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暮らし

《感性は老いない、経験はかさばらない》ANA初の「65歳定年まで飛び続けた客室乗務員」語る“1人旅のススメ”「知らない世界を見に行くのに遅すぎることはない」

 年を重ねていくと若い頃のような気持ちで、新しいことに挑みにくくなっている――。そんな人も少なくないはずだ。ANAで初めて65歳定年まで飛び続けた客室乗務員、大宅邦子さん。60歳を過ぎて自由な時間ができたとき、「今こそ、1人旅だ」と決意した。

 ベルギーへ、ふらりと気ままに。そこには、年を重ねるほど身軽になるための、ある考え方があった。『選んだ道が一番いい道』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成してお届けする。

感性は老いない、経験はかさばらない

「心惹かれる場所があった時には、行ってみたほうがよい。先延ばしにしていると何かが失われる。明日になったら、1日だけ年を取る。それだけ、自分という1つの生命の鮮度が失われる。相手にすっかり慣れ親しんでしまってから改めて出会っても、恋に陥ることなどできない」

 茂木健一郎さんの『熱帯の夢』(集英社)にあるこの文章を読んだとき、心打たれました。茂木さんが子どもの頃から大好きだった昆虫と熱帯雨林の自然を知ろうとコスタリカへ旅した紀行本ですが、「ああ、そのとおりだ」と、思わず深くうなずきました。

 仕事柄、世界のあちこちに旅をしてきましたが、あくまでも仕事であり、純然たる旅とは違います。

 休暇をとって出かけた旅も、友人との旅はダイビングなどの目的がありましたし、母を連れていくとなるとツアーやクルーズ船という高齢者にやさしい旅になります。それはそれで楽しいものの、心ひかれるままの旅とは、おもむきが異なります。

 60歳を過ぎて勤務体制が変わり、自由な時間ができたとき、「今こそ、1人旅だ」と、私は決意しました。

 仕事を始めて6年ほどたったとき、森本哲郎さんの『異郷からの手紙──私たちとは何か』(ダイヤモンド社)を読んだことが刺激となってエジプトに行ったことがあります。

 まだ手元にありますが、1976年発行の、もうページが変色してしまった本。どんな内容だったか記憶もおぼろげになっていたので改めて読んでみると、そこには古代ギリシアの歴史家ヘロドトスのこんな意味の言葉が紹介されていました。

「自分たちは見てもいないのに、もうなんでも知っているように思っている」

 ヘロドトスはアテナイ、クリミア、エジプト、バビロニアなど、生涯旅をしながら探究を続け、『歴史』という本をまとめた人です。

 森本さんはまた「若者は、裸の目と真っ白なスケッチブックをたずさえて旅に出るべきだ」という趣旨のことを書いていて、若い私はその言葉に素直に従ったのでした。

 60歳を超えた久しぶりの自由な旅では、行ったことがないところを見ようと、ベルギーを訪ねました。ドイツのフランクフルトで飛行機を乗り継いで、ブリュッセルに入りました。ふらりと気ままな旅です。

 1人旅は何もかもが自由。町を歩いてふと立ちどまったり、「あそこをもうちょっと見てみよう」と引き返したり、誰に遠慮することもない自由が心地よく思えました。

 旅の楽しみは観光、アクティビティ、食などいろいろありますが、感性を刺激する旅もいいものです。

 私は美術館が好きで各国で足を運んでいましたが、あるとき、「中世の絵画がよくわからない」と気がつきました。名画や、自分の好む印象画についてはある程度の知識があったのですが、キリスト教の知識がないと絵が意味するところもわからない中世の宗教画は、なんとなく敬遠していました。

 40歳のとき、「知らないなら勉強しよう」と思い立ち、放送大学で3年ほど勉強し、絵画の見方がわかるようになると、これまでと違う目で深く絵を楽しめるようになりました。

 絵の構図が聖書の話を表していたり、描かれた持ち物でその人の役割がわかったり、知識が加わると1つの絵から物語が浮かび上がってきます。

 知らないことを知ると楽しい。楽しいからもっと知りたくなる。

 そのくり返しで、自分の中の知識が深まり、感性の扉が開くような気がします。若い感性はたしかに独特ですばらしいものです。それでも好奇心がある限り、いくつになっても感性は古びないでいられるのではないでしょうか。

 私は旅先であまり買い物をしませんが、そこで感じたもの、学び取ったものが、最高のお土産。何より旅で得た経験は、モノと違ってかさばることがありません。

 人生の旅も、これに似ていると思います。

 経験を重ねれば重ねるほど、旅の荷物は少なめでいい。

 身軽であれば好奇心の赴くまま、風に吹かれるように飛びたてます。

 軽やかに、そしていつも整った自分でいれば、何に対しても慣れることなく、新鮮な明日が迎えられます。

 いつ風が吹いても飛びたてるよう、年を重ねるごとに、軽やかな自分になりたいものです。

 好奇心の翼をはばたかせ知らない世界を見に行くのに遅すぎることはありません。

教えてくれた人

大宅邦子さん

1953年生まれ。ANA初の「65歳定年まで飛び続けた客室乗務員」。1974年に入社後、国際線立ち上げのプロジェクトチームに参加。ANAの成長とともに、おもに国際線ファーストクラスで空の上のおもてなしを提供。滞空時間は3万時間超。ていねいに、手を抜かず、「いつでも指差し確認」の初心を忘れない姿勢で45年間のCA生活を続けてきた。食事や体調管理などの身の回りの整え方、「ほしいものより必要なものを買う」というものとのつきあい方、幼児から年長者まで同じように接する人とのつきあい方など、仕事を超えた清潔な生き方そのものが、ANAの伝説として8000人の後輩CAに慕われている。趣味は美術館めぐり、ジムでのエクササイズ、スキューバダイビング、アイロンがけ。ドローンの国家資格も取り、今度は「操縦」側の空も楽しんでいる。

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