「年金受給は何才からがいいのか」「終活はすべきか」専門家が指南する老後のお金の選択術
人生は選択の連続だ。若いうちは多少の失敗も人生の糧(かて)となりえるが、老後は選択を間違えると大きな痛手になることも。そうならないよう、専門家たちに選択を迷いがちな老後のお金に関する問題について聞き、“白黒”つけてもらった。ぜひ、参考にしてほしい。
教えてくれた人
風呂内亜矢さん/ファイナンシャルプランナー。実践しやすいお金の情報を精力的に発信。お金に関する書籍は約30冊。46才。
横手彰太さん/家族信託コンサルタント。家族信託・民事信託の専門サイトを運営し、累計300人以上の信託を締結。53才。
菅井敏之さん/お金の専門家。大手銀行勤務を経て不動産オーナーに。その経験から講演なども行う。65才。
たっつんさん/介護福祉士。介護士歴20年。高齢者施設などでのエピソードをSNSや著書などで発信。49才。
「いきいき老後」or「がっくり老後」。明暗を分ける<金銭面での選択10>
人生を最後まで豊かに楽しく過ごすために間違ってはいけない選択がある。老人ホームから年金、投資まで4人の専門家が直言する。
※各テーマは、個人や世帯状況といった条件で選択肢は変わる。本企画で明記した“答え”は各専門家が「自身の立場だったらどうするか」という前提で回答している。
【Q1】年金受給は何才から?
<A1>「68才からの繰り下げ受給」がおすすめ
公的年金の受給は「65才」を原則に、60~64才に繰り上げたり、66~75才0か月に繰り下げたりできる。繰り上げると受給額は減るが、繰り下げると、1年ごとに8.4%ずつ増額されるため、ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さん、家族信託コンサルタントの横手彰太さん、お金の専門家の菅井敏之さんは「繰り下げ」を選択。
「70才から受給した場合、81才が損益分岐点となり、それ以上長生きしないと元が取れません。80才以上生きるとなるとハードルが高いので、79才が損益分岐点になる68才から受給し、その年齢まで働くのがいいと思います」(菅井さん)
【Q2】老人ホームに入る?
<A2>ギリギリまで自宅で過ごす
風呂内さん、菅井さんともに、「ギリギリまで自宅で過ごす」と回答。
「自力で生活できる限りは、支出を抑えるためにも自宅で過ごします。ひとり暮らしでも、自治体や民間のサービスを活用すれば不安は軽減されるでしょう。介護が必要になったら持ち家を売却するか賃貸に出し、施設に入居します」(風呂内さん)
[こんな意見も]自宅暮らしは健康面以外のリスクも
「自宅にいると詐欺被害に遭う可能性が。施設ではそうしたリスクも回避できて結果的には金銭面の損失が少ないことも」(横手さん)
【Q3】都会暮らしか、移住か
<A3>交通の便がいい都会で暮らす
「田舎の方が住居費は安いですが、車が必須。できれば都心の便利な場所に住み、歩いて電車に乗って買い物や医療機関に行く生活の方が、安全面でもプラスになると思います。車の運転に不安を感じることもあるかと思うので」(風呂内さん)
「地域によっては雪下ろしなどのコストもかかりますし、都会の方が総合的なコスパがいい。その土地になじめない可能性も。どうしても移住したいなら、妻の田舎(実家の近く)に帰るのも一案。妻が安心して生活でき、夫はそこから働きに行けばいい。都会に家を残し、帰る場所を残すことも大切」(菅井さん)
【Q4】持ち家か、賃貸か
<A4>家賃の不安がない持ち家
風呂内さん、菅井さんは「持ち家」をすすめる。
「持ち家なら、ローンを完済すれば維持費や修繕費だけとなり、住居費の見通しが立てやすいですが、賃貸だと一生家賃の不安がつきまといます。持ち家がないなら、定年前に無理のない範囲で物件を購入しておくのも手」(風呂内さん)。賃貸物件の場合、60代を過ぎると家主が新規入居を渋るケースが増える点も留意したい。
■こんな意見も「いつでも住まいを移れる準備を」
「老後は施設に移ったりと、その時々で必要な家に住むことになりがち。いつでも移れるように準備しておくことが大切」(横手さん)
【Q5】保険は解約?
<A5>生命保険は解約、医療保険は継続
■生命保険の場合
「死後に残すお金は、葬儀代(30万〜150万円程度)だけで充分。子供が成人している家庭ならなおさら不要。すでにその分の預貯金があるなら解約しやすいでしょう」(風呂内さん)
■医療保険の場合
「高額療養費制度があるので本来は不要。貯金で賄った方が安いケースも。ただ、貯金がなく高額療養費制度の自己負担限度額が払えない人は入っていた方がいいでしょう。私の場合、保険適用外の先端医療が受けられるという安心感を得るために、がん保険に入っています」(菅井さん)
【Q6】熟年離婚する?
<A6>しない
「公的年金は2人分を合わせた方がやりくりしやすい。会社員だった夫が月15万円程度、専業主婦だった妻が月5万円程度の年金をもらう場合、2人で20万円。熟年離婚で年金分割しても女性は1人10万円弱になることも多く厳しいです」(風呂内さん)
「DVやモラハラで悩んでいたら別ですが、夫は妻にとってのリスクヘッジになります。女性の方が寿命が長いので、元気なうちは夫婦で働き、夫の収入だけで生活。妻の収入は貯金して自分だけの老後に備えます。2人で家にいるのが嫌なら、曜日と時間をずらして働けば、家で顔を合わせる時間も減らせます」(菅井さん)
【Q7】定年後も投資する?
<A7>貯蓄でOK
「定年後、銀行などにすすめられて投資商品を購入し、大損するケースが多いです。もし投資するなら、6か月分の生活費にあたる預金を残したうえで、5年以内に使うリフォーム資金や車の購入資金などは『個人向け国債』や『定期預金』で、長期資金はNISA制度を活用したコストの安い『日本株オープン』などのインデックスファンドで運用したらいいのでは」(菅井さん)
■こんな意見も「資金があるならNISAを!」
「私はiDeCoとNISAで運用していますが、60才からはiDeCoを止めて公的年金の代わりに受給し、生活資金にする予定」(風呂内さん)
【Q8】運転免許証は返納する?
<A8>75才で返納
「75才以上は高齢者講習などの費用を合わせて普通自動車対応免許の更新手続きに1万円程度かかります。車の維持費もかかり、年間(52週)70万円と仮定すると、1週間に1万3000円ほどタクシー代を使える計算に。金銭面で考えると返納に賛成」(風呂内さん)。菅井さんは体の機能がガクっと落ちる75才を目処に、それまで元気に運転できるよう鍛えるのも手だという。
■こんな意見も「認知症の症状が出るまで」
「私の父(85才)は運転が脳活になっています。運転免許証を持つことで人生が豊かになるなら、認知症が発症するまで返納しなくていいと思います」(横手さん)
【Q9】子供と同居する?
<A9>しない
「自治体によっては、多世代の同居や近居に補助金が出るケースもありますが、同居によるストレスを考えると、デメリットの方が大きいと思います」(風呂内さん)
「持ち家がないなら同居した方が金銭的にはいいですが、ストレスがかかることが難点。ストレスがたまると支出が増えますし、同居を解消して住み替えをする場合、またお金がかかります」(横手さん)
■こんな意見も「誰と住むかよりどこに住むか」
「誰と住むかより最後まで住み慣れた自宅で暮らすことの方が大切」(たっつんさん)
【Q10】終活はする?
<A10>延命治療について書き残して
「身の回りの物を減らしたり、お金関連の情報をまとめたり、といったことは本人が死んだ後でもどうにかなります。それよりも大切なのは『延命治療をするか』の意思表示をし、周りと共有しておくこと。そうでないと、つらい胃ろう(※)などに長年耐えることになります」(菅井さん)
金銭面では、ネットバンクなど、デジタル遺品になりそうなものは共有を。
■こんな意見も「人となりがわかるメモを残して」
「介護福祉士の立場で言うと、どんな生活を送ってきたかわかると、その人に寄り添った介護対応ができます。メモでいいので残してほしい」(たっつんさん)
(※)経口摂取が困難な患者に対し、腹部に開けた穴からチューブを通して胃に直接栄養剤などを注入する医療処置。
取材・文/桜田容子 写真/Getty Images
※女性セブン2025年10月9日号
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●60才を過ぎたら“やめるべき”保険と5つの見直しポイント【FP解説】