毒蝮流高齢者との付き合い方「磨きをかけた相づちでマンネリを追求」【連載 第5回】
「マンネリはホメ言葉」だと毒蝮三太夫さんは言う。スタートして50年を超えたラジオの生中継番組(『毒蝮三太夫のミュージックプレゼント』TBSラジオ)では、今週も「ジジイ、ババア」と愛ある毒舌が炸裂し、会場に集まった高齢者が大喜びしている。「偉大なるマンネリ」と胸を張る毒蝮さんの考えを通じて、高齢者と楽しくコミュニケーションを取るコツを探ってみよう。(聞き手・石原壮一郎)
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時代に合わせて「変わらない味」を守る
TBSラジオでやっている生中継の『毒蝮三太夫のミュージックプレゼント』が、とうとう51年目に入っちゃったよ。始まったときは、こんなに長く続くとは誰も思ってなかった。当たり前だ。最初に「50年やるぞ」って言ったって、本気にするヤツはいないよな。
俺の年齢は30代から80代になったけど、マイク1本で集まった人の輪に入っていくという中継のスタイルは、ぜんぜん変わってない。言ってみればマンネリですよ。偉大なるマンネリ。俺はマンネリっていう言葉には、いいイメージを持っている。
千代の富士が左上手(ひだりうわて)を取ったら絶対に負けない。これは型だよね。毒蝮がマイクを持ってジジイやババアの前に出たら、絶対に面白く盛り上がる。これも型だ。
ただ、まったく同じことを繰り返しているわけじゃない。そのときの相手や状況によって、型を守りながらも少しずつ変えていくから、何度やってもうまくいくわけだ。
老舗の味も同じだよね。羊羹で有名なあの名店だって、時代に合わせて少しずつ味を変えているはずだ。でも、お客さんだって味の感じ方が変わっているから、常に「やっぱりこの店はうまいなあ」と感じるんだよ。だから、ちょっと油断して慣れたやり方を続けちゃうと、「味が落ちた」ってことになる。
俺だって油断したら、近ごろ面白くないだの歯切れが悪くなっただのって、すぐ言われちゃうよ。時代に合わせて少しずつ変えているから、みなさんに「変わらない味だね」と喜んでもらって、50年続いてきた。だから俺はマンネリであることに誇りを持ってる。
師走に入るとあちこちでベートーベンの「第九」(編集部註:「交響曲第9番」)が演奏されるけど、あれだってマンネリもいいとこだよ。だけど、みんなコーラスのところになると何度聞いても感動する。俺も大工のせがれだから、「第九」に負けずにマンネリに磨きをかねなきゃな(笑い)。
年寄りのマンネリな話に応じるコツ
年寄りの話っていうのも、まあたいていはマンネリだ。同じ話を何度もして来るし、興味の幅がいまさら広がるわけでもない。しかも、本人は自覚がないから、「話す度に芸に磨きがかかる」ってこともないしね。だけど、聞いてる側の息子や娘が、「その話、もう何度も聞いたよ!」と会話をシャットアウトするのはよくない。だんだん話さなくなっちゃうよ。
同じ話を始めたときは、マンネリを楽しむスタンスで聞くといいんじゃないかな。志ん生の落語を聞いてるときに「また同じ話か」とは思わないだろ。相づちを打つこっちだってマンネリになるわけだけど、そこはどんどん磨きをかけてほしい。「それは大変だったねー」にどれだけ心を込められるか、とかね。
おざなりな相づちでお茶を濁すのは、悪いマンネリだ。相づちに磨きをかけていいマンネリを追求すれば、同じ話を聞く自分も張り合いが出るし、話している年寄りだっていい気持ちになれる。悪いマンネリを繰り返しちゃうのは、お互いにとって不幸だよ。
「俺の番組はラグビーボール。思いがけない方向に転がる」
今年はラグビーがずいぶん盛り上がったけど、昔から俺は自分の番組はラグビーボールだと思ってる。話を振った相手の反応によって、思いがけない方向にどんどん転がっていく。俺も楽しいし、聞いてるほうだってそれが面白いんじゃないかな。
年寄りとの会話って、そういうところがある。野球のキャッチボールみたいにはならないかもしれないけど、ボールがヘンなほうに転がっていくのを面白がればいいんだよ。いろんな話題を“試し”に振ってみて、見事に食いついてくれたら、それは「トライが決まった」ってことだな。ハハハ。
今回の極意
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からTBSラジオの「ミュージックプレゼント」でパーソナリティを務めている。83歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
撮影/政川慎治