2000万円では足りない? FPが解説する老後資金「自分に必要なお金を把握するのが必須」「資産運用するなら債券」
お金や介護など、悩みの尽きない老後問題。安心した老後を迎えるために大切なのは、余計な出費を減らすために健康寿命を延ばすことや資産が尽きないよう資産寿命を延ばすこと、そしていざというときのための制度を知っておくことだ。老後のためにどんなことをするべきか、節約アドバイザー・ファイナンシャルプランナーの丸山晴美さんに教えてもらった。
◆教えてくれた人
丸山晴美さん/節約アドバイザー。ファイナンシャルプランナー
22歳で節約に目覚め、1年間で200万円を貯めた経験がメディアに取り上げられ、その後コンビニの店長などを経て、2001年に節約アドバイザーとして独立。ファイナンシャルプランナー(AFP)、消費生活アドバイザー、宅地建物主任士(登録)、認定心理士などの様々な資格を持ち、ライフプランを見据えたお金の管理運用のアドバイスなどをテレビやラジオ、雑誌、講演などで行っている。https://www.maruyama-harumi.com/
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老後に必要なお金は人それぞれ異なる
2019年には「老後に2000万円不足する」という老後2000万円問題が話題となりました。この試算は、夫65歳以上、妻60歳以上の無職夫婦世帯が平均寿命まで生きた場合を想定しており、収入から支出を引いて、老後約30年間で2000万円が不足するというものです。2019年と比べて物価なども上昇しており、今や不足する金額は4000~5000万円とも言われます。
もちろんこれはすべての人に共通する金額ではなく、夫婦か単身者か、加入している公的年金の種類や持ち家で住宅ローンが完済されているかなどさまざまな状況によっても、必要となる老後資金は異なるためあくまでも目安です。
例えば、夫婦共働き世帯でどちらも厚生年金に加入していた場合と、国民年金のみの自営業者とでは、支給される年金額にも違いがあり、備えるべき老後資金は変わります。
まずはもらえる年金額をチェック
必要なのは、世間一般で言われている金額を貯めることではなく、自分に必要な資産を準備しておくことです。そのためにはまず、自分がいくら年金をもらえるのかをきちんと知っておく必要があります。
既に年金受給者の場合は、2か月ごとの年金額をチェックしましょう。まだ受給していない場合は、「ねんきん定期便」を確認すれば、50歳以上(59歳以外)の人は老齢年金の種類と見込額がわかります。
年金で無理なく暮らせるよう毎月の生活費をコンパクトにする
おおよその年金額が分かったら、その金額で生活するために、出費をできるだけコンパクトに収めましょう。毎月の支出額を把握できていない場合は、1か月だけでも家計簿を付けると、お金の流れを可視化でき、毎月どんなことにお金を使っているのかを把握できます。
支出の内容をしっかりとチェックし、無駄なお金を使っていないか、減らせる固定費がないか確認しましょう。
支出を抑えるために健康寿命を延ばす
また、健康に生きられる「健康寿命」を延ばすことも大切です。いくら節約をしていても、病気やけがなどをしてしまうと医療費や介護費がかさみ、家計の負担が増えてしまうためです。日ごろから嗜好品を控え、自炊を中心としたバランスのよい食事や、軽い運動などを心掛けて、健康の維持に努めましょう。
資産寿命を延ばし、資産が尽きないようにする
老後を考えるうえでは、支出を抑えるのと同時に、資産寿命を延ばしていくことも重要です。資産寿命とは、老後の生活を営む上で、これまで形成してきた資産が尽きるまでの期間のことです。定年を迎えても健康に働けそうなのであれば、可能な限り働いて収入を得て、資産自体を増やしておくのがおすすめです。
また、自分で働いてお金を稼ぐのと同時に、お金にも働いてもらう意識を持ちましょう。お金に働いてもらうというのは、資産運用をして、利息や配当などでさらにお金を増やしていくことを指します。
資産運用と聞くと、株式投資を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、シニアの資産運用は資産を大きく減らさないことが大切なため、株式投資などハイリスクなものではなく、債券のように利子が受け取れ、期日にあらかじめ約束された金額が受け取れるローリスクな運用がおすすめです。
老後に向けた資産形成ならiDeCoやNISAが選択肢
老後に向けた資産形成をする場合、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)といった制度の利用が候補になります。
iDeCoは国民年金や厚生年金などの公的年金に上乗せされる私的年金制度で、掛け金の全額が所得控除になり、運用時に出た利益に対する税金が非課税となります。さらに、iDeCoで形成した資産の受取時には公的年金等控除または退職所得控除の対象となるため、税制面での優遇が大きいことがメリットです。ただし、原則60歳まで引き出すことができない点には注意しましょう。
一方、NISAの場合は、NISA口座で投資をして得られた利益に対する税金が非課税となります。つみたて投資枠と成長投資枠の2つの枠があり、年間の投資枠は合計最大360万円で、総枠が1800万円です。iDeCoと異なり、いつでも引き出すことができる柔軟性の高さがメリットです。
資産運用の基本は長期・積立・分散投資
iDeCoを利用する場合も、NISAを利用する場合も、資産運用の基本は長期・積立・分散投資です。少しでも早く資産形成を始め、リスクが分散された投資信託などで積立投資をしつつ、老後は徐々に株式割合を減らして、債券割合を増やすなどのバランスの見直しをするといいでしょう。いずれにしても、ご自身に合う方法で、お金にも働いてもらいながら備えることが大切です。
介護の制度や支援、補助金や助成制度の知識を身につける
また、老後の急な出費を抑えるためにも、介護にまつわる支援制度や補助金、助成金などを知っておくこともおすすめします。現在介護が必要な方も、これから必要になるであろう方も、自分の住んでいる自治体や国でどのような制度があるかを知っておくと、いざという時に活用しやすくなります。
例えば、介護時に自治体からもらえる「家族介護慰労金」や、紙おむつの支給や購入費用の助成、福祉用具のレンタルに・購入にかかる費用の給付、リフォーム費用の補助金や減税など、介護関連ではさまざまな制度があります。こうした制度は知らなければ使うことができないため、知っているのと知らないのとでは、介護や費用の負担が大きく変わります。
老後のお金や介護の心配は尽きないものですが、きちんとお金の準備をし、情報や知識も得て、必要なときにしっかりと対処や手続きができるようにしましょう。