《義務化知ってる?》「相続登記」を3年以内にしないと「10万円以下の過料」 財産も負債も引き継がない「相続放棄」の注意点も
親が亡くなった後に必ず対応しなければならないことの1つである「相続」。とくに、不動産の相続がある場合は、定められた期間内に「相続登記」を行わなければペナルティが発生する。そこで、節約アドバイザー・ファイナンシャルプランナーの丸山晴美さんに、不動産の相続で行わなければならない「相続登記」や、相続自体にデメリットが大きい「負動産」であった場合に行いたい「相続放棄」について詳しく教えてもらった。
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教えてくれた人
丸山晴美さん/節約アドバイザー。ファイナンシャルプランナー
22歳で節約に目覚め、1年間で200万円を貯めた経験がメディアに取り上げられ、その後コンビニの店長などを経て、2001年に節約アドバイザーとして独立。ファイナンシャルプランナー(AFP)、消費生活アドバイザー、宅地建物主任士(登録)、認定心理士などの様々な資格を持ち、ライフプランを見据えたお金の管理運用のアドバイスなどをテレビやラジオ、雑誌、講演などで行っている。
不動産を相続する場合の「相続登記」
相続登記とは、土地や建物といった不動産の所有者が亡くなった際、不動産の名義を相続人に移転する手続きのことです。所有者不明の土地が発生することを防止するため、相続を知った日から3年以内に手続きを行うことが2024年4月1日から義務付けされています。
相続登記を行わなかった場合はペナルティが発生
正当な理由なく期間内に相続登記を行わなかった場合は10万円以下の過料が発生する可能性があるため、相続が発生したら早めに手続きをするようにしましょう。ただし、資料収集や相続人の確定に時間がかかっていたり、遺産分割協議が終わっていなかったりという事情がある場合は、相続登記の期限までに「相続人申告登記」の申し出をすることで、遺産分割協議の完了まで期限を延ばすことが可能です。
相続登記を怠った場合、ペナルティ以外のデメリットも
10万円以下の過料に処される可能性があり、また相続した不動産は原則として相続登記をしないと売却できないといったデメリットもあります。
不動産は相続開始日の翌日から3年10か月以内に売却すると、譲渡所得が軽減される「相続税の取得費加算の特例」が受けられます。他にも一定の耐震基準を満たしているなどの要件にあてはまり、相続開始日から3年を経過した年の12月31日までに売却すると、「空き家に係る譲渡所得の3000万円特別控除」の特例が適用でき、相続した空き家を売却したときの譲渡所得が3000万円以下(相続人が3人以上の場合は2000万円以下)の場合、譲渡所得税がかからないメリットがあります。(なお、この特例を利用するときは、確定申告を行う必要がある点に注意が必要です)
このように、相続登記を放置していると、いざ売却をしようとした際、特例や控除が適用できる期間内に売却が完了できないということも考えられますので、わからないときは司法書士に相談するとよいでしょう。
親が亡くなった後など、相続が発生した際は他にもやることが多く、面倒なことは後回しにしがちですが、手続きすること自体を忘れてしまったり、手続きに時間がかかったりすることも考えられるため、相続周りの対応はなるべく早く行うようにしましょう。
相続したくない場合は「相続放棄」という手も
一方で、相続する不動産を自分は使わない、不便な場所にあって活用方法や借り手、買い手が見つかりそうになく、土地建物の管理や固定資産税がかかるなど、所有すること自体に負担が大きい、いわゆる「負動産」である場合があります。そうした場合に検討したいのが「相続放棄」です。
すべての相続権を放棄できる相続放棄
相続放棄とは、すべての相続権を放棄し、亡くなった人のプラスの財産(現金、不動産など)やマイナスの財産(借金、ローンなど)を一切引き継がないことです。
相続はプラスの財産だけでなく、借金などの負債や連帯保証人などリスクのある権利・義務などもすべて対象です。しかし、マイナスの財産のほうが多い場合には、相続放棄でどちらも引き継がないという選択ができます。
一部を相続する限定承認とは
プラスの財産の範囲内で、マイナスの財産(借金など)を返済し、それ以上の負債を相続人が負担しないことを限定承認と言いますが、手続きが複雑なため利用する場合は、弁護士、司法書士、税理士などの専門家などに相談することをおすすめします。
相続放棄をしても一部、受け取れる財産もある
相続放棄をすると、基本的にはすべての遺産を放棄することになります。ただし、遺族年金や被相続人が支払っていて受取人が自分になっている生命保険の死亡保険金、遺族が受け取る死亡退職金など、受取人固有の財産という位置づけのものについては、相続放棄をしても受け取ることができます。相続放棄をする可能性がある場合は、相続放棄をしても受け取れる財産があるかどうかを含めてしっかりと財産調査を行いましょう。
相続放棄の申請期限は3か月
相続放棄をする場合も、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申請する必要があります。相続する財産や相続人の調査などに時間がかかり、3か月以内に相続放棄の申請をするのが難しい場合は、家庭裁判所に相続放棄の期間を伸ばす申し立ても行えますが、何もせず3か月が過ぎてしまうと相続放棄ができないため注意しましょう。また、相続放棄は一度しかできず、原則として撤回することはできません。他にも、相続放棄をする前に相続財産を処分すると、相続を承認したとみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。
相続放棄をする場合は必ず他の相続人にも伝えること
相続放棄をする場合は必ず、他の法定相続人にも伝えておきましょう。相続放棄をした場合は、次順位の人に相続権や相続放棄の選択権が移ることになります。自分が引き継ぐ分になっていた負債が他の相続人に相続されることになるなど、迷惑がかかる可能性があるためです。
なお、相続人の全員が相続放棄し、相続財産を管理する人がいない場合は、家庭裁判所に申し立てをすることで、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。