死を招く誤嚥性肺炎を防ぐ のみ込む力を鍛えるトレーニング法
肺炎で亡くなる高齢者の約7割が患っているという誤嚥(ごえん)性肺炎。そもそも誤嚥とは、食べ物や液体が、本来流れ込むはずの食道ではなく、気管内に侵入することをいう。
肺の中に異物が入っても、元気な人なら咳込んで外に出すことができるので問題ないが、高齢者や、体力や免疫力が落ちている人は、食べ物や唾液が肺に侵入し、細菌が繁殖して炎症を起こし、肺炎になってしまう。
さらに高齢者の場合、ムセたり、咳込むことのない誤嚥も多く、風邪のような症状が長く続き、知らず知らずのうちに誤嚥性肺炎を発症している人も多いという。中村勘三郎さんに至っては、食道がんを告知され、手術は成功したものの、嘔吐による誤嚥で大量の胆汁が逆流して肺に入ってしまい、誤嚥性肺炎が原因で回復は叶わなかった。
2014年に亡くなった周富徳さん(享年71)は、肺炎で入院し、病院でお粥を摂っていた際にムセているので再度診察したところ、実は誤嚥性肺炎だったという。「肺炎は老人の悪友」といわれるほど、実に身近に潜んでいる病気で、治療が遅れるほど回復が難しく、死に至るケースも少なくないのだ。
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のどの衰えは40代から始まる
約1万人の嚥下障害の患者を治療し、発売3週間で約20万部を記録している話題のベストセラー『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』(飛鳥新社)の著者であり、耳鼻咽喉科専門医の西山耕一郎さんは、「自覚症状はほとんどありませんが、のどの衰えは40代頃から始まっています。でも、のみ込む力を鍛えれば、寿命を数年~10年延ばすことができますよ」と語る。
食事中にムセる、自分の唾液を誤ってのんで咳込む、錠剤がのみにくくなる、痰が絡まりやすくなるなどは、のみ込む力が低下してきたサインでもある。
「つばをごっくんとのみ込んだ時に動く、のどの筋肉がありますよね。まさにその、のど仏を引っ張り上げている喉頭挙上筋群と呼ばれる筋肉が加齢とともに衰えて、40代頃からのど仏の位置が徐々に下がってくるんです。のど仏の位置が下がると、食べ物をのみ込んだ時に気管を閉鎖する機能が悪くなり、誤嚥が起きやすくなってしまいます」(西山さん)
つまり、加齢とともに下がるのど仏を維持するために、のどの筋肉を鍛えることが長生きの秘訣になるというのだ。
西山さんのクリニックを訪れた80代の女性は、初めて来院した時は、体重が1年で10kgも減り、衰弱してしまって余命わずかという状態だったが、のみ込む力をつけるトレーニングを行ったところ、1か月後には体重が戻り始め、90代まで元気に生きられたという。
この女性だけではない。70代、80代からトレーニングを始めた人でも、みな数年は寿命が延びていたという。
毎日5分でのみ込む力がアップ!
西山さんが提案するのみ込む力を鍛えるトレーニングは、大きく分けて、
【1】のどの筋トレ
【2】呼吸トレ
【3】発声トレ
の3つ。
【1】のどの筋トレは、『ごっくんトレーニング』と『シャキア・トレーニング』の2つで、どちらかできる方をひとつ選んで行う。これはのどの筋肉を刺激する基礎運動で、のみ込む力を総合的にアップさせる。