという。この体操なら薬に依存しない体質改善も期待できそうだ。具体的なやり方を見てみよう。
(*2)高血圧の基準は下図参照。
ここからは、座ってできる部位別体操を紹介。胸、腹、背中、太ももの筋肉に働きかけ、効率よくNOの分泌量を増やす。椅子に座って1ポーズ10秒、【1】~【4】合計で1日1分という手軽さも魅力だ。
【1】胸 胸の前で合掌して力を入れる
「大胸筋を刺激する胸の体操は心臓にも近いので特におすすめです」(加藤さん・以下同)。
手を胸から30cm程度離した状態で行うと大胸筋に負荷がかかって効果が高まる。血圧を下げる以外にバストアップにも効果大。
「一日の間でできる時に何回やってもOK。やればやるほど効果が上がります」。
【1】椅子に浅く座り、足は軽く開き、胸の高さで手を合わせる。合掌した手のひら同士を力一杯ぎゅーっと押し合い、息を止め、約10秒間キープ。
【2】10秒たったら、フッと一気に力を抜く。緊張と弛緩を大胸筋に与えると、NOの分泌量が増える。
<間違えやすいNGポイント>
「合掌する際、ひじを曲げすぎて、腕を胸に近づけないことがポイントです。胸の近くで行うと腕の筋肉に力が入って、大胸筋に力が伝わらなくなってしまいます」。
大きな筋肉に働きかけるのがNOの分泌量を増やすカギ。大胸筋に効く合掌姿勢を意識しよう。
【2】腹 腹直筋と内外腹斜筋を刺激して腹筋を強くする
腹まわりにはいくつもの筋肉があるが、その中でも腹の正面にあるシックスパックと呼ばれる腹直筋と、脇腹にある内外腹斜筋を刺激する体操。
「腹筋が弱いと感じている人は集中的に行いましょう。下腹のポッコリが気になる人にもおすすめです」
【1】足を肩幅に開いて座り、片方のひざの上に両手を重ねて置く。手の位置は腹から離す。
【2】手をのせた方の足のつま先は床につけたまま、かかとを上げる。この時、足が上がらないよう手で足を押さえ、押し合い、10秒間キープしたら、力を抜く。反対の足も同様に(左右各1回)。
<間違えやすいNGポイント>
かかとを上げる時は、床につま先がついていることが重要。またつま先を上げると足自体に力が入ってしまい、せっかくの刺激が腹の筋肉まで伝わらなくなってしまう。
「ほかの体操も同様ですが、10秒間キープする時はなるべく呼吸を止めましょう」。
【3】背中 背筋をしっかり伸ばせば降圧と老化防止の一石二鳥
老化の始まりは足腰ではなく、背中からといわれている。その背中を刺激するのがこの体操。背中を丸めたまま後ろに倒すことで、全体をしっかり伸ばせる。
「背中の僧帽筋や広背筋などを広範囲に鍛えるのは難しいのですが、この体操なら簡単にできますよ」
【1】足を広げて、肩幅より外側に置き、椅子に浅く座る。太ももの間で両手をクロスさせて、椅子の前部分をつかむ。背中は丸め、顔はおへそを見るような感じでやや下向きに。
【2】背中を丸めたまま、上半身だけを後ろに倒す。椅子のふちをしっかりつかんで、10秒間キープ。
<間違えやすいNGポイント>
上半身を後ろに倒す時は、顔を上げないことが重要。顔を上に向けていると、頭だけが後ろに倒れて、肩だけに力が入ってしまうため、背中をしっかり伸ばすことができない。顔はやや下向きで、背中を丸めたまま上半身を後ろに倒そう。
【4】太もも 大腿四頭筋に負荷をかけて筋肉と血流をアップ
太ももは心臓から遠い位置にあるため、年齢とともに筋肉が衰えてくると血流が悪くなり、血行障害を起こしやすい。
「大腿四頭筋をしっかり鍛えて血管を柔らかくすることで、心臓への負担を減らすことができます」。
【1】足をそろえて椅子に座り、両足を床から少し浮かせてクロスさせる。ひざは少し曲げ、手で椅子をつかむと安定する。
【2】上の足は下方向に、下の足は上方向に力を入れて押し合う。10秒たったら力を抜き、足を組み替えて同様に。
<間違えやすいNGポイント>
上下の足を押し合う時はひざを伸ばさないこと。
「ひざが伸びていると、太ももに力が入らず効果がなくなります。ひざを少し曲げた状態で、太ももにしっかり負荷がかかっているかを意識しながら行いましょう」
続いて、寝てできる表裏体操をご紹介。寝た姿勢から2つのポーズで全身の筋肉を硬直させ、NOの分泌を促す。
「ともに5秒×2セットから始め、少しずつ秒数を延ばしましょう」(加藤さん・以下同)。
【表】仰向け姿勢から両手足、肩、頭を上げてキープ
仰向け姿勢で行う、腹直筋や大腿四頭筋、上腕二頭筋、僧帽筋上を硬直させる体操。
「この体操がきつく感じる場合は、腹筋や足の筋力が落ちている証拠。筋力のバロメーターになります」。
【1】仰向けで寝て、足は腰幅より広く開き、腕は体から少し離して伸ばし、手のひらを上に向けて軽く握る。
【2】頭と両手足を上げ、高さ20cm以下でキープ。
「布団の上は柔らかすぎるので、床や畳の上で行うのがコツです」。
<間違えやすいNGポイント>
足だけ高いと鍛えたい筋肉に効果が出ない。
「両手足と頭の高さを20cm以内でそろえるときつくて効果的。できる範囲で、少しきつい程度がおすすめです」。
【裏】うつ伏せから両手足を上げる。気分はスーパーマン!
うつ伏せから、スーパーマンが空を飛ぶように両手足を上げて静止することで、背面の上腕三頭筋や三角筋、僧帽筋、脊柱起立筋、大臀筋(だいでんきん)、ハムストリング、腓腹筋(ひふくきん)などを硬直させる体操。
【1】床にうつ伏せに寝て、両手は肩幅、両足は腰幅より広く開いて伸ばす。この状態で1回、深呼吸をする。
【2】面の筋肉を使って両手両足を床から上げ、できるだけ高くキープ。
「1分以上できるようになれば、降圧効果とともに筋力がついた証拠です」
<間違えやすいNGポイント>
背面の筋肉を効率よく使うにはひじを曲げないこと。
「背中の筋肉に効かないと、NOの分泌効果も半減するので注意しましょう」。
入浴中にもできる! ウエストをひねるストレッチ
もう1つ、日常生活の中でNOの分泌を増やす方法がある。それが「入浴」だ。
「サウナと水風呂を交互に入る温冷交代浴がNOの分泌にはより効果的ですが、実は、家のお風呂につかるだけでも、お湯が体にほどよい圧をかけ、血流をよくしてNOの分泌を促してくれます」(加藤さん・以下同)
その際、湯温は40℃以下にすることがポイントだ。
「少しぬるめのお湯につかった状態で、左のイラストのようにウエストをひねるストレッチをしましょう。お湯と筋肉による加圧のダブル効果で、より効率的にNOが得られます」
やり方は、浴槽内でひざを立てて座り、上体の力を抜いてウエストをひねり、両手で湯船のふちをつかむ。この姿勢を10秒間キープし、左右3回ずつ行う。
脇腹には表層部に外腹斜筋、深部には内腹斜筋という大きな筋肉があるため、この入浴中のストレッチはNOの発生にも効果的だ。
教えてくれた人
加藤雅俊さん/薬剤師・予防医療家。薬に頼らない健康改善を提唱する異色の薬剤師。JHT日本ホリスティックセラピー協会会長。著書は『1日1分で血圧は下がる!』(講談社)など。血圧相談室も随時開催している。
撮影/疋田千里 イラスト/勝山英幸
※女性セブン2020年2月13日号