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健康

夢の新薬「アデュカヌマブ」ほかあと5年で医療の常識が変わる!がん、糖尿病、認知症など今後の展望

「認知症に備えて自宅をリフォームする」「がん保険に加入する」「老眼予防にブルーベリーを毎日食べる」──私たちは日々、将来の健康不安に怯えたり、持病に悩まされたりしている。だが、現代の医療は恐ろしいほどのスピードで進歩。医療の“未来予想図”を知れば、無用な備えをしなくても済むし、気が楽になることも多いはずだ。

5年後、医療の常識は大きく変わるはず

 医療はあと数年で「完成期」に入り、死をもたらす病気は今後急速に激減すると語るのは、『Die革命』(大和書房)の著者であり、東大医学部附属病院22世紀医療センター准教授などを歴任した医師の奥真也さんだ。

「20年前なら、がんになれば仕事を辞めて“死ぬ準備に入る”人もたくさんいました。しかし、今や医学が多くのがんを克服しました。治療しながら仕事を続け、従来通りの生活を送る時代になりました。発見や治療が難しいタイプのがんはありますが、5年後、10年後には多くの有効な治療法が実用化されます」

 私たちは病気になったら、だいたい病院に行く。期待するのは、薬をのんだり(化学的治療)、手術を受けたりして(外科的治療)、病気を治すことだ。ところが、5年後の医療の常識では、それがガラリと変わっているはずだ。

 通勤途中の山田未来さん(45才)は軽い頭痛を感じた。ピーピーピー。左腕のデジタル時計(ウェアラブル端末)のアラーム音が鳴った。表示は「脳の血管に異常アリ」というもの。すぐに救急車で病院に向かうと、AI診断により、「もう5分遅かったら命はありませんでした。脳梗塞です」と告げられた。梗塞によって脳の一部が壊死し、左半身に痺れが出た。テレビ電話の向こうから米ニューヨークのクリニックにいる主治医はこう微笑んだ。

「心配ありません。iPS細胞と再生医療技術を使って、脳細胞を復活させましょう」

――そんな5年後の将来はまったくの絵空事ではない。遺伝子情報を応用したゲノム医療やiPS細胞などを使った再生医療、ウェアラブル端末を使った健康管理や世界中の名医による遠隔治療、正確なAI診断など、さまざまな医療の技術が“スタンバイ”の状況なのだ。

各病気5年後の展望

◎…現時点で有効な治療法があり、今後も確実に有効な治療法が出てくるとされるもの
○…一定の効果が見込める治療法が承認待ち、もしくは治験段階にあるもの
△…一定の効果が見込める治療法が研究段階にあるもの

以下、[病気名/5年後は?/解説]の順で表示。

【がん】

・乳がん/◎/新型抗がん剤「エンハーツ」がアメリカで承認された。従来より高い確率でがんを狙い撃ちできる。

・胃がん/○/「エンハーツ」の適応を目指す。

・大腸がん/○/「エンハーツ」の適応を目指す。

・肝臓がん/◎/「リキッドバイオブシー」という検査法がアメリカで臨床応用中。ステージIでほぼ100%検出で、早期の治療が可能。

・卵巣がん/◎/「リキッドバイオブシー」という検査法がアメリカで臨床応用中。ステージIでほぼ100%検出で、早期の治療が可能。

・頭頸部がん/○/「光免疫療法」が2018年から日本で治験開始。

【血管系】

・心筋梗塞/○/現在、手術方法やカテーテル治療が確立されつつある。再生医療が応用されるにはまだ時間がかかりそう。

・脳梗塞/○/3年前から日本で幹細胞移植の治験開始。再生医療の応用により、麻痺が治ったという報告も。

・高血圧/△/「腎動脈デナベーション」「高血圧ワクチン」ともに研究はされているものの治験の効果は微妙。

【目】

・老眼/◎/遠近両用眼内レンズの性能は確実に上がる。更なるレンズも研究中。

・白内障/○/レーザー手術が10年以内により一般化する可能性。

・緑内障/○/手術の負担が劇的に軽くなり、失明リスクも減。

・近視/◎/目薬やコンタクトで進行を抑制することが可能。

【アレルギー】

・スギ花粉/◎/薬を口に含んで体を慣らす舌下免疫療法が有効。効果は高いが、普及率は今ひとつ。

・ダニアレルギー/◎/薬を口に含んで体を慣らす舌下免疫療法が有効。効果は高いが、普及率は今ひとつ。

・食物アレルギー/△/食べて体を慣らす経口免疫療法が有効な場合も。リスクが高く今後の改良に期待。

【その他】

・アルツハイマー病/○/新薬「アデュカヌマブ」が承認されたら画期的。

・糖尿病/△/のみ薬、点鼻薬、自動注入の機械など、インスリン摂取方法が多様化。

・腰痛/△/2019年5月から日本で再生医療による治験が開始。

がんの最新事情

血液、唾液、尿などの液体からがんを検査できる「リキッドバイオプシー」

 すでにがん全体の5年生存率は約6割という時代。乳がんの平均生存率はステージIならば、限りなく100%に近い数字だ。残念ながら、ステージが上がるほどその率が落ちるので、どれだけ早期発見ができるかが、がん寛解の分かれ目といえる。

 そんななか期待を集めているのが、血液、唾液、尿などの液体からがんを検査できる「リキッドバイオプシー」だ。

「アメリカではすでに実用化され、1~2年以内くらいには日本でも普及するのではないか」

 と話すのは、医療ガバナンス研究所理事長で、血液・腫瘍内科医の上昌広さん。

「この検査法を使えば、たった2~3ccの血液から、高確率で早期がんを見つけられるようになってきました。血液に含まれるがんの遺伝子情報から、再発の可能性や相性のいい薬など、がんの特性も知ることができるので、治療方針の決定にも役立ちます」

オーダーメードワクチンを投与する「ネオアンチンゲン免疫療法」

 患者ごとに遺伝子情報を調べて“オーダーメード”のワクチンを作って投与する「ネオアンチンゲン免疫療法」には、世界中が注目する。

「がん患者それぞれの遺伝子変異を調べ、変異に合わせたワクチンを打って免疫細胞に攻撃させる治療法です。革命的な方法で、粘膜下の筋層まで到達した進行がんにも効果が期待できます。5年後には実現可能ではないでしょうか」(上さん)

 1月7日、アメリカで新型抗がん剤「エンハーツ」の販売が始まった。日本でもすでに申請されており、今年中の承認を目指すという。

 エンハーツは、従来の薬より高い確率でがんを狙い撃ちできる。臨床試験では、抗がん剤が効かなくなった乳がん患者の9割以上で効果を証明。胃がんや大腸がんなど幅広いがんへの適応を目指すという。

「この薬は、免疫のもとである『抗体』と抗がん剤を組み合わせた『抗体薬物複合体(ADC)』というタイプ。今年中くらいには使われ始めるのではないでしょうか」(医療経済ジャーナリストの室井一辰さん)

がん細胞をピンポイントで破壊する「光免疫療法」

 光を当ててがん細胞を退治する「光免疫療法」は、頭頸部がんを対象にすでに日本でも治験が始まっている。

「光の一種である非熱性赤色光によりがん細胞を破壊し、免疫細胞を活性化させます。がん治療を大きく変える可能性がある画期的なものです。進行中の治験が成功すれば5年後には臨床現場に登場するでしょう」(奥さん)

 特に光免疫療法は、がん細胞をピンポイントで破壊するため、副作用も極小であるとされる。世界中の悲願である「がん撲滅」の急先鋒ともいえる存在だ。

認知症、脳梗塞、心筋梗塞の最新事情

認知症に夢の新薬「アデュカヌマブ」

 今までは「認知症を治す薬は存在しない」が常識だった。進行を遅らせるのが精一杯で、怒りっぽくなるなどの副作用が指摘されてきた。しかし最近、“認知症を治すかもしれない”と注目されている夢の新薬がある。

 新薬「アデュカヌマブ」が、アメリカで承認待ちだ。中村病院神経内科部長の北村伸さんは「『アデュカヌマブ』が承認されたら、アルツハイマー病を防げるようになるかもしれない」と期待を寄せる。

「この新薬は、早期アルツハイマー病のかた向け。増えると認知障害につながる『アミロイドβ』という物質を取り除く効果があります。認知症の原因はアミロイドβだけではありませんが、新薬と従来の薬を組み合わせることで、治療の選択肢が広がっていくのは間違いありません」

脳梗塞に『間葉系幹細胞』を使った再生医療

 脳梗塞の後遺症による麻痺が治る日もそう遠くない。北品川藤クリニック院長で循環器を専門とする石原藤樹さんが解説する。

「10年後には、脳梗塞が治る病気になっているかもしれません。『再生医療』が脳に応用できるかどうかが鍵です。すでに脂肪、骨、軟骨などに分化できる『間葉系幹細胞』を使った再生医療は脚の血管壊死治療で実用化されています。まだ完全に死んでいない脳の神経細胞に注射したところ麻痺が治ったという研究報告もありますし、脳の治験でも一定の効果が出ています。可能性は高いでしょう」

医療機器レベルのウェアラブル端末で、不整脈による突然死は防げるように

 心筋梗塞は、治療法がある程度確立されているという。

「手術やカテーテル治療が一般的です。治癒に近い状態に戻すことができますし、また悪くなれば治療を繰り返すこともできます」(石原さん)

 続けて石原さんは「10年後くらいに医療機器レベルのウェアラブル端末で、不整脈による突然死は防げるでしょう」と指摘する。

 ウェアラブル端末とは、常に身に着けることで脈拍や不整脈など健康状態を把握することができるというもの。スマートウォッチもウェアラブル端末の一種だ。

「いずれ、端末のアラームが鳴るまで病院に行かないという時代がくるかもしれません」(石原さん)

遠近両方眼内レンズの性能が上がる

 年のせいか物が見えにくくなった──老眼が始まっても、もはや心配はない。

「多焦点眼内レンズの性能が上がることは確実です」と、二本松眼科病院の平松類さんが説明する。

「多焦点眼内レンズ」とは、俗に言う遠近両用眼内レンズのこと。老眼矯正や、白内障治療時に使用されている。

「今は固くて特定の所にピントが合う多焦点眼内レンズですが、柔らかくて伸縮性のある人間の水晶体に近いレンズも研究中です。また、白内障のレーザー手術の技術は人工知能(AI)の導入によって発達するでしょう。今は一部の人ですが、10年以内により多くの人が利用できる状況になる可能性があります」

緑内障治療に期待大の低侵襲緑内障手術(MIGS)

 失明原因第1位の緑内障に関しては、手術が日帰りで可能になったという。

「『低侵襲緑内障手術(MIGS)』が開発されました。特別な機器を使うことにより、ダメージが格段に少ない。失明リスクも減少しました。すでに、より眼圧を下げるMIGSの機械がアメリカで開発済みで、5年以内には日本でも使えるようになる予定です」(平松さん)

 さらに、緑内障の診断に必要な眼圧を血圧のように自宅で測れる日も近いと話す。

「24時間つけたままで眼圧を測れるコンタクトレンズは日本でも治験が行われています。眼圧は血圧と同じく、測る時間によって変わるので、記録できると緑内障の早期発見につながります。10年以内に実用化されるでしょう」(平松さん)

スギ花粉アレルギーに「舌下免疫療法」

“始まる”と途端につらくなる──毎年スギ花粉に悩まされている人に、朗報だ。効果的な治療法があるという。

「薬を舌の下に投与する『舌下免疫療法』が有効です。体を慣らしていく免疫療法です。症状のない時期も含めて数年単位での継続が必要です」(秋葉原駅クリニック、内科医・日本アレルギー学会専門医の佐々木欧さん)

 この「舌下免疫療法」はダニアレルギー(ハウスダストの一部)にも有効だという。

「食物アレルギーに対しては『経口免疫療法』があり、こちらは食べて慣らす方法です。ただし副作用のリスクも大きく、まだ研究段階です」(佐々木さん)

高血圧、糖尿病の最新事情

 高血圧になったら薬をのみ続けなければいけないのか――そんな心配をする日も、いずれこなくなるかもしれない。東京都健康長寿医療センター、循環器内科の石川讓治さんが解説する。

「将来的に、薬の量を減らせる可能性があります。血圧をコントロールする腎臓の自律神経をカテーテル手術によって焼く『腎動脈デナベーション』が研究され、日本でも治験が行われています」

 さらに「高血圧ワクチン」も海外で治験が進んでいる。

「高血圧になる少し前の血圧状態でワクチンを使うと、血圧を上昇させるホルモン『アンジオテンシン』が抑制され、一定期間血圧を低い状態に保てる可能性があります。塩分摂取量を控えれば少し塩辛いだけで体が辛く感じるようになるのと同じ仕組みで、体が低血圧の状態を覚えていくのです」(石川さん)

「糖尿病といえばインスリン注射」。そのイメージが、5年後には覆る。自治医科大学附属さいたま医療センターの原一雄さんが言う。 「1型糖尿病に関しては、iPS細胞ですい臓のβ細胞を人工的に作ろうというプロジェクトが進行中で、2型糖尿病には今年から来年にかけて、自分のすい臓からインスリンを分泌させる『GLP-1受容体作動薬』ののみ薬タイプが発売されます」

 アメリカでは自動的にインスリンを体に注入する「クローズドループ」という機器がすでに販売されている。

「インスリンのポンプに人工知能を組み合わせたスマホサイズの機器です。血糖値に合わせた量のインスリンを自動的に注入する仕組み。日本でも5年以内には導入されるのではと期待しています」(原さん)

 医療ジャーナリストの鳥集(とりだまり)徹さんが言う。

「20年ほど前は大腸がんに抗がん剤はあまり効きませんでしたが、今は延命が期待できるようになりました。一歩一歩ですが、医療は確実に進歩しています」

 5年、10年、その先も──すべての病気が「治る」ようになる未来を期待したい。

※女性セブン2020年2月6日号

●早期発見できれば、糖尿病は卒業できる!最新治療事情

●7年のがん闘病を看取った妻、夫の息が止まった時に シリーズ「大切な家族との日々」

●「老眼」完全克服!最新治療情報と自分でできる回復ストレッチ&予防法

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